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組織を支える「ミッション・パーパス」のつくり方

BIOTOPEでは、ビジョンのデザインを支援する機会が増えたと同時に、ミッション・パーパスといった企業の理念の策定を支援することも増えてきました。

ビジョンが「未来につくり出したい理想の社会」だとしたら、ミッションやパーパスは「その社会において、自社が果たすべき役割や存在意義」です。そんな両者の関係性から、ビジョンとミッション・パーパスの策定をセットで取り組む企業が増えているのです。しかし、ミッションやパーパスの策定は、ビジョンをデザインするプロセスとはずいぶん異なります。

ビジョンのデザインは、未来における社会変化を洞察し、徐々に解像度をあげていきながら、自分たちが理想として掲げる社会像を、「描いて」いく取り組みです。私たちは「未来描述」という造語を使ったりしますが、ビジョンとは未来の景色を絵で描く行為なのです。

それに対して、ミッションやパーパスの策定に必要なのは「言語化と物語づくり」です。

ミッションやパーパスは、単なる耳障りの良い言葉の羅列では効果を発揮しません。自分たちが社会に果たす役割を一言で表すためには、以下の要素をすべて兼ね揃えている言葉である必要があるからです。

1,過去:歴史的に蓄積された組織の動機と整合していること
2,現在:組織が持つ強みを生かし、自分たちで出来るアクションであること
3,未来:組織が将来実現したい社会における価値基準が明確であること

ミッション・パーパスに代表される「理念」を明確化するためには、過去━現在━未来の時間軸を行き来しながら、自分たちが果たすべき不変の役割=価値基準を明確にすることが必要になります。そして、その時間軸を通して策定したミッションやパーパスは、誰もが理解できる「物語」の形で伝達が可能です。すると、その物語のなかに社員一人ひとりの物語を組み込み、語り直すことができるようになるのです。

参考:MissionとPurposeの違い

物語から理念をつくる

人工流れ星をつくり出す宇宙のスタートアップ・株式会社ALEのミッション・ビジョン・バリューを策定したプロジェクトから、理念を策定するプロセスをご紹介します。

このプロジェクトが始まるまでの経緯は、ALEのTwitterアカウントでストーリーが公開されている。

2018年、CEO岡島は悩んでいた。チームが同じ方向を向いておらず、科学貢献を大事に思っていることが伝えられていない。いつしかチームはバラバラになり、何人かの主要メンバーが去っていった。​​組織づくりに悩む中、書籍「ティール組織」に感銘を受けた岡島は、帯を書いた佐宗さんに相談することに。佐宗さんや他の起業家が異口同音に”VISIONを経営の根幹に据えるのは大事”と言うのを聞きALEのVISION・MISSION・VALUEを見直すプロジェクトが始動した。

https://twitter.com/ALE_StarAle/status/1523509344431661056

そんな課題感から始まったこのプロジェクトは、以下のように進んでいきました。

①歴史分析
理念策定プロジェクトの最初は必ず、会社の過去を振り返ることから始めます。ALEの場合は創業社長が健在であるため、創業社長の人生を振り返る1時間半ほどのインタビューを行いました。「宇宙に存在する他の生き物と出会いたかった」「しし座流星群を見たときに、この流星を自分で作れたらいいなと思った」など、いまの会社を形作る原点について引き出し、ALEの歴史・第一章を作成しました。

②未来年表の作成
次に行ったのは、ビジョンづくりです。はじめに「100年後にALEがつくりうる未来」という長い時間軸のお題について、株主や天文学者を交えながら、宇宙や科学領域において起こりうるイノベーションについて知見を共有。その後、ALEの物語・第一章を全社員に共有し、その次の章=これからALEがつくる未来の物語を書いてもらいました。

それをもとに、全社員による未来年表をデザインするワークショップを実施。未来年表を作成し、考えをシェアしました。2020〜2100年の間に起こりうるであろうイベントをまとめた結果、「ビジネスとしての成功」と「科学研究」が互いに影響し合いながら価値を生み出す会社を目指すという柱が見えてきました。

