Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.12 2022/1

 あっという間に年を超えました。謹賀新年。昨年は結局一年を通してコロナコロナって言ってた訳で、何ともまあ辛気臭い一年としか言いようがなかったですな。誰に文句を言っても始まらないんだけれど。さっさと終わってくれないかなあ、コロナ。ほんとに。

 では、今月の3本。

連なる漁火ノスタルジー/水月

 この冬らしい一遍には、最後の段になって「ハナゴンドウ」という名前が出てくる。どうしてこの言葉を選んだのかは知る由もないが、漁火をテーマにした小説らしく海の生き物を持ってきたのだろうか。そう思わせる丁寧な言葉の選び方が他にも感じられる(えっ、オレだけ?)

 例えば「台湾花布」。物語の話し手である『俺』が織物の仕入れのために台湾に駐在していた時の商材。別に「現地の織物」でも文意は通じるのに、敢えてというか、ちゃんと台湾の特産品の名前を具体的に挙げて書く。そうすることで「ああ、あれか」と頭の中に絵が浮かぶ人もいるだろうし、「何だろう、それ」と興味を持つ読者もいるだろう。いずれにせよ、その時点で読み手は一歩踏み込んでこの文章を読むことになる。

宇宙が真下にあるような、変な感覚になったよ

 三人のきょうだいが訥々とセリフを吐いて進んでいくシンプルな作品で、この言葉が後で効いてくるなんて思わなかったのだけれど(実際、読み返してみるまでは、この言葉が伏線になってるなんて思いもしなかったけど)、物語は後半部分で一気にスケールが大きくなる。そしてまたすぐに「漁港近くの実家」に意識が収まって、そこで暮らしていた頃の幼いきょうだい三人の姿が、海の沖に浮かぶ漁火のように読者の心の中にほんのりと浮かぶ。

 好いのよねえ。その揺さぶられ方が。宇宙から、実家の居間へ、そして海の沖へ。この短い文章であちこちに意識を振り回される感覚が。

文字数制限/与井杏汰

 もう、これは発想の勝利ですな。

 文字を使うことに政府が制限を加える――なんて奇想天外。「なんやねん、それ。ありえへんわ」と思いつつも、でも面白いと感じる自分の気持ちに逆らえなくなっていく。それは文字数制限の理由が真っ当だからだ。

本当に必要な情報や価値のある文章へのアクセスが困難になるという社会問題を生み出した。

 現在、我々が生きている社会では実際その通りだよねえ(誰だよ、このレビュー自体が価値のない文章だなんつってるのは!)。現実社会の問題点を踏まえた上での空想って、優れた未来小説が持ち合わせているべきポイントの一つだけど、その点、ズバッと的の真ん中を射抜いてくれて痛快。

 この作者の書くショートショートは着眼点が良くってオススメ。いちいち世相を皮肉ってるところも面白いんだよねえ。

最後の僕ら。/透香

 ペンネームが気になって読む作品もあるけど、この作品は昨年末に「何か時期的にクリスマス・ネタ読んどこうかな」と思って、読み進めたものだから書き手のイメージは白紙のまま読み始めて、物語の内容から言っても男性が書いたものかとばかり思ってた。何なら体験談なのかな、ぐらいに。

 違うんだ――。

 ペンネームは透香さんだし、プロフィール写真だって女性の姿だし、他に書かれている文章も、断定はしてないけれど女性らしさが感じられるもん。

 それなのに。女性なのに、このストーリーに登場するような不器用な男性から見える風景を、心情を、実に的確に書いていることに驚愕する。「女ってこんなに男のことを冷静に見ているのか」とも思い、恐ろしくすらなる。でも、そう思って(作者が女性だと認識してから)改めて読み直すと、合点がいく表現もある。

それ以外に何も言わないことが、彼女の優しさなのだと気づいた僕は、彼女の茶色い目を今日初めて見つめた。

 実際には「彼女の優しさ」に気づく男は少ない、んじゃないかな。最近のナイーブな若年男性諸氏だと多少はカイゼンされたのかもしれないが、この表現に作者が込めた気持ちは「気づけよ!」ってことなんじゃないだろうか。よくよく考えると、男がこんな風に書くとしたら「オレって気づける男なんだぜ」って感じがして、書いててちょっと気恥ずかしいかも。

 気づけてたかなあ、オレ――遠い目(老眼)。

🍌 

 という訳で――。
 休載期間も含めて2020年の8月から続けてきた、このショート・ショート・レビュー企画『Sweet Stories Scrap』ですが、今回をもって終了します。今まで読んでくれた人、そして何よりたくさんの作品を書いてくれた作家の皆さんに感謝します。今までホントにありがとさん。
 では、この曲でお別れです。
 また、いつかどこかで。じゃあね。

🍌

noteマガジン「Sweet Stories Scrap(SSS)」はnoteに発表された短編小説から、独断と偏見で選ぶ『ステキな小説のスクラップブック』。月イチで3つ選んで好き放題な批評を加えて配信していました。(2020/8-2022/1)

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