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名盤と人 第11回 ジョージと仲間たち 『Living In The Material World』 ジョージ・ハリスン

スペシャル・エディションが話題のビートルズの「Revolver」。オープニングは初めてGeorge Harrisonの曲(Taxman)が使用されている。そんなジョージのソロアルバムの中で好きな作品が『Living In The Material World』。『Revolver』のジャケットのイラストを描いたKlaus Voormannなど気心知れた仲間たちが、参加している等身大のジョージが満喫できる名作。

ジョージの黄金期に出された名作

今回は1973年6月22日に発表されたGeorge Harrisonソロでの2作目『Living In The Material World』にまつわる仲間たちとの友情話。
George Harrisonといえばまず誰もが知る1970年の『All Things Must Pass』。3枚組という大作で7週連続第1位を獲得し、1971年度年間ランキング第18位を記録している。
そして、翌年の71年は『バングラデシュ・コンサート』を仕切り、ジョージの黄金期の真っ只中にリリースされた『Living In The Material World』だが、その期待をそのままにビルボードで5週連続1位を記録した。
ただ「All Things Must PassCloud Nine(1987年)」に比べると内容的には地味な感は否めないが、自分的には最も好きなアルバムだ。
フィル・スペクタージェフ・リンと言う敏腕プロデューサーに仕切られた両作より、本人プロデュースの手作り感はジョージの等身大をわかりやすく表現しているところが魅かれる点。

Derek&Dominosをそのまま起用した前作のようなゲスト陣の豪華さはないが、George Harrisonが「気のおけない仲間たち」と制作したリラックス感と粒揃いの佳作ばかりで何度聴いても飽きることはない。

George Harrison: vocals, acoustic guitar, slide guitar
Klaus Voorman: bass,sax
Nicky Hopkins: piano
Gary Wright: organ,electric piano
Jim Keltner: drums

メンバーはGeorge Harrisonと仲間たちと言う風情で、ほぼ上記の固定メンバーで録音されている。
このメンツに仲良しのRingo Starrがたまに加わり、Jim Keltnerとのツインドラムを繰り広げる。

中ジャケのメンバーとジョージ
リンゴも含むバンドメンバー

Nicky Hopkinsの素晴らしいピアノ

まずは屈指の名曲がA-3のバラード「The Light That Has Lighted The World」。ジョージの生ギター,スライドにKlaus Voormanのベース、Jim KeltnerのドラムにNicky Hopkinsのピアノの4人編成。
Nicky Hopkinsのメランコリックなピアノソロと開眼したジョージのスライドソロの絡みが美しい。

たまたま、10/29に放送されたNHK FMの「Weekend Sunshine」(DJ;ピーターバラカン)がタイムリーにもNicky Hopkins特集だった。
彼は1944年英国ロンドン生れ。若い頃からクローン病で苦しんでおりツアーへ参加しにくい状況だった。 Jeff Beck Groupに籍を置いた事もあるが、セッションマンとして生きることを決意する。
ニッキーはストーンズとの関わりが濃厚だったため、この放送では多くのストーンズ・ナンバーがかかり、ジョージの曲の放送はなかったが、ジョンの「Jealous Guy」での美しいピアノが披露された。

次は本作の前年1972年にリリースされたソロアルバム「THE TIN MAN WAS A DREAMER」(邦題「夢見る人」)からジョージのスライドが聴ける曲。ほぼ同時期に録音されて、平日のジョージのアルバム、土日にニッキーのアルバムを録音したようだ。

