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備前さんぽ#01 日生の海の文化とBIZEN中南米美術館

はじめましての方もいつもお世話になっている方も、こんにちは。
備前⇄東京を行き来しながら活動しているデザイナー・南と申します。

2022年に備前にゆかりあるデザイナー仲間・吉形紗綾さんと出会い「備前で何かしたいね!」と話しはじめ、はや1年…「何からはじめる?備前の発信?商品づくり?場づくり?」やりたいことは色々あって話題は尽きないけれど、「まずは自分のまちを知ることから始めよう!」ということで「備前さんぽ」という企画をはじめてみました!

頭島から見える、日生諸島の風景

自分のうまれたまちって、意外と知らないもの。
「うちの地元にはなにもなくて…」なんてつい言ってしまうけれど、自分の足で歩いて、自分の目で見てみたら「あれ?ここにこんなお店があったの?」「小さな時は気づかなかった魅力が意外とある!」とはっとすることも多いものです。

私自身も心のどこかに「うちの地元なんて…」という気持ちがありました。今更向き合うのがなんとなく気恥ずかしかったりもして、岡山⇄東京往復生活はしていてもなかなか本当の自分の地元にふれる機会が無かったのですが、2023年1月「牡蠣、備前焼、閑谷学校…それ以外にもきっと面白いものがたくさんあるはず…まずは自分の足で歩いてみよう!」と決意して「備前さんぽ」をスタートしてみることにしました。

岡山・兵庫の県境の港町「日生(ひなせ)」へ

最初の備前さんぽの行き先は「日生(ひなせ)」
日生は、岡山県と兵庫県のちょうど県境にある港町。
有名なのはなんといっても牡蠣! 毎年冬に行われるひなせかき祭りには全国各地から人が訪れます(2023年は2/26に開催されるそうです!)。駅前には、小豆島に渡るフェリーの港もあり、日生諸島とよばれる島々にはキャンプ・海釣り・マリンスポーツに人が訪れます。

参加メンバー&この日訪れた場所

この日集まったのは全部で6人+前半車を出してくれた私の母です(笑)

・備前焼の里・伊部のまちあるき本など、備前の仕事も多く手がけるデザイナーファミリー
・2022年末に岡山に移住してきたカメラマン
・備前焼作家の妻として伊部でお店を営み、某コラボ企画も手がけるお2人。この2人とは「BIZEN PRODUCT」という企画でも以前ご一緒しました!

巡った場所はこんなスポットです!

●頭島 外輪海水浴場&SEASCAPE
●頭島 ひなせうみラボ
●COVE CAFEでランチ
●加子浦歴史文化館&五味の市
●BIZEN中南米美術館

【1】SEASCAPE・外輪海水浴場

最初に日生駅前から橋を渡って向かったのは「頭島(かしらじま)」!
ずうっと車を走らせて、島の突端にある「外輪海水浴場」へ向かいました。

なぜここかと言うと、この日残念ながら都合が叶わず参加できなかった、頭島出身のデザイナー・吉形紗綾さんがオープンした海の家「SEASCAPE」があるから。

内装設計会社で勤務後、独立してグラフィックデザイナーとして活動中の吉形さん。SEASCAPEはご自身でイチから設計し、ロゴもデザインし、夏の間は自分がお店に立って営業していたという場所(現在、新たな企画開発中)。目の前に広がるのは外輪海水浴場。この日はお天気も良くて、海が陽の光できらきらしていました。

「ここでいつか水上のダンス公演がしたいな」…なんて野望話も。半円形を描く砂浜が客席、海がステージにしか見えてしょうがなくて、いつかそんな企画も実現させていなあなんて考えました。

【2】頭島「ひなせうみラボ」

次に向かったのは、渚の交番「ひなせうみラボ」。
うみラボは「日本の海洋文化と伝統を守る要」をコンセプトに、地元の漁協や日本財団が一緒になって海洋教育に取り組む拠点です。

かつて日生では、乱獲や工業用水で海が荒れ、魚が激減した時代がありました。そこで、魚たちの餌場であり水を浄化する役割も持つ「アマモ」の再生に取り組むことに。30年以上経つ今はアマモ場が徐々に再生中。小中学生の海の研修所としても選ばれるほか、海洋管理の成功例として大学の研究調査も行われているそうです。

(余談ですが、アマモは別名を「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ(竜宮の乙姫の元結の切り外し)」と言い、植物の名前としては最長だそうです。そしてなんだかいい名前!(日生町漁業協同組合HPより)

2Fには海を見ながら食事ができる「星のカフェ」、1Fにはおみやげ店も。
おみやげには、地元のお醤油やスパイス、お菓子、牡蠣殻とコラボして作った備前焼、そして、リアル牡蠣などが!どこでも牡蠣があるのは、さすが日生です。

