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『改良』遠野遥著

好きなYouTuberの1人に、読書系動画を配信しているベルさんという女性がいる。

書評がわかりやすくて(そして可愛い…!)
いつも読む本の参考にしたりして楽しんでいる。

今回、彼女が上記動画で遠野遥さんを絶賛しているのを発見。

面白そう…!気になる…!
すぐに書店に買いに行った。

今回はデビュー作から読んでみようと思い手に取った、遠野遥著『改良』について書きます。

①あらすじ

メイクやコーディネイト、女性らしい仕草の研究……、美しくなるために努力する大学生の私は、コールセンターのバイトで稼いだ金を、美容とデリヘルに費やしていた。やがて私は他人に自分の女装した姿を見て欲しいと思うようになる。
美しさを他人に認められたいーー
唯一抱いたその望みが、性をめぐる理不尽な暴力とともに、絶望の頂へと私を導いてゆく。
(単行本裏表紙)

本作は遠野さんのデビュー作で、量も少なめなので比較的読みやすい。

主人公は20歳大学生男子であり、終始彼の目線で語られる。
淡々とした語り口で、常に冷静であり、目を背けたくなるような描写も多かったが、そのおかげかあまり辛くならずにいっきに読めた。

性的な描写が多いので、苦手でなければ読み進めてほしい。

②感想

終始主人公目線で語られるが、読み進めるにつれて主人公に対する辻褄の合わない違和感を感じ、モヤモヤに心を埋めつくされる。

例えば、「美しくなりたい」という願望を持ち、その「美しさ」も女性的な美しさを追求しながらも、性的対象は女性で、デリヘルの常連であったり。
女友達のつくね、デリヘル嬢のカオリに対して、「美しくない」と評価し、こき下ろしながらも、彼女たちに対しても性的な欲望を抑えられなかったり。
女性に対しての性欲を語るのに一人称はずっと"私"であったり。

女は服装も髪も適当で、多分メイクもしていなかった。それなのに、私は女を見て勃起していた。性器を勃起させながら、私は悔しかった。女は、私よりもずっと美しかった。それはおそらく誰もが認めるところだし、私もできるならあのようになりたかった。あのような美しい姿で生まれたかった。美しい顔や脚を持ち、見る者を魅了したかった。どうして、私は美しくないのだろう。

美術館で見た動画の中の美しい女に対して、主人公はこう語っていた。

彼女みたいに美しくなりたい。
でも欲望の対象も彼女であり、心と体のアンマッチさと、しかもその自分を冷静に語る主人公に得体の知れない気持ち悪さを感じる。

そもそも、私はどうして美しくなりたいのだろうか。人間の価値は、当然美しさだけでは決まらない。大事なものは、ほかにもたくさんあるはずだ。強さ、優しさ、健康、財産、地位、友達…。しかし、どれも美しさの前では霞むように思えてならなかった。

人間の価値を測るものさしが色々あることはわかるのに、自分はどうして美しさに執着するのかわからない。
読者も感じている彼に対する違和感を、自分も感じていながら、自分を理解できていない。

彼は女装をした姿を初めてカオリに見せた時、そういうプレイのように自分を扱ったカオリに対して屈辱的な気持ちを感じている。
彼は辱められたいのではなく、自分に対して「綺麗だね」「可愛いね」という言葉をかけられたがっていた。
ただただ女装が好きな「男性」ではなく、本当に「女性」として扱われたいのであると理解できた。

女装姿で街に出たところで、物語は急展開する。
そこから、目を背けたくなるような辛い描写がある。
しかし、それでも主人公は自分を客観視していて、まるで当事者ではないと言うような冷静さがある。
同時に幼少期の辛かった経験や、親への感謝の気持ちなどを語り始める。

よくわからない…。
けど主人公はようやく何かを理解したんだ…。
という謎の納得感が読後に残る。
そのまま一気に読み終えた。

最後に、単行本のカバーを外すとなんとショッキングピンクの本体が出てくる。
内容と同じ秘めた心を表すようで、ぞっとする演出だった。

③まとめ

この話はジェンダーとか性の多様性とかではなく、自己顕示欲や承認欲求に根ざした話かなあと思った。

言動と行動のアンマッチにモヤモヤしながらも、作品全体に漂う気持ち悪さが病みつきになりそうだったので、遠野遥さんには今後もしっかり注目していきたい。

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