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『どうしても生きてる』朝井リョウ著

年末くらいからなぜか登山にハマっており、あったかくなってきたので(というかもう暑い?)山行を考える時間が最近の楽しみになっております。

さて、今年の夏山はどこに行こうか〜!わーい!

アウトドア体質になってきたため、読書習慣が完全になくなってしまっていたので、短編集からちょこちょこ読み直そうかと思います。

朝井リョウさんの『どうしても生きてる』です🐶


あらすじ

死んでしまいたいと思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。(「健やかな理論」)尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が写されているような気がした。(「そんなの痛いに決まってる」)生まれた時に引かされる籤は、どんな枝にも結べない。(「籤」)等鬱屈を抱え生き抜く人々の姿を活写した、心が疼く全六編。

幻冬舎文庫小説背表紙

あああ、鬱そうだなあ。久々の読書だというのに、なぜこんな重そうなのを選んでしまったんだ・・(積読してた)
と最初は思っていたけれど、さすがは朝井リョウさん。

ただただ気分が下がっていくストーリー展開ではなく、ずーっと続いている日常のほんの一部を切り取ったような話。とても身近にある負の感情というか、みんな感じた事があるけど、気づきもしないような違和感や無力感を丁寧に描いている。

落ち込むけど、誰しもが共感できる6作品。


感想

隣の芝は青く見える、というのは本当にそうで、自分以外の人が全員幸せに見える日がたまにある。勝手に落ち込んで、こんな自分に嫌気が差して、自己嫌悪に陥る、という悪循環。

私の解決方法は、意図的にSNSを見ないようにしたり、とにかく誰かと比較しないようにして、ゆっくりと回復を待つこと。好きなことに没頭すること。
「こういう気持ちになったらこうする!大体所要時間1週間!」とか考えて、嫌な気持ちを自分で処理できるようになったのはここ2、3年のことだと思う。

自分のことを自分で解決するのは当たり前として、多くの人を巻き込んだ、社会の大きな流れの中で生まれた負の感情はどうすればいいのだろう。
会社でも家に帰っても解決すべき問題が山積みで、多くの大人は自分のことをケアする時間なんてないかもしれない。
生きていることによってどんどん蓄積する小さな違和感。初めは気づかないかもしれないけど、ゆっくりゆっくり成長しているみたいだった。

全編を通して、何かのきっかけで人の本質が露呈する時、影で笑う人、逃げる人、見てみぬふりをする人、どうしようもないと受け入れる人ばかりで、乗り越えようとする人や向き合おうとする人は出てこない。
多分、ほとんどの大人はこういう人なのだと思う。
自分には世界を変える力はないし、だからしょうがない。何もできない。
こういう気持ちは分からなくはないけど、「無力な自分」を言い訳に問題から逃げているようにしか見えなかった。

個人的に一番好きだった「そんなの痛いに決まってる」では、仕事と家庭でがんじがらめになった男性の逃げ場のない様子が、尊敬する上司のSMプレイ動画の拡散によって浮き彫りになっていく。
大きな責任から自分の感情を素直に吐き出す事ができず、痛い時に痛いと言えない人がどれだけいるんだろう。父親や、会社の上司のことを考えてしまった。
誰か一人でも理解者がいれば、発散できる趣味があれば。。

人は自分のことでいっぱいで、他の人が抱えている闇には全く気づかないものなのかもしれない。結局自分のことは自分で解決しなきゃいけいないのか。
隣の芝が青く見えるのは、自分の敷地を一歩も出ていないからだ。


最後に・・・

登場人物全員に少しの共感と苛立ちを感じて、すごくリアルだった。
すごい重い訳ではないけど、現実つれえええとなりがちです。

それでも生きていく、とかではなく、どうしても生きてる、という後ろ向きさが終始漂う、そんな作品でした。

みんな山に行けば解決するのになあ・・・⛰😇



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