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「ビジョンのデザイン」とは何か

私たちBIOTOPEは、自分たちのことをストラテジックデザインファームと名乗っています。2015年に創業して以来、100社以上の企業と共に「広義のデザイン」の仕事をしてきました。

ここでいう「広義のデザイン」とは、前例の無い取り組みを実践するために、理想の状態を自分たちで定義し(Strategic)、そこへ行くための道筋を手を動かしながら作っていく(Design)営みのこと。

最初は、新規事業作りやブランドデザインの伴走をすることが多かったものの、この領域は徐々に拡張しつつあると感じています。そこでこの連載では、拡張し続けるストラテジックデザインの現在地を、最近のBIOTOPEの活動を交えながらご紹介していきます。

BIOTOPEが提供しているストラテジックデザインは、大きくまとめると以下の4つの領域に分けられます。

①ビジョンのデザイン
②理念のデザイン
③組織文化のデザイン
④ビジネスのデザイン

それぞれの領域については今後noteで紹介予定。まず本記事では「ビジョンのデザイン」について。


すべては、ビジョンから

「非連続的な未来を考えるには、既存の事業の延長上からでは難しい。10−15年先を構想し、そこからバックキャストして考えていきたい」

「オープンイノベーションを推進しようとしているが、協業企業と話をすると、"あなたの会社は何を目指しているのか”と問われることが増えた。自分たちが未来に実現したいビジョンをて伝えていくことで、初めて協業がうまくいく」

「今までは3〜5年先の計画をたてていたが、既存の事業モデルから抜け出ることが難しく、10〜20年の長期ビジョンを立案し、構想と実装のサイクルを早めていく必要性を感じている」

上記は、実際にBIOTOPEへ来た相談の一例です。大手企業の代表取締役から事業部単位までレイヤーはさまざまですが、いずれも「ビジョンをつくる」ことによって解決するケースが非常に多いです。市場予測がしにくい時代だからこそ、羅針盤としてのビジョンを構想し、遠くにある北極星を見つめながらプロトタイプを繰り返していくような営みが必要になっているのだと、特にここ最近は強く感じています。

いままでだと、ビジョンは新規事業やR&Dなどいわゆるイノベーション部門において必要とされていました。しかし最近は、経営企画やCEO・CSOなどの経営・役員レベルが主導して、全社に導入していくような動きが起こってます。

「視覚」にまつわるビジョンづくり

経営・役員レベルを巻き込んだビジョンデザインの事例をご紹介します。

以前BIOTOPEでは、参天製薬とブラインドサッカー協会の10年間の長期パートナーシップのビジョン作りを支援しました。参天製薬とブラインドサッカー協会が共に新規事業を作っていくための基盤となる「視覚障碍者が生きやすい世の中を作る」という志を共創する取り組みでした。

参天製薬にとってはSDGsの一環でもあり、ブラインドサッカー協会にとってはビジネスセクターとソーシャルセクターが協業することで社会インパクトを最大化する、新しい座組みづくりへのチャレンジという意味合いも持っています。

BIOTOPEでは、2社の社長や経営陣を含む約15名と3回のオンラインワークショップを実施。一人ひとりの想いや社会課題に対する意識を引き出し、2社のパートナーシップによって実現しうる事業を構想しました。

そして、最終的にできたビジョンが「"見える”と”見えない”の壁を溶かし、社会を誰もが活躍できる舞台にする」というものです。

ビジョンを絵や言葉に落とし込むときには、実現していく事業によって社会課題が解決されていく道筋を描く必要があります。そこで、事業が生み出す良循環マップ(以下)を作り、各事業の意義やKPIについて明確化するような取り組みも行いました。

この取り組みは、VIS-ONEというプロジェクトになってリリースされ、さまざまな協業に加え「VIS-ONEアクセレレータープログラム」によって、Inclusive Innovationのプレイヤーのプラットフォームになろうとしています。

このプロジェクトの詳細については、参天製薬の中野さん・ブラインドサッカー協会のインタビュー記事があるので以下をご覧ください。


ビジョンをデザインするためには

BIOTOPEがビジョンデザインのプロジェクトで大事にしていること。それは、一人ひとりの意志や未来にわくわくできるような物語を引き出し、それらを素材としてイラストやストーリーという形で可視化・統合することで、魂のこもったビジョンを描くことです。そのプロセスは場面によって異なりますが、典型的なステップは以下の通りです。

①一人ひとりの強みを再発見する「ポジティブインタビュー」
非連続的なビジョンを考えるには、自分自身の強みに焦点を当てることが有効です。そこで活用するのが、ポジティブ心理学の方法論を活用した「ポジティブインタビュー」です。過去最高の体験や、自分が強みを発揮できた経験を振り返りながら「強みを最大化することでできるかもしれないことは?」などの問いに答えていくと、自然と現在の自分の枠を超えて、未来志向で物事を考えられるようになってきます。

②長期的な変化トレンドを理解する「メガトレンド分析」
未来を構想する上で、外部の影響を見ることは非常に重要。ここでは、PESTE(政治・経済・社会・技術・環境)などの10〜20年先の未来予測資料や、クリエイターなどの層が関心を持っている3〜5年のトレンドリサーチを未来の兆しとして活用し、インプットすることで未来への解像度を上げていきます。

③理想の状態に対する解像度を上げる「未来ヘッドライン」
自分たちの活動が将来メディアに取材された時にどのように取り上げられるかを想像して、「未来の新聞のヘッドライン(=見出し)と本文」を書いてみるワークのこと。個人の未来と、組織の未来を重ね合わせるために有効なのが、未来を「物語」のフォーマットで表現すること。参加者から出てきた未来ヘッドラインを、時系列順に並べて年表をつくれば、自分たちの組織が望んでいる未来の物語を描けるようにもなります。

