ばれ☆おど!㉘
第28話 追跡銃〝チェイサー〟
カン太が疑問を口にする。
「部長? あの作戦って何ですか?」
「あの作戦だ。我が究極の発明品〝チェイサー〟を使うのだ! ハハハハハ……」
〝チェイサー〟
――そう。弾丸がチューインガムのように標的にくっつくあの銃だ。その弾丸の中心には発信機が仕込まれている。
「アカン、これは重要な任務だぞ。それ故ユーに頼むのだ! ああ、そうだ。あの時よりもさらにグレードアップしているのだ! 新機能が追加されたのだ。知りたいか?」
「はい。それって何ですか?」
カン太は思う。
(発明の自慢か。これが始まると長いんだよな)
「それはだな。ん? 本当に知りたいのか?」
「も、もちろんですよ(本当は知りたくないんだけど)」
「いや、ユーから〝聞きたくないオーラ〟が出ていたぞ」
「そんなの見えるんですか?」
「うむ。私ほどのレベルになると、そんなことは朝飯前だ。心の目さえ開けばユーでもみえるようになるだろう」
カン太は思う。
(見えてるなら、今までずっと、わかっててやってたんですね)
「あ、それで、何ですか? その新機能って?」
「そうか……知りたいのか?」
源二は腕組みをして瞑想でもしているかように静かに目をつむっている。
「心の底から知りたいです。教えて下さい(本当は知りたくないんだけど)」
「わかった。そこまで言うなら教えてやろう」
そう言うと源二は目をカッと見開いた。
「ええ、ぜひお願いします」
「それはだな」
「それは?」
「自爆機能だ」
「え?! なんのために? 危なくないですか?」
「安全性に関しては、まだ検証の余地を残しているが、その効果はそれを補って余りあるものだ」
「効果って何ですか?」
「証拠の隠滅だ。敵にこちらの追跡を悟らせないようにする。フフフ、これは兵法の基本だな」
「確かにそれは重要かもしれませんね。他にはどんな効果があるんですか?」
「ない」
「え?」
「それだけだ」
「…………部長。危険の方が余りあるような気がしますが」
「細かいことは気にするな。発明家にはそういう大胆さが必要なのだ。……コホン。ということで、適任者はアカンだ。使い方は以前使った時と全く同じだ。相手に気づかれないように打ち込む。それだけだ」
「なんだか、モヤモヤしてますが、わかりました。その任務引き受けます」
すると、源二は部室のロッカーから、問題の銃(チェイサー)を取り出してカン太に渡した。
「ではユーに託そう! 我が発明品〝チェイサー〟を」
この源二の発明品〝チェイサー〟はハンドガン(V10 ウルトラコンパクト)をモデルとして制作されたガスガンがベースになっている。電動ガンが手軽だが、源二のこだわりで敢えてガスガンが採用されている。
カン太は試しに一発だけ校庭に向けて発射する――。
通常のガスガンの音に比べると、サイレンサーの効果であろう、やや音が小さいようだ。
撃つたびに〝ブローバック〟と言う動作を伴う。これはガス圧を逃がすためにスライド部分が前後するというものだ。この動きがマニアにはたまらない。
さて、次に弾丸であるが、これがこの発明のミソとなっている。弾丸の中心には超小型の発振器が埋め込まれていて、その周りをチューインガムのようなゲル状の物質が充填されている。さらにその周りが卵の殻のような硬い外皮で覆われている。命中すると殻が割れて中のゲル状の物質が接着剤の役目を果たし、標的にくっつく。
カン太が撃った弾は、偶然にもサッカー部が部活の練習中のなんと、あろうことかサッカーボールに命中した。発振器は受信状態良好。――だが数分後、そのサッカーボールは消滅した。どうやら強烈なシュートが原因で起爆装置が作動したようだ。
「部長! 確かに託されました。まかせてください!」
カン太はそう言うと部室を出て深牧邸に向かった。
その道中、カン太は突然空中に向かって話し始める。
「コトリさん。この前はありがとう。本当に助かったよ」
すると音もなく一つの影がカン太の前に舞い降りた。
見ると、そこにはまだ十歳くらいの女の子が、異世界から召喚されたのではと疑うほど不自然に、そこに立っていた。ショートの青い髪に勾玉のデザインのイヤリングをしていた。
薄紅色の瞳はカン太の心の中を探っている。
彼女はイヤリングを陽光にきらめかせながらカン太を見つめた。
「どうしてわかった? 完全に気配は消していた」
「いや。ただの勘だよ。でも逆に聞くけど、どうしてオレを護衛してるの?」
「任務のことは秘密。でも少しだけ明かす」
「うん。頼む。教えてよ」
「うるみお嬢様から頼まれた。あなたを心配している」
「え?! 漆原さんが? どうして?」
「これ以上はだめ」
「……そうか、同じ部員として、オレが一番狙われやすいしね」
「………………」
黙ったままコトリはその場から、魔術でも使ったのかと疑うほど忽然と姿を消した。
◇ ◇ ◇
深牧邸に到着したカン太は物陰に隠れながら様子を、うかがっていた。ちょっとした変化があるたびにカバンから取り出した〝チェイサー〟を握った右手に力が入る。
およそ20分ほどすると、カン太は異変に気づいた。木々や電線に止まっている様々な野鳥。うろついているネコ、野良犬などがじっとカン太に睨みをきかせている。
少しでも怪しい動きをすれば、騒ぎ始めそうなのだ。
カン太は思う。
……そうか。お前たちは樹里さんから見張りを頼まれているんだね。
その1時間後、深牧邸から一台のワンボックスカーが出てきた。カン太は車内の様子を目を凝らして、うかがった。何人かの人影の中に樹里の姿を認めた。当然ここは〝チェイサー〟の出番だ。
だが、動物たちがいっせいに騒ぎ始める。犬に吠え立てられ、ネコは戦闘モードの唸り声を上げている。カラスは羽をバタつかせながら甲高く泣き始める。雀や鳩も一生懸命鳴いている。
構わずカン太は発砲する。
騒ぎに気づいたのか、車内にいた樹里がカン太をハッとして凝視している。
続けてカン太は残りの弾丸をマガジンが空になるまで撃ち尽くした。
何発かは命中した。だが、相手に気づかれるという致命的なミスをおかしてしまった。
カン太はポケットからスマホを取り出すと、源二の番号を検索する。タップして耳に当てる。発信音がなったと同意に源二が電話に出た。
「もしもし、吾川です。作戦どおり深川邸から出てきた車両に弾丸を撃ち込むことに成功しました。でも、樹里さんに気づかれてしまいました」
(つづく)
ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです