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ショートショート集

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ステキなビリーさんたちの小説寄りのなんやかんや集めておきました。 しまっていこーーー。
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記事一覧

ショートショート「春になれば私は」

「なにそれ」  私を見るなり、不思議そうに眉をひそめた。きょとんとしているんじゃなく、ま…

ビリー
1年前
26

短編小説「うそつき」

 お腹空いてるでしょう?  返事を待たずに私はテーブルをお皿で埋め始めた。バターで炒めた…

ビリー
1年前
41

短編小説「夏の恋」

「雨です」  私はそう呟く。声にはしないように気をつけて、思わず外に出そうになったそれを…

ビリー
1年前
52

ショートショート「赤い紙」

 ラジオに耳を傾けると今日も昨日と同じニュースが流れていた。雑音が混じってうまく聞き取れ…

ビリー
1年前
60

「冬の朝」

 子猫を咥えたカラスは東に灯り始めた太陽に突き刺さろうと、雲の切れ間の青みがかった朝焼け…

ビリー
1年前
33

短編小説「その彼女」

 大きく一息。体のなかの酸素と二酸化炭素をすべて吐き終えてから、小さく吸い直して、やっぱ…

ビリー
1年前
35

短編小説「その彼」

 右から一歩、左で二歩目。そして、また、右足。見下ろす。いつの間にか、汚れた爪先。聞こえる、踵に擦れる砂音。一度、目を閉じて、再び、開く。南から波の音。規則正しく、一定間隔で届く。深呼吸を二度。背中に木々が擦れ合う声。  もういいかい。まだだよ。いつのことだろう、懐かしい誰かの声が聞こえた気がした。もう一度、聞きたかった。片手にヘッドホンを抑える。  もういいかい。  まあだだよ。  そう声にした。誰がいるわけでもない。虫もいない。鳥もいない。もちろん、人もいない。 僕以外は

短編小説「世界の終わり」

「帰りたいんだ」  たどたどしい日本語で男はそう言った。帰りたい、それが彼と彼の仲間たち…

ビリー
1年前
43

短編小説「夜を欲しがる」

 私たちは幸福な夢を見ることに慣れてはいない。  私たちは幸福な夢を見ることに慣れはしな…

ビリー
1年前
40

短編小説「ノー・サプライゼス」

 振り返ると揺れる茶色の髪。潮風と水平線。空も海も、無条件に青い。一切の留保もなく、ひた…

ビリー
1年前
42

短編小説「泡沫」

 遥か高く。そして遠く。手を伸ばしたところで届くはずもないのに、まるで眼前にあるかのよう…

ビリー
1年前
54

「思想犯」(#ショートショート)

 男は語り始める。ほどよく鍛えられた無駄のない痩身をストライプのシャツが包んでいる。細い…

ビリー
1年前
31

連作短編「おとなりさん」#3

第三夜「お母さん」  魔のイヤイヤ期という記事を見つけては片っ端から同意して、ため息をつ…

ビリー
1年前
27

連作短編「おとなりさん」#1

第一夜「おとなりさん」 「一杯目はビールにしようよ」  メニュー表を愛おしげに、しかし、やっぱり睨みながら左隣に私は話す。姿勢を変えず、目だけでちらりとその横顔を盗み見る。少し痩せたみたい。頬の下の影が深くなったんじゃない? ちゃんと食べているのかな。根を詰めて仕事しているのだろうか。きっと、してるんだろうな。でも、私はそのことには触れずに目の前に広がる美味しいものたちのことを考えることにした。いま、たくさん食べればいいのだ。 「ビールいいね。それから、なに食べる?」  お