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年下の彼が眩しかった 【ノンフィクション】

夜のメインのショーが終わった瞬間、
打ち合わせ通りに私たちはアトラクションへダッシュした。
まさか恋愛初心者の君が手をしっかりつなぎ直してくるなんて、反則だよ…


私たちはダッシュしている。
このタイミングなら閉園までに運良くまだ何個か乗れるかもしれないという作戦通りに。
そして『君よりパークに詳しい』という名目で、私は君の指を1本つかんで走り出した。
まわりはショー終わりですごい人の波。
だけど夜のパークはキラキラしてて特別に素敵な雰囲気。
その中をかき分けて大胆なことして走り出した私は、恥ずかしくて後ろが向けない。
とにかく目的のアトラクションまで勢いで走りきるしか…と、思っていたら。

きゅっ


…え?
いや、私いまとても恥ずかしくて後ろ向けないんですが、君は気が確かですか?
「きゅっ」じゃないよ!
なに私より6個も年下で恋愛初心者の君のくせに、さりげなく私が1本しか掴めなかった指をやんわりちゃんと手をつなぐ形に持っていったの?
そんな高等技術使えるなんて、お姉さん聞いてないよ!
こんなの悔しい…ときめかないわけがない。

二人とも息を切らしながら、
目的のアトラクションまで到着した。
残念ながら、すでに今から並べるような短い列ではなかった。
「これは無理だね…」
と笑い合ったところで、今日一緒に来たカップルが私たちに追い付いて合流した。
バレないようにそっと、手を離した。

人間は欲張りだ。
私はもっと、さっきみたいな瞬間がたくさん欲しくなった。
一緒に来たカップルとは、朝から丸一日行動を共にしていたので私は提案してみた。

「閉園まで2人でゆっくりしたら?」と。

我ながら、あざといお姉さんだなと思った。
こちらのカップルは私の4個年下同士。
付き合いが長いとはいえ、若いし2人の時間ほしいよね?と思ってた。

「ううん、全然一緒で大丈夫だよ!」

想定外の返答だった。
何度か聞き返したが、笑顔で正直に答えてくれた。
4人一緒でいいらしい。
嫌と言うわけにもいかないので、
最年長のお姉さんは心の中で特大ため息をついてガッカリしたが、悟られないようにリーダーらしく振る舞った。

「じゃああと、お土産買って帰ろうか!」



「私が2人の時間ほしいの、お願い!」
と素直に可愛く言えるお姉さんだったら、
なにか今と違っただろうか。
「なにか記念にお揃いのモノ買おう!」
なんて、純粋な目で言えるお姉さんだったら…今も一緒にいた可能性があっただろうか。


6個も年上だった私は、いくつかの終わりも経験済みだった。
お揃いのものが純粋に欲しいと言える少女ではなかった。
終わりが来たときお揃いって困るんだよね…
と頭をよぎってしまう、立派な大人だった。


一方で君は、まだ恋に恋してる少年だった。
いつも真っ直ぐな瞳で私を見てくれた。
5年も付き合った年上の人と婚約どうこうまでいってごちゃごちゃして別れて…
疲れ果ててた私に、ときめきをくれた。
そもそも恋ってどんなものだったかを、
思い出させてくれた。
だけど、その真っ白なキャンパスを
私で染めるのか?と思うと、
私はすごい罪悪感に襲われていた。
私で染めるというより、私で汚すという感覚。
それほどに君の言動が常に眩しかったから。
ここまで近付いてしまってからでは、
どっちみち君を傷付けることになる。
それでも私は、君のこの先希望と可能性に満ち溢れた未来を邪魔する勇気が持てなかった。

最後にサヨナラした日に君は、
「友達にカラオケでオールで慰めてもらったらしい。」
と、共通のお友達から聞いた。

それを聞いた私は
「やっぱ若いな…」と遠い目をして泣いた。

後悔してない訳じゃない。
けど、真っ直ぐな君の愛に包まれていたら
お姉さんなのにどこまでもわがままになっていってしまいそうな自分が怖かった…
なんて、お姉さんの言い訳にすぎないね。



もう10年経った今でも、
私の理想とは正反対だった、
君と同じ派手色の車を見ると胸の痛みと共にこっそり思い出す。
彼には本当に感謝している。
恋を、ときめきを、好きになるってどういうことかを、思い出させてくれてありがとう。


今どこかで、彼も幸せでありますように…

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