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事業戦略から行動変容まで、一気通貫で支援したトランジションデザインの裏側|三井不動産 ワークスタイル推進部

三井不動産の法人向けシェアオフィス事業 ワークスタイリングを展開するワークスタイル推進部では、ビジネスモデルの転換を進めています。BIOTOPEは、人的資本の増大を中心に、シェアオフィスに入居する企業の企業価値を中長期的に向上させていく不動産ビジネスへのトランジションを事業・組織の両面からワンストップで伴走しました。

事業と組織の両面から一気通貫した変革を試みた今回のプロジェクト。トランジションの実現を事業面から支援した栗岡大介さん(BIOTOPE外部パートナー)と、組織が大切にする価値観の言語化とクレドの策定・導入を率いた押野直美(BIOTOPE COO)が、そのプロセスや意義について語りました。

シェアオフィス事業の価値源泉を「場」から「人」に移行するために

栗岡大介(以下、栗岡):今回のプロジェクトで、私は事業戦略の立案と計画の策定を行いました。すべてのワーカーに「幸せ」な働き方を、という「人の可能性」を事業の根幹に置いたパーパスがすでにあり、それをもとに三井不動産のシェアオフィス事業のビジネスモデルの変革について様々な方々と議論を重ねて行動していました。

押野直美(以下、押野):栗岡さんによる事業計画の策定に並行して、私の方では組織の価値観の言語化とクレドをつくりました。組織の価値観もクレドも、綺麗な言葉を並べるだけでは意味がありません。事業計画を絵に描いた餅に終わらせないために、ワークショップなどを通じて事業の主体となる関係会社の行動を新しくするための導入も実施しました。

背景を少し話すと、三井不動産の ワークスタイル推進部内では、2022年6月にパーパスを策定し、7月から栗岡さんと中長期のビジネス創出の議論を進めていました。その過程において、シェアオフィスの利用企業による人的資本経営の実践を支援するビジネスモデルへの移行の意思決定とともに、ワークスタイリング事業に関わるメンバーの考えを変えていく必要性が高まっていったのです。

幹部層で検討していた事業戦略と平行して、BIOTOPEでは、三井不動産とグループ会社の現場の運営メンバーを集めて、大切にしたい価値観の言語化とクレドの策定を行いました。その後、この2つが揃ったところで戦略の背景から戦略実行のために各プレイヤーの行動を後押しするためのワークショップを複数回実施し、なぜこの戦略なのか、なぜこの行動なのかを丁寧に伝える場を持ちました。

不動産王道のビジネスモデルからの脱却、サービス業へ

栗岡:私の方では、ビジネスモデルの変革に向けて、まずコアメンバーと不動産業界の動向や、国内の不動産業界のリスクについて議論・整理しました。

第一に、国内金利の上昇の可能性。金利が上昇し資金調達が難しくなることで、不動産業界にとってネガティブな影響が生まれます。第二に、コロナを機にライフスタイルが変わり、オフィス需要は低下。出社するにしても、「働くだけの場」から「コミュニケーションやアイデアを創発する場」などオフィスの用途は変化しています。この変化に対応できない事業者は窮地に立たされます。

お客様、ひいては社会がオフィスに求めるニーズは明らか。それは、セキュリティを必須条件に、「“働く”を楽しくしたい」ということ。業種や業界を越境し、出会いによってアイデアが創発される環境に身を置くことを求める人たちが急激に増えています。

ワークスタイル事業は、シェアオフィスを提供する、言い換えると「空間を貸し出す」事業です。しかし、こうした環境の変化を追い風に、お客さまや社会が求めるコトを提供し、課題を解決するサービス業にビジネスを変えていきましょうという議論を重ねました。ハードとソフトの両面から、新たな出会いと機会を提供することができれば、さまざまな社会課題を解決しながらビジネスを成長させることができると確信したのです。

押野:この話を聞いて、不動産業界に長年根付いてきた商習慣や構造、平たくいうと事業者間の「関係を刷新する」必要性を感じました。今回の場合は、事業・ビルディングの所有会社である三井不動産と、場の運営会社である三井不動産ビルマネジメントの関係性です。

一般的に、ビルの運営会社は、空調の故障のメンテナンス、共用部分の清掃、賃料の支払い管理などが仕事であり、ビルの所有会社は、オフィスに入居した企業の従業員とは接点を持たずに経営をしてきました。

それがいきなり「サービス業として会員企業の従業員の働き方に価値を提供する」というのは、現場で働く方々にとってはすごく大きな変化。仕事内容も、両社間のコミュニケーションもがらっと変わります。

そこで、価値観の言語化とクレド策定のプロセスでは、ビジネスモデルを変化させた先にある理想の組織の姿を描き、両社の関係性を再定義しながら進めました。

また、今回のプロジェクトでは、ワークスタイル事業に関わるすべての人の意識を変えることを目的としました。クレドを通じた行動変容で重要になるのは、意識変容です。参加者は2つの会社、そして3つの職種から集まっていただきましたが、それぞれの立場から見える景色に合わせて内容を変え、ワークショップを開催しました。

クレドの「挑戦」は、内発的なビジョンとビジネスモデルの重なり

押野:導入フェイズでアプローチしたのは、変化の必要性に気づくことと、変化後の自分たちの姿を描くことの2つです。

策定したクレドには「自分からはじめよう」「前提の箱から飛び出そう」という言葉がありますが、これは今回の取り組みを象徴する言葉だなと感じます。

人が自ら進んで試行錯誤し、新しい価値を生み出していくためのクレド


栗岡
:そうですね。日本の大手企業が入居するシェアオフィスで重要なことのひとつは、固定概念を打ち破って「挑戦」ができる環境。その挑戦を促すのは、個々人が自由に、のびのびと才能を伸ばし、業種や業界を軽やかに越えていくことです。

少し話が変わりますが、いま日本企業が抱える課題でありチャンス、それは「無形資産の活用」です。有形資産は、机、機材、機具、工場など。対して、無形資産は人間。人間が醸し出す雰囲気であったり、文化であったり、人間そのもののことです。しかしながら「失われた四半世紀」の中で、多くの日本企業は人材への投資を怠ってきました。

有形資産に目が行きがちですが、工場を動かすのも、機械のボタンを押すのも、AIが作ったToDoリストを実行するのも人間です。昨今のAIツールの発展により業務効率は向上するでしょう。では、企業や組織はどのように差別化を図っていけばいいのか。私は改めて、人の可能性について立ち返ることが必要であると考えています。

三井不動産に対しては、「日本企業がこれまでできなかったことを、このワークスタイル事業でやりましょう」と伝えてきました。それこそが人への投資、無形資産の活用です。最近の言葉でいうと「人的資本経営」や「Well-being」になるかもしれませんね。

私たちの取り組みは、会員企業の従業員のWell-beingを向上することで、入居企業の人的資本経営を実現するものでした。Well-beingというと、安心できて心地よく過ごせる状態を想像するかもしれません。しかし私たちは、コンフォートゾーンに留まるだけでなく、挑戦し変わり続けることがWell-beingに貢献するのではないかという仮説を立てました。

押野:クレド策定のキーワードになった「挑戦」は、こうした事業戦略の文脈から出てきた言葉であるのと同時に、策定のプロセスに参加した人々が持っていた内なる想いでもありました。また、浸透のプロセスでも、トップダウンで作られた新たなビジネスモデルのありかたと、一人ひとりの内発から湧き上がる「こうしたい」「こうありたい」というビジョンがつながる瞬間がありました。

栗岡:イノベーターと呼ばれる人たちはみな、コンフォートゾーンから抜け出し、新たな世界に一歩を踏み出し続けた人たちです。

人的資本経営の本質は、挑戦を組織内でいかに促進するかというのが私の持論です。挑戦を嗜好する従業員の存在は無形資産を豊かにするだけでなく、既存・新規事業を通じた有形資産の増大に繋がる。企業価値も上がるわけです。無形から有形、有形から無形、この正のサイクルを生み出すためにクレド策定と導入のワークショップは不可欠でした。

押野:そういえば、ワークショップの裏コンセプトは「心をざわつかせる」でしたね。なにかが始まる、変わらないといけないかもしれない、でもどうしたら…?といったことを参加者に感じてもらえるように設計しました。

大切にしたい価値観もクレドも、私たちが提示して決めたものではなく、自分たちでつくったものだと感じてくれたはずです。策定に関わらなかった方々も導入ワークショップに参加しましたが、共創型で実施したことで、当事者意識をもって事業を進めていく、そんな姿勢や雰囲気を醸成することができたのではないかと思います。

栗岡:実際に、ワークショップはざわつきましたね。未来に対する不安や恐怖は、それを認知した時点で成長の可能性に変わります。それが、挑戦の始まりでもあるわけです。

事業戦略から会議の呼称まで、一貫した変革を

押野:今回のプロジェクトは、事業における過渡期の始まりです。これまでとは異なる価値を生み出すことが評価されていきますから、もしかすると内部ではアイデンティティクライシスが起きているかもしれません。

栗岡:そうですね。三井不動産の新社長も「不動産デベロッパーから産業デベロッパーになる」と宣言していました。

ワークスタイリングが会員企業の人的資本経営をサポートする計画についても、グループ内のイチ事業ではなく、三井不動産自体の企業価値を向上することに貢献できるのではないか?と可能性を感じています。

押野:そうですね。栗岡さんと一緒に、細部までこだわって意識改革に取り組みました。細かいことですが、自分たちも学びながら変わっていく組織でありたい、という想いから、新しい企画についてブランドやユーザーエクスペリエンスの観点で考える会も「学ぶ会」という名前はどうか、という話をしたんです。会の出席者が、どういうマインドで参加すればよいのかを分かりやすく表現し、学びを楽しむことで、事業運営者自身の Well-beingを高めることが大切だとも話しました。

また、単に数字を追いかけるのではなく、その数字の質、つまり「いくら売上を上げたいか」ではなく「どういう売上を上げたいか」を重視しました。今回のクレドの策定では、それぞれの言葉がどのように日々の業務と、その成果である売上に紐付くかまで考えて設計しました。

こうやって振り返ると、色々やりましたね。投資家と実務者、事業戦略や組織など複数の視点から過去の当たり前を疑い、改善点を探る日々でした。

栗岡:上場企業のエクイティストーリーを考え、事業戦略から計画、組織変革、現場の行動変容まで、全力を尽くしましたね。

今回の取り組みは、人という無形資産の活用を通じた事業価値の向上、有形資産と無形資産のサイクルづくりがテーマだったと思います。無形資産と有形資産のサイクルづくりの結果が見えるのは、5年後くらいでしょうか。3年経てば、うっすらとした変化があり、結果の兆しが見えてくるのではないかと期待しています。

押野:ビジョンの実現には、事業と組織を一気通貫して動かすドライブが大切。今回は、その方策を示すことができたのではないでしょうか。人の可能性を開花させる事業は、実務者にとっても新たな挑戦ですね。


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text by Momoko Imamura
photographs by Kosuke Machida
special thanks to WORKSTYLING


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