④ビジョンを体現する「事業アイディエーション」
事業アイディエーションは、自分たちのビジョンを体現する事業・サービスのアイデア出しをすることも、ビジョンの解像度を上げていくときに非常に有効です。アイデアスケッチのようにビジュアルも活用しつつ、ビジョンが体現された事業アイデア群を出し、それをまとめていくことで、実現可能性が高い機会領域も自然に見えてきます。

⑤個々のビジョンを統合する「ビジョンマンダラ」
ステートメントなどの言葉だけでは、ビジョンの具体的なイメージが湧きにくい。そこで、ビジョンを具体的に実現したい事業群が統合された「マンダラ図」のようなビジュアルとして表現します。そうすることで、自分たちの実現したいビジョンの世界観や具体的なイメージを共有していくことができるのです。

⑥一人ひとりのビジョンを物語に統合する「ビジョンストーリー」
ビジョンは、ビジュアルとストーリーがあって初めて伝わるようになります。さまざまなワークを通じて引き出してきた素材をもとに、誰もが読めば理解・共感できるようなストーリーの形式にして編纂していきます。

これらのステップを経ることで、一人ひとりが心からわくわくするビジョンを引き出しつつ、解像度を高めるためのビジュアルやストーリーに落とし込みながら統合をしていくことが、ビジョンデザインの典型的なプロセスになります。

ビジョンデザインの応用

いまやビジョンは、一部の先進層だけのものではなく、幅広い人々にとって重要なものになりました。以下はビジョンデザインが効果的で、かつ最近相談が増えてきているケースです。

1,事業や会社全体の長期ビジョンのデザイン(10〜20年)
上場企業の未来構想・実装の活動は、その多くが「中期経営計画」として社内外に共有されています。しかし、それではビジョンではなく「計画」になってしまい、事業モデル自体の変革まで思考が及びません。10〜20年スパンのビジョンを考えることで、自社の資源や事業モデルの見直し、新たな事業創造につながるのです。そしてそれは、既存事業のマネジメントを超えて、価値創造をマネジメントしていく経営の実践にもなります。長期ビジョンは社内のみならず、株主に対しての社会における存在意義を伝えていくときにも効果を発揮し得ます。

2,新規事業やR&Dのビジョンのデザイン(5〜20年)
新規事業開発やR&Dなどのイノベーション部門において、ただ飛んだアイデアを出していくだけでは骨太の事業はできません。特にDXやメタバースといった社会トレンドに関わる事業作りは、最終的に自分たちが作りたい顧客体験やその背後にあるビジョン・哲学などを明確化することで、単なる一過性ではないより骨太な新規事業づくりにつながります。

過去BIOTOPEは、東急(株)のCity as a serviceの新規事業の支援を行った。街づくりにおけるDXを行う上での理念や、ビジョンをまとめる取り組みでしたが、現在は地域共助プラットフォームアプリ「common」という形で実装が始まっている。

3,スタートアップの長期ビジョンのデザイン(5〜10年)
スタートアップは、将来実現しうる未来像やビジネスモデルが企業価値に直結します。そのために、自分たちの意思と実現したい未来=ビジョンを持つことは資金調達や採用などあらゆるシーンにおいて有効になってきます。

BIOTOPEは、VUILDの新規事業家づくりプラットフォームNestingの事業開発の支援をしているが、当初のビジョン作りから関わった。ポスト資本主義の住まいをつくるというnoteでビジョンを包括的にまとめた上で、事業開発に着手した。
https://nesting.me/

4,自治体の長期ビジョンのデザイン(10〜50年)
自治体が街づくりのビジョンを作るケースが、ここ最近増えているように感じます。特に地方自治体は、人口減少などによって今後財源が厳しくなっていくなかで、ビジョンを発信して移住者を招き入れたり、ワーケーションなどの文脈で企業を誘致するような活動が有効になってきています。ビジョンのある街には、それだけ良い人や企業が集まってくるし、結果的に街の価値も高まっていくのです。

村民参加型による白馬村のサーキュラービジョンを立案することを支援した。
https://biotope.co.jp/project/2022/04/12/3175/


ビジョンを共創していく時代

BIOTOPEでは、3月29日にMIT Medialabの副所長石井裕氏と共同で「VISION DRIVEN SUMMIT」というオンラインイベントを実施。先が見えない時代だからこそ、ビジョン駆動で進んでいくことが重要だというメッセージを込めて企画をしました。

そのなかで、石井先生からこんな話がありました。

「ビジョンをつくるためには自分自身の美学や哲学を問うていくことが大事。ビジョンはひとりでもつくれるかもしれない。でも、自分自身の美学や哲学は曖昧であり、ひとりで明確化するのは非常に難しいことでもある」

BIOTOPEは、過去さまざまなビジョンデザインプロジェクトに伴走しながらビジョンを明確化してきました。言語化できていなかった想いや価値観を、問いやワークショップを通じて引き出し、それをデザインの力で可視化することを通じてビジョンの具体性や解像度を上げること。そして、事業や戦略、個人の意思と統合するプロセスの支援こそが、ビジョンにデザインを掛け合わせることの価値だと感じます。

実は、ビジョンに対する投資は、その後の事業創造・経営・組織文化づくりなどあらゆることに効いてくる、無形の経営資源への投資でもあります。

ビジョンの必要性を感じている企業やスタートアップ、自治体の担当者のみなさん。ぜひお気軽にご相談ください。


text by Kunitake Saso
edit by Ryutaro Ishihara

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