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備前さんぽ#02-2 備前が生んだ現代アーティスト・林三從 〜地域×アートを繋ぐプロジェクトの先駆者〜

この記事では、片上を拠点に活動した現代アーティスト林三從(はやしみより)さんと、林さんが過ごしたアトリエ兼記念館「ホワイトノイズ」について紹介します。

みなさんは、瀬戸内国際芸術祭より10年以上前に、地域×アートを結ぶプロジェクトを立ち上げ、10年にわたり旗を振り続けたアーティストが備前にいたことをご存知ですか?

亡くなった後も『美術手帖』女性たちの美術史特集(2021年)でその名が紹介され、回顧企画も何度も行われている、日本の美術史に名前を残す作家のひとりです。

『美術手帖』女性たちの美術史特集(2021年)

その存在をもっと知ってほしい、むしろこれを書いてる私自身が知りたい!と思い、このレポートでは林三從さんについて、アート作品や「備前アートイヴェント」というプロジェクト、三從さんを知る人の言葉も借りながらご紹介していきたいと思います。

片上の旧家の長女に生まれて

1987年~1997年、当時の人口3万人の小さなまち・備前で先進的な現代アートのイベント「備前アートイヴェント」が開催されていました。

そのディレクションを手掛けたのが、林三從さん。

1933年に岡山県備前市西片上で生まれ、1950年代後半から2000年に亡くなるまで先鋭的な活動を展開した前衛芸術家です。

市内でも有数の旧家の長女で、高校時代にジャン・コクトーの映画に影響を受け「詩的イメージの強い映画を作りたい」と日大映画科を目指しますが、親の反対で断念。その後、紆余曲折を経ながらも美術を学び、岡山、東京、海外の作家とも交流を広め、アーティストとして実績を積んでいきます。交流を深めたアーティストの中には寺山修司やオノ・ヨーコもいたそうです。

過激で前衛的なパフォーマンス、
繊細な表現のメール・アート

三從さんの作品として特に有名なのは、車をクレーンで吊り上げ、中に乗った人が全裸となり、落下させた車に火をつける過激なパフォーマンス「AIR PLANE EVENT '72」と、小型飛行機からマリファナであることをほのめかす種子を岡山市上空から蒔く「GREEN REVOLUTION」です。
あまりの過激さに、どちらも始末書モノになっています(その始末書すら作品の一部に。ただでは起きません)

しかし、そんな前衛的で過激なアートを繰り広げるかたわら、遠くの知人友人に一通一通手紙で届ける、こぼれおちそうな繊細さの「メール・アート」という作品づくりも続けました。

「AIR' PLANE EVENT '72」(1972) 右は始末書。
「GREEN REVOLUTION」(1971)
右上の薬袋のような種子袋には「MARIFANA」の文字が。左は始末書。
「メール・アート」の断片。
メール・アートは、様々なデザイン、文体、内容やテーマで残されています。

瀬戸内国際芸術祭の20年前に始まった
地域とアートを繋ぐ「備前アートイヴェント」

以降、美術館やギャラリーの中に整然とおさまる展示ではなく、音楽・演劇・映像などジャンルを超えたパフォーマンスやイベントを制作し、現代アートの第一線で活躍しました。

そして、1987年〜1997年には「備前アートイヴェント」のディレクターに。地域の人々や、国内外のアーティストを巻き込み、備前という小さなまちを舞台に先進的なアートイベントを展開しました。

三從さんは、たくさんの人を巻き込み"共に作る"こと、その場で起きた"出来事・状況・シーンを共有する"ことを大切にし、アーティストや主催の商工会議所だけでなく非常に多くの地域の人を企画・制作・宣伝・運営に巻き込みプロジェクトを進めました。

「備前アート・イヴェント」のポスター

『Miyori-Bizen-Art』映像に残っていない1987年「海上のエリック・サティ」の写真や、林三從さんの言葉と画像を編集した映像を挿んで、11年間をぎゅっとダイジェストした紹介動画です。 【映像・写真・資料提供】 林三從ミュージアム(705-0021 岡山県備前市西片上40 086-963-3578)

Posted by 備前アートイヴェント・アーカイヴス on Tuesday, May 11, 2021

コンテンポラリーアートは一体、市民生活の中でどのように機能し、必要性を求められているか。それはほとんど皆無でしょう。殊に「地方」にとっては、在っても無くても良いどころか、むしろ不要とさえいえるモノ・コトです。
しかし、敢えて私は10年に及んで、この「状況」をこの土地と市民生活の中に展開させてきました。この備前の「風土」の中に私自身が棲み、アートを地平に拡げたいーと希求してそれを志事とし続けていたからこそ結実していった「状況の創造行為」であったと。

2000年・備前アートイヴェントクロニクル 発送に添えた手紙より


そして2000年12月。
三從さんの知人友人のもとに一通の手紙が届きます。

それは「メール・アート」ではなく、彼女の遺言でした。病気を患い人生の最後を予期した三從さんは信頼する人に手紙を託し「自分が死んだらこれを郵送してほしい」と遺して息を引き取ったのでした。

林三從さんが生きた足跡をたどって

そんな方が備前にいたことを知ったのが2023年1月。
私自身偶然にもアートイベントやアートプロジェクトに関わる仕事をしていたため「こんな人が備前にいたなんて!」と衝撃を受けました。

「ぜひ見学に行きたい!」と思い立ち、ホワイトノイズにご連絡。すると「この本を読むと、三從さんのことがもっとわかると思うから」とこちらの本を送ってくださいました。

林さんの作品や人生、直筆のメモ、同時代のアーティストの声が詰まったブック。
ホワイトノイズで購入できます(郵送も可能)
直筆メモの数々。

この情報量は…確かに事前に読み込んだ方がよい!
ご提案くださったことに感謝してじっくり読み込ませていただきました。

さあ、次の記事ではいよいよホワイトノイズを訪れます!


こちらはWEB上で見れるアーカイブのご紹介と、見学情報です。

■備前アートイヴェント・アーカイブ(動画・PDFドキュメント)

※こちらのアーカイブは、備前アートイヴェントにも参加された白神貴士さんが制作されたものです。


ホワイトノイズ 林三従ミュージアム
〒705-0021 岡山県備前市西片上40(JR西片上駅から徒歩7分)
見学をご希望の方は必ずご予約の上訪問ください。
o9o-6837-1562(現館長の林様直通、oを0にして発信ください)
林三従アート集成「MIYORI PROJECT」(¥4000+税、A4変形310P)販売中


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