③未来の可視化
次に、未来年表で描き出した未来の事業をイラストに統合します。未来年表の物語の骨子は、「宇宙が、好奇心に突き動かされた人類の進化の舞台になる」というもの。それをベースにしながら、2020年、2030年、2050年以降の時間軸に合わせて、ALEができる可能性がある事業をマッピングしていきました。ビジョンをイラストで可視化することで、自社が将来果たす価値が明確になります。

④ミッションのコピーライティング
最後に「ALEの存在意義は何か?」という問いに答える形で、ミッションの言語化に移ります。コピーライターと共に、これまでの議論を踏まえたうえでコピー案を提示し、ワークショップを通じてブラッシュアップを行いました。

ALEらしい存在意義を考えるために「1,自分たちの会社の人格は何か?」「2,自分たちの会社が社会で果たす役割を、動詞で何と表現するか?」という2つの問いを考えながら、アイデアをときに組み合わせながら絞っていきます。

そして、最終的に「科学を社会につなぎ、宇宙を文化圏にする」というミッションを定めました。

このプロジェクトを経て、ALEの代表・岡島さんは以下のように語ってくれています。

岡島は言う。「時間や労力がかかったけど、決して無駄ではなかった」
社員と今何をすべきかが議論しやすくなり、ALEのビジョンに共感して支持してくれる企業や投資家が増えた。同じ方向を向き順調に歩みを進めていたALEに、大きな出来事が起きた。2020年に世界初の人工流れ星が実現するはずだったが、人工衛星の動作不良により延期になったのだ。

「メンバーはモチベーションを無くして、いなくなってしまうかも…」岡島の不安は募った。しかしそれが原因でALEを去るメンバーは誰一人いなかった。「皆がVISIONやMISSIONを共有しているからこそ”次は絶対人工流れ星を流したい”と強い想いを持ってくれてるのではないか。1回の失敗で折れない強い組織になっている」苦労が無駄ではないと感じた瞬間だった。

自社が過去ー現在ー未来という時間軸を往復することで、いつどんなことがあっても変わらない、もっとも重要な「社会に対する存在意義」を定めることができるのです。

理念のデザインの肝

良いミッション・パーパスとは何か。それは、社外の第三者が判断できるものではありません。その企業の社員全員がミッション・パーパスの言葉の意味を共有でき、そこから生まれるストーリーや体験のイメージを持てるものこそ良いミッション・パーパスだと言えます。

ミッション・パーパスを設定することは、自分たちの活動を社会目線から見直したときにどのような価値があるかを整理し直す行為です。そして、自分たちの会社の中心となる軸を再定義し言語化することは、組織の存在意義に「魂を込める」営みとも言えます。

ミッションを言語化するとき、大事なことが2つ。

ひとつは、まったく新しい言葉をつくり出そうとしないこと。つい個性的であることを求めてしまいたくなりますが、ミッションはすでにその組織のなかに存在する(日常で使われていたり、共通認識がある)言葉を探し出すことが大切です。

ふたつめは、組織の構成メンバーにとって身体的にしっくりくる言葉を選ぶこと。また、語化するだけではなく、その背後にある考え方をカルチャーデックのようなかたちで物語化し、バイブルのように残しておくことで、より厚みを増すものになっていきます。

ミッション・パーパスの言語化が「自分たちの魂を注入する」行為だとすると、その理念の背景にある物語を編纂していくことは「身体をつくり上げていく」行為だとも言えるでしょう。

ミッションや、パーパスを議論をすることは、実は難易度が高いです。自分たちのことを自分たちで議論すると、意見が対立した時にそれぞれの主観をぶつけ合う形になってしまい、合意形成をすることが難しいのです。

BIOTOPEは、ミッションやパーパスの策定の際に、物語を引き出したり、語られている物語をもとにコピーを作ったりして、自分たちの姿を綺麗にみる鏡のような存在としてミッションやパーパスの策定の支援をしています。

ミッションやパーパスについて課題感を持っている方は、下記よりぜひご相談ください。


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