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なんで僕は起業したんだろうVol.11〜熱くなればなるほど向こうは冷める。「また連絡するね」は絶交のサイン。人間関係不変の真理なり。〜

行動力は何ごとにも勝る。でも、それは相手と意志がつながったときに限る、という話。そして人間関係の鉄則は、ビジネスにも当然通用するということ。

頭の中に浮かんできたアイデアの萌芽を資料に落とし込んでみる。たったの5ページ程度のものだったが、これがどう反応されるか知りたくなった。Google先生に聞いてみると、どうやらこの世の中にはOEMという自分たちの名前を出さず開発と生産を請け負う業態があるようだ。

こうなれば話は早い。さっそくホームページの「お問い合わせ」から連絡をして3社目にようやく芳しい返信がきた。大手の化粧品OEMでホームページにはあれやこれや今までの製品が並んでいた。開発拠点も複数あり、開発から生産までワンストップで請け負うとのこと。ワクワクさせる文言の羅列に喜び勇んですぐに打ち合わせ日程を決めた。フワフワした気持ちで数日過ごし、あっという間に打ち合わせ当日、リモート会議を始めた。先方は男性ひとりだった。

まずは簡単な挨拶をする。この辺は慣れたものだ。伊達に営業をしたわけではない。口八丁手八丁でひと笑いふた笑いいただいた後に「こんな企画があるのですが・・」とおずおずと資料を読み上げた。企画の骨子はいま商品として売り出しているものと一緒だ。かくかくしかじか「男性ひとりひとりの肌質と悩みにあわせた基礎的なスキンケア商品」を作りたいので開発と生産を請け負っていただけますか?うんぬんと。

ひと通りを説明を終えた後、黙って聞いていた男性はじっと考え込んでいた。説明し終わった僕も黙っていた。リモート会議は沈黙を許さない。普通の会議なら何でもない時間は、リモート会議になると途端に変な空気になる。リモート会議での沈黙は一秒一秒、場の重力が強くなる作用があるようだ。しかも、ふたりしかいない。どちらかが口火を切らないといけないチキンレースの開幕だ。

語り得ぬものについては沈黙せざるを得ない。

「ど、どうですか?」と僕は聞いてみた。チキンレースには早々に負けた。沈黙に耐えられなかったのだ。担当の男性はうーんと一度唸った後に言い始めた。なんとなくだけど嫌な予感がした。

企画は良いかもしれない。今まで見たことがない。が、しかし現実的に開発と生産ができるのか?はなはだ疑問です。そもそも生産して在庫を納めるだけの予算や人員は確保されていますか??販路はウェブだけですか??

このとき、僕は自分が現役のサラリーマンであることは伏せていた。さも経営者のような顔をして会議に臨んでいたわけだけど、現実的な質問に何一つ答えられなかった。

スキンケア関係の仕事をされていたんですか?答えはNo。
美容関系の仕事をされていたんですか?答えはNo。
ありとあらゆる質問に対してNoの連続。何せ経験もなければ専門知識もない。あるのは情熱だけ。ただ僕が熱くなればなるほど、パソコンを通してはっきりわかるくらいに、先方の態度がどんどん冷めていくのが手に取るようにわかった。

そうだった。僕はサラリーマンだったのだ。すっかり忘れていた。所属している会社があって、いま提案したスキンケアとは一切関わりのない仕事をしていた。プレゼンをしている間にも会社のメールボックスにはどんどんメールが溜まっていて「至急、連絡せよ」というクライアントからお怒りの連絡やら、「至急、提出せよ」という総務課からお叱りの催促やらがひっきりなしに来ていた。

では、また連絡しますね。と言われて会議は終わった。「「行けたら行く」は行かないのサイン」に並ぶ人間関係の絶対的真理「「また連絡するね」は絶交のサイン」を知らないわけではない。こりゃダメだなと思った。思ったとおり、絶対の真理はやはり真理だった。あれ以来、あの担当の方からの連絡はまだ来ていない。