Nicky Hopkinsは50歳という若さで1994年9月にテネシー州ナッシュビルで死去した。
今彼の伝記映画「セッション・マン」が制作されているようだ。

名曲「 Give Me Love 」のスライド

そして本作からのシングルヒット「 Give Me Love (Give Me Peace On Earth)」。Billboard Hot 100で「マイ・スウィート・ロード」以来2度目となる第1位を獲得。
5人のバンドが奏でる、それぞれの個性を最大限に生かされた演奏だが、目立ち過ぎない究極の歌伴となっている。
ジョージが解散後にプレイし始めたスライドギターが、イントロから始まるが素晴らしい。
ビートルズ時代はポールにソロを奪われるなどギタリストの評価はイマイチだったが、解散後に会得したスライドはクラプトンが絶賛するほど。
1995年に発表された再結成ビートルズの「Free as Bird」ではポールに「ビートルズではスライドは弾いてないから」と拒絶されても、強行突破してイントロに強烈なスライドを入れる程のこだわりを持っている。
本作は彼のそんなスライドが満喫できるのだ。
因みにギタリストはジョージ一人なので、ジョージのギターが満喫できるアルバムでもある

Give Me Love 」ではNicky Hopkinsがピアノでメローさを肉付けし、Klaus Voormanのうねりのあるベースが演奏の骨子を支える。
後半に向けてJim Keltnerのドラムは徐々に手数を増して、ソフトだがアクセントの付け方が絶妙のグルーヴを演出する。
そしてGary Wrightのオルガンというバンドのアンサンブルは素晴らしい。

さらに、待望のソロ来日公演から。

このメンバーの中で元Spooky Toothという異色の存在がorgan、electric pianoなどの鍵盤を操るGary Wright。
ジョージとは親しい友人だったようで、晩年まで交友関係が続いた。
1976年には「夢織り人」でビルボードで2位のヒットを記録し、ゴールドディスクに認定された。
All Things Must Pass」から1987年の「Cloud Nine」まで多くのジョージの作品に参加しており、「Cloud Nine」では共に構想を練ったらしい。

あまり知られていないが、ホントに親しい友人だったようで、それが珍しいジョージとの共演映像でもよく出ている。

Jim Keltnerが語るジョージのスライド

そして達人ドラマーのJim Keltnerはジョージと1971年Gary Wright『Footprint』のセッションで出会っている。
「この頃の出会いが、後年のロイ・オービソンやトム・ペティ、ジェフ・リン、ジョージ、ボブとのトラヴェリング・ウィルベリーズにもつながったんだ。リンゴ・スターとはそれより少し前に、ジョージが彼のために書いたIt Don’t Come Easyの録音でマラカスを演奏したときに会っていた」とJim Keltnerは語っている。

そして71年の『バングラデシュ・コンサート』でリンゴとのツインドラムを繰り広げ、本作への流れとなる。
映像は『バングラデシュ』から「Wah Wah」を。

そして、本作でも2人のツインドラムが聴ける。
タイトル曲の「Living In The Material World」(A-6)だ。
リンゴが叩く軽快なリズムをJim Keltnerが巧みにサポートしており、2人が一体化して立体的なサウンドになるツインドラムのお手本のような演奏だ。

歌詞にはビートルズも登場し、"John and Paul here in the material world", "We got Richy on the tour"の部分で、リンゴの愛称リッチーが登場した時にリンゴがドラムのフィルで返答をしているのがユーモラス。
インド出身の世界的に有名なタブラ奏者Zakir Husseinがタブラを叩き、インドテイストを演出している。

Jim Keltnerは数え切れない程のセッションに参加している。
特にポール以外のビートル達のサポートも数多い。
ジョージの作品ではDark Horse、Extra Texture、Somewhere in England、Gone Troppo、Cloud Nine、Brainwashedにも参加。

また、ジョージが設立したダークホース・レーベルから自身のグループ「Attitudes」として二枚の作品をリリースしている。
Attitudes
Jim Keltnerのドラムに、Paul Stallworth(bass), Danny Kortchmar(g), David Foster(kee)という4人のセッション・ミュージシャンによるバンド。David Fosterというのが意外だが、共にジョージの「Extra Texture」に参加した縁だという。
「Good News」ではゲストのリンゴとのツインドラムを披露している。

ジョンの作品では、Imagine 、Mind Games 、Walls and Bridges、Rock 'n' Rollに参加。

リンゴとはツインドラムの共演も多数で、Ringo 、Goodnight Vienna、Ringo's Rotogravure、Stop and Smell the Rosesに参加している。

