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ばれ☆おど!㉕


 第25話 ロリっ娘は御執心


 樹里は、制服の上着を脱ぎ、リボンを外す。
 ブラウスのボタンに手をかけると、彼女の細くてしなやかな指が動き、上から順番に一つ一つ外れていく。
 その白い肌は息をのむほどのまぶしさで、艶かしさ、というよりも神々しさを感じてしまう。

 ブラウスを脱ぐと、くるっと後ろを向いた。

 天上の光を思い浮かべるほどの白い素肌だが――
 腰の部分には気味の悪い刺青が入っていた。
 一転して、彼女の肌のまぶしさと対をなして、浮かび上がる呪術を感じさせる紋様。それを見ているだけで軽い催眠にかかりそうになる。

 彼女は厳かに、そして静かに口を開いた。
「このタトゥーは一子相伝の神の術式〝ベノラ〟を習得したものに与えられる紋章です」

「……幼くして、そんな技術を?」
「ええ。シャーマンによって私の出現は預言されていたそうです。そして、私が継承者であることも、一年後に私が去っていくこともです」

「す、すごいですね……」
「事実、私はものすごい早さで、この術式〝ベノラ〟を習得したそうです。もし次の継承者が現れたら私は伝承者として、必ず伝えなければなりません。これは義務ではなく、神との契約なのです」

「なるほど……。ところで、この前、その技術を私達は目の当たりにしたのですが、どういう仕組みなのですか? まるで魔法みたいですね」

「いいえ、魔法などのオカルトとは全く違います。これは動物にかける催眠術です」
 そう言いながら、彼女は脱いだ制服を着ていく。
 リボンをつけ、上着を着ると、つかつかと歩み寄り、ブルーとグリーンのオッドアイでカン太の目をのぞき込む。

「あなたが有名なインスタントパイロットの吾川くんね」
「…………え? え、ええ。そう。そうです。オレが吾川カン太ですが」

 樹里はカン太を見つめ続けている。
「私のうちに招待したいのだけれど。ご都合はいかがかしら?」
「え? それはどういうことで……」

「私には年の離れた小さな妹がいるの。今日の話を聞かせたら、すごく羨ましがって。もし、あなたが、うちに来てくれたら、妹はすごく喜ぶと思うの」

「なるほど。そういうわけなんですね。もちろ……?!」

 緑子がものすごい形相でカン太の口をふさぎ、さながらマシンガンのごとく話し始めた。
「話はわかったわ! だけど、それには条件がいるの!」

 樹里の表情が一瞬、曇る。
「……条件ですか?」

「そう。わたしが一緒じゃないとダメなのよ。こいつは変態ロリコン野郎だから、私が監視しないと何するかわからないから」

「あは、ははははっ……。わかりました。ではあなたもご一緒に来て頂けるかしら?」
「…………」

 樹里はハッとして言葉を続けた。
「あ、ごめんなさい。私、つい話を脱線させてしまって。他になにかご質問ありますか?」


 アイリは少し間をおいて、呼吸を整えてから口を開いた。
「はい。もう十分ですが、最後に、ひとつだけ。……あなたには二つ名がありますよね?」
「ええ、あるわ」

「……〝歌う猛獣使い〟この名を知らない人はいません」

「それは光栄と、言うべきかしら」
「あなたは、その能力を使って幾多の社会貢献をされてきた。十分に誇るべきです」


 ◇ ◇ ◇


 翌日の放課後、約束どおり、カン太と緑子は深牧邸を訪れた。
 外からの眺めだけでも、分かっていたのだが、実際に中に入ると、よく手入れされた見事な庭園である。広い芝生の庭の向こうに大きな洋館が静かに佇んでいる。さながらヨーロッパの上流階級の住まいのようであった。

 カン太と緑子は洋館の重い扉を開けると中に入っていった。
「失礼しまーす」
 緑子とカン太の声が中で反響している。

 グオオオォォォ-オオオォォォ-

 耳を澄ますと不気味な唸り声のようなものが聞こえたような気がした。

 しばらくすると、樹里がやって来た。
「ようこそ。今日は来てくれてありがとう」

 樹里がそう言うと、彼女の後ろから、ぴょこんと可愛いらしい幼女が出てきた。
 ――見た目はまだ、幼稚園児と言ったところだろうか? 長い金髪と澄んだ青い瞳が印象的な可憐な女の子だ。

「この子が私の妹よ」

 カン太と緑子は思わず笑顔になっていた。そして、
「こんにちは」
 と挨拶すると、

「さあ、ミリア。ご挨拶なさい」
 樹里が促すと、ミリアは少し恥ずかしがりながらもしっかりと挨拶した。

「ごきげんよう」

 カン太は思わずミリアの頭を撫でながらほめる。
「いい子だね。よくできました」

 緑子は言う。
「ちょっと、カン太。あまり幼女に手を触れないようにしてよね」

「別に、少しくらいいいだろ」
「あ、そう」
 緑子はそう言うと、カン太の足を踏んだ。

「いてっ!」

 すると、ミリアがカン太の前に立ちはだかる。
「ダメっ!」


 樹里がそれをとりなすようにして、
「さあ、ミリア、ご挨拶は終わりよ。奥でお茶の準備頼んでもいいかしら?」

「はーい」
 ミリアは奥へと走っていった。

「可愛い妹さんですね」
「ええ。父も猫っ可愛がりで」

「あ、話は変わりますが、時々、変な唸り声みたいなものが聞こえるんですが」
「ああ、ごめんなさい。紹介がまだでした。……エディー! ハリソン!」

 樹里がそう言うやいなや、巨体といってもいい、二頭の立派な体躯のライオンが走ってこちらに向かってきた。

「………………………………」
「………………………………」

 カン太と緑子はフリーズして、言葉を失う。

「さあ、ご挨拶なさい」
 樹里がそう言うと、二頭のライオンはカン太を押し倒して、顔をぺろぺろ舐め始めた。
 もちろん緑子はフリーズしたままだ。

「た、たすけて、くれ……」
 カン太が、息も絶え絶え、そう言うと、樹里はあの奇妙な歌を歌い始めた。

 キーン・コン・コン・コココ・ブギーカカン……

 すると、二頭のライオンは急に操り人形のようになり、おとなしく樹里の横で伏せた。
「お利口ね。じゃあ、しばらくここで待っていなさい」

 樹里はライオンに話しかけると、カン太と緑子を奥の部屋に誘った。
 しばらく茫然とするカン太と緑子であったが、言われるままに樹里の後についていった。

 奥の部屋に入ると、ミリアが、満面の笑顔で出迎えてくれた。血の気が引いていたカン太と緑子は、ようやく一息つく。

「さあ、お掛けになって下さい」
 椅子に全員が腰を下ろすと、カン太の横にちょこんとミリアが座る。

 緑子が嫌味っぽく言う。
「あら、幼女には人気があるようね」

「さあ、召し上がって」
 樹里がそう言うと紅茶に口をつける二人であった。
 その時、あの有名な映画のテーマソングが流れてきた。それは樹里の携帯の着信音であった。
 樹里はアイフォンの画面に指を触れ、電話にでた。

「もしもし……はい………………え?! それは本当ですか? ……はい……はい……わかりました」
 樹里は電話をきると、しばらく茫然としていた。

「どうしました? 何か大変なことみたいでしたけど」
 カン太がそう言うと、樹里は二人にむかってこう言った。

「ごめんなさい。ちょっと、信じられない事が起こったの。すぐに行かなければなりません」



(つづく)


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