Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.6 2021/1

 このnoteマガジンもついに越年。足掛け2年目に突入。今年もヨロシコ。

コインランドリーで朝食を/西平麻依(まいも)

 内容と文章のトーンを合わせるのは難しい。青春モノには青春モノに合った文体があり、言葉選びがあり、笑顔とほろ苦さをそういったあれやこれやで包んで「ほれっ」と読者の前に差し出さなくては『若者の物語』には見えない(というか「読めない」か、この場合は)。

 作者のまいもさんがお幾つなのかは知る由もないが、その点、この作品のタッチは素晴らしい(と思う)。特に、文章のリズムが良い(と思う)。こねくり回したババアの厚化粧みたいな感じがなくて、若い(伝われ!)。

"異変はそのすぐ後に起こった。
———ガコン、ピー。
いやな音がして一台の洗濯機が止まった。”

 冬の朝のコインランドリー。物憂げな風景の描写が続いた後のハプニングを告げる3行。必要最小限の描写で読者の耳に音が聞こえ、緊張を走らせる。三人の若者がそれぞれに表情を変えるのまでが目に浮かぶようだ。

 ところが、だ。

 まあ、達者な筆さばきのくせにクライマックスでは何が起きたのかまったく伝わってこない。てか、意図的に伝えてないんだけれど、そこがニクいんだなあ。気になったなら、さあ、読んでくれ。面白いよ。そして、何だか甘酸っぱい。東京が舞台の20歳のストーリーにふさわしい言葉の紡ぎ方だよ。

豆腐がプールで泳いでる!/み・カミーノ

 あっけなくお話が終わる。というか、ストーリーの続きが綴られていない。お預け。それがこの作品のテーマだ。世界中でたくさんの人たちが、自分たちの人生の続きにお預けを食ってる。たくさんの人生がぷかぷかと宙に浮いたままになってる。豆腐がプールで泳いでいるように。

 この作品を読み終えたら、カミーノさんが楽しく湯豆腐をお友達と食べられる日が来ることを祈ろう。てか、湯豆腐食いてえな、おい。

カワセミカヌレ/拝啓 あんこぼーろ

 ガサツな言葉で好きなことを書いてるこの短編小説批評も、半年ほど続けていると読んでいて胸が詰まるような作品が幾つかある。それはテーマが深い考察を促したり、文章のテクニックが琴線を震わせたりするから。

 でも、この作品の気持ちの揺さぶり方は違う。

 14歳の女の子がぽぽろぽぽろと涙の粒を落としながら何を言ってるか分からないぐらいに取り乱してしまう様を、少女のセリフだけで表現してしまっている。まるで、目の前で泣かれたように。そのリアリティが胸を打つ。

"ばあちゃんおらんなんて信じられんばあちゃんわからん"

 引用しそこねてはいない。句読点を抜くことで少女の嗚咽を、慟哭を見事に『表現』してる。そして、だだだだだと続く音たちが、読者がそれぞれ持っている身近な「泣く少女」の思い出を引っ張り出してきて、文章の向こうに据える。さあ、見ろ。聞け。お前も泣け、と言わんばかりに。脱帽。

 佳き作品は人の心を揺さぶり、時として手を動かし、新しい作品を生む。いわゆる「インスパイアされる」つーやつだな。『カワセミカヌレ』を読んだうわの空さんなんて、作品に登場するベーカリー喫茶「ori hoshi」のロゴを刺繍で作っちゃった。こういうの楽しいよねえ。

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 何だか今回は女性が主人公のお話ばっかりになっちゃったなあ。

 そんな訳で、今月はこの女性シンガーの曲でお別れ。浜田真理子さん、優しい声で良いっスよ。

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 noteマガジン「Sweet Stories Scrap(SSS)」はnoteに発表された短編小説から、独断と偏見で選ぶ『ステキな小説のスクラップブック』。月イチで3つ選んで批評を加えて配信中。気になる作家・作品はすぐに教ぇーてっ✌

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