うみラボから見える島々のうち「あの島気になる!」と話題にあがった島がありました。

ちょっと変わったかたちの家が並ぶあの島は「鴻島(こうじま)」。
夏のリゾート地として人気があって、高度経済成長期には別荘がたくさん建てられたそうです。今でも使われている別荘もあるし、一部は民宿として営業中。「暖かくなったら行ってみたいね!」と、次回の備前さんぽの候補地にもなりました。

【3】ランチ「COVE CAFE」

ランチは、橋を渡って駅前に戻り、車を2~3分程走らせて「COVE CAFE」へ。広々とした空間で、窓も大きくて気持ちがいい!お昼をとりながら、お互いふだんどんなことをしてるか話しつつ、交流タイムを過ごしました。

【4】加子浦歴史文化館&五味の市

午後は「五味の市」方面へ。市場はお休みでしたが、季節はちょうど牡蠣シーズン。お隣のBBQ場からは牡蠣を焼くいい匂いが漂ってきました。網でがんがん焼くスタイル。これぞTHE港町。

「これ何?」とみんなが立ち止まったのはこれ。
どどどんと積み上がったホタテの貝殻。

季節によっては大人の頭の高さまでどどどどどんと積み上がるこちらは、牡蠣の養殖の準備。瀬戸内海に浮かぶ養殖いかだの下には、これが何本もぶらさがっていて、そこに牡蠣の赤ちゃんがくっついて育つようになっているのです。「これだけあると圧巻!」「裏に照明を仕込んだらこのままオブジェになりそう」なんて言いながらしばし写真撮影タイム。

そんな風景を見ながら「加子浦歴史文化館」へ。ちなみに加子とは船をこぐ水夫のこと。水夫と書いて"かこ"と呼ぶこともあるそうです。

昔この場所にあった大きなお屋敷を活用した資料館で、入口を入ってすぐにある土間から3間続くお部屋ではギャラリー公演やワークショップの会場もできそう…。この奥行きがたまりません。

資料館の中には、日生と海の関係を教えてくれる資料や、和船の模型、地元にゆかりある文化人の代表的な作品が展示されていました。

地域にまつわる本や昔話の資料も。
「日生の観光とキリシタン」は、明治時代に流刑になったキリシタンが暮らした島「鶴島」の事が書かれています。

瀬戸内の島々には、流刑、産廃問題、ハンセン病患者の隔離など、時代と共に向き合ってきた歴史があります。瀬戸内国際芸術祭では、アートと共にそれぞれの島々の歴史や個性にスポットが当たりました。日生の島々も、もしかしたらアートやデザインを通じてそれぞれの歴史や個性を発信できるかもしれません。

【5】歩いてみて気づいたこと

加子浦歴史文化館から次の目的地までは、ちょっと徒歩移動。沿岸の船着場では、漁網を干したり船の整備をする方も。お正月だったので、お正月飾りをつけている船もありました。

(遠いかな?と思ったけど、歩いて行ける距離!普段は両親が運転する車移動だったので気づきませんでした…。運転できないので「誰かお招きしても移動ができないわ」と思っていたのですが、これならどなたかいらしてもまちあるきできそうです)

【6】BIZEN中南米美術館

最後に向かったのは、この日のメインスポット「BIZEN中南米美術館」。
入口では、早速マヤ文明の文字が出迎えてくれました。

マヤ文字がお出迎え
建物の外観を覆うのは、地元の備前焼のタイル!

この日は、美術館の名物館長として慕われる森下さんが、展示の解説をしてくださいました!

そもそも中南米ってどんな国? インカ・マヤ・アステカってよく聞くけどいつの話? どんな国だったの?などの基本知識から、この日開催されていた展示企画・マヤ文明の大河ドラマのような歴史まで、テンポ良くわかりやすく、そしておもしろく!語ってくださいました。

どんなお話をお聞きしたか、ほんの一部だけご紹介すると…

特に印象に残ったのが王族が使っていた「チョコレートカップ」!
写真のカラフルな敷布の右隅にあるものです。

写真で見ると湯飲みサイズのようにも見えますが、実際はとても大きなうつわ。ビールの大ジョッキサイズでした!

当時の王族は、これでなんと1日20~30杯のカカオドリンクを飲んでいたそうです。げふ。

最初に聞いた時は体に悪そう…と思いましたが、当時飲んでたのは甘いチョコレートではなく、ポリフェノールたっぷりの苦目のカカオドリンク。そこにリュウゼツランの蜜やスパイスをまぜて飲んでいて、想像するほど甘ーい重ーいものではなかったそう。

そして体に悪いどころか、このカカオドリンクはマヤの王族に健康を与えてくれました。当時の諸外国の王族が30~40代で寿命を迎える中、マヤの王族だけはカカオのポリフェノール効果で60~70代まで生き、大変ご長寿だったのだとか!カカオの健康効果…あなどりがたし。

こちらは色鮮やかな中南米の衣装。あざやか〜!

日本とは全く違う色彩感覚。文化の違いによる色彩やデザインの違いって面白いですね。
(個人的な感想ですが、中南米の生命力にあふれた文化と、日生の港の猛々しい空気って少し似ているような気もしました)

ところで、マヤ文明で最も「尊い」とされた色ってなんだと思いますか?
黄金? 赤? 紫? いえ、実は最も尊い高貴な色は「緑」!それも「翡翠」のグリーンが尊いとされていました。下の石碑に描かれた王様の服も、緑で彩色されていたそうです。

そして、BIZEN中南米美術館といえばのペッカリー!日生っ子ならみんなが知っている公式マスコットキャラクターで、実在する「ヘソイノシシ=ペッカリー」の像です(お写真は公式サイトから…)

最後にこちらは、儀式用の笛吹式土器。
水を注いだり、瓶を傾けたりすると、鳥がさえずるような、ピピピピともピーーーーとも聞こえる音が鳴るのです。猫や鳥のモチーフがかわいい。
どんな構造なのかは、大学とBIZEN中南米美術館が共同調査を行い、今ではほぼその秘密が解明されているのだそう。

そこで生まれたのがこちら。じゃん。

ペッカリーの笛吹式土器です。

土器といいつつ、実際は備前焼製。
中南米の笛吹式土器の構造はそのままに、お酒やお水を注ぐと美味しくなる備前焼を素材にして作られたアイテムです。

この日は、これを使って赤ワインをデキャンタージュ&実際にどんな音が出るかデモンストレーションをしていただきました。

お酒を飲めるメンバーが少なかったのでワインの量もいつもより少なめで…すると「お酒が少ないよ〜……」とペッカリーの声が少しかぼそくなってしまいました(笑)今度来る時はなみなみ注いで、元気いっぱいの鳴き声を聞かせてもらいましょう!

笛の音を聞きながらデキャンタージュをしてもらい…どのくらいの変化があるかビフォーアフターそれぞれのワインを味見させていただくと…

「全然違う!」
「味がまろやかになってる!」

参加メンバーから驚きの声があがりました。
思いがけず備前焼のすごさも体験させてもらい、本当に充実した見学となりました。

実はBIZEN中南米美術館は、日本で唯一の中南米考古学美術館。
コレクションの幅広さ・貴重さは、なんと東京国立博物館も上回り、収蔵品の数は2000~3000点を誇るそうです。

古代中南米というと、インカ・マヤ・アステカが有名で、よくインカ展なども開催されていますが、実際はそれより500年以上前から古代中南米文明は栄えていたのだとか。たまたま大航海時代にスペイン人がアメリカ大陸に到達した時インカ・マヤ・アステカがあったため、スポットがあたることが多く、その資料や研究は多く残されていますが、それ以前の文明の国内資料は数が限られているそう…。

そんな中で、BIZEN中南米美術館は、古代中南米の全時代・全地域の考古物を取り扱っているため、東京国立博物館に鑑定や収蔵の依頼が来たときも「うちでは難しいけれど、BIZEN中南米美術館なら取り扱えるかも」と紹介されることまであるそうです。

コレクションの1つ。ハチドリのカップ。図柄がかわいい。

なぜ日生にそんな美術館が…?と伺うと、美術館のはじまりについても教えてくれました。

森下さんのご先祖さまは、日生で製網会社を立ち上げた方。国内だけでなく中南米で商いをする機会があり、向こうに行くたびに、発掘物や古代の品を収集して帰ってきたのだそう。それを次代の方も続け、コレクションをより多くの方にも開くため美術館をオープン。現館長の森下さんも、学生時代にはメキシコ大学に留学して中南米考古学を本格的に研究していた経験を持ち、現在も大学などと連携しながら、研究や学会発表を続けているのだそうです。

最初から最後まで新鮮な驚きを与えてくれたBIZEN中南米美術館。
見学を終えた後は、美術館目の前の焼肉屋さん「きらく」で、晩御飯&新年会をして〆とさせていただきました。

来てくださった皆様・それぞれの場所を案内してくださった皆様、1日本当にありがとうございました!

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おわりに&次の備前さんぽは?

第1回備前さんぽのレポート、最後までご覧いただきありがとうございました!

生まれ育った自分のまち。自分の足で歩いてみて、改めて気づいたことがたくさんありました。そしてはじめて訪れる方の目を通じて「こんなこともできるかも?」と感じたことも…。

次回は、片上&伊部編を3月後半に行う予定です。
そのレポートもまた改めて!そちらもぜひチェックしてみてくださいね。


(2022/2/20  南)

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