さらにリンゴのオールスタバンドのメンバーとしても来日している。
リンゴとザ・バンドのLevon Helmとのトリプルドラムという豪華版。

彼はLevon Helmを尊敬しており彼との出会いが転換点だったと「ある晩、彼の録音現場に見学に行って演奏する様子を観て、僕の人生はまったく変わってしまったんだ。もう派手な演奏は止めた、テクニカルなことや過剰な表現はやりたくないと思った。音楽的な会話をごくシンプルにしたんだ。」と語っている。

さらにマーティン・スコセッシ監督による、ジョージ・ハリスンに関するドキュメンタリー映画『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』( Living in the Material World)にも友人として登場している。

ジョージがジムのファンクラブを作ってくれた逸話を話し、ジョージのスライドギターについて「Beautiful Touch」と表現し称賛している。

ファンクラブを作ってもらい「少し照れくさかった」
ジョージのスライドを聴くと「感情的に」と何度か

ジョージがKlaus Voormannに最後に残した言葉

このアルバムと同名の映画『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』には、このアルバムに参加している人々が3人参加している。
リンゴ・スター、ジム・ケルトナー、そして重要な語り手として多くの場面で証言するのがKlaus Voormannである。
『Revolver』のジャケットのイラストを描いたことで有名だが、ハンブルグ時代からの長い友人でもある。
デザイナーとしてグラミーを獲得し、ミュージシャンとしてもグラミー受賞作(The Concert for Bangla Desh)に参加しているのは彼くらいだろう。

映画の中では、音楽の話だけではなくジョージがヒーラーのようにクラウスの心を癒す過程が語られる。

ジョージとの心の交流について語る
そして、クラウスは癒された

クラウスはベーシストとしても数多くのセッションに参加しているが、最も著名なのはCarly Simonのこの曲のイントロ。

映画「サイドマン~ビートルズに愛された男~」にはカーリーとの再会が描かれる。

1960年にハンブルクでビートルズと出会った時のジョージの印象として、「初めてジョージに会った時、彼は弱冠17歳だったんだ。後のジョージとはまったく違っていたね。生意気なガキでさ。彼のいたバンドはまったくの無名だったんだ」と語っている。

そして、クラウスがジョージの誕生日に投稿したInstagramのイラスト。
そして、ジョージとの最後の思い出を綴った名文。

ジョージに最後に会ったのは2001年の夏でした。彼は私をオーストリアに招待し、ゴーイングにあるゲルハルト・ベルガーの家に滞在しました。癌治療の形跡が沢山あって痛々しかったけど、ジョージの心底楽しそうな笑顔と輝くまなざしは、重病人であることをまったく感じさせなかった。
散歩の後、芝生で休憩していると、突然彼が私を見てこう言いました。

『なんとなく、とても親しい関係にあると感じます。
私は、長くて柔らかい草と、風が吹いているときにそれらが作る波がある、一見無限に見える牧草地が大好きです。
人生の風にいつも逆らうのではなく、その風を大切にするようなものです。
だから、クラウス、私がいなくなったら、牧草地に立って、波打つ草を感じさえすれば、私はあなたの近くにいるでしょう。

klausvoormannofficial

2001年、仲間に愛されたジョージ・ハリスン (George Harrison)は肺癌と脳腫瘍のために逝去する。

最後は「Living In The Material World」よりKlaus Voormanがダブル・ベースを弾く「Be Here Now」(B-2)。
「忘れないで、今ここにいてください("Remember, Now, Be here now")」

George Harrison: vocals, acoustic guitar, sitar
Klaus Voorman: double bass
Nicky Hopkins: piano
Gary Wright: organ
Jim Keltner: drums

Side A
1.Give Me Love (Give Me Peace on Earth)
2.Sue Me, Sue You Blues
3.The Light That Has Lighted the World
4.Don't Let Me Wait Too Long
5.Who Can See It
6.Living in the Material World
Side B
1.The Lord Loves the One (That Loves the Lord)
2.Be Here Now
3.Try Some, Buy Some
4.The Day the World Gets 'Round
5.That Is All

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