ばれ☆おど!⑱
第18話 募金活動はお手のもの?!
「ヤッハロー! 動物愛護部の諸君!」
(作者注※この挨拶はあの有名なあれですが、何か?)
そこに現れたのは、小柄な新聞部の部長、相沢アイリだった。
金髪ツインテールを可愛く揺らしながらポップコーンの袋を二つも抱えている。
そのうちの一つを背後に控えている長身の美少年である副部長の藤原大福丸に渡すと、手にしている方の袋を開けて、中身を口に放り込んだ。
「君たちと組んで正解だったな。そんなすごい情報を手に入れるなんてな。どうやった?」
源二は微笑を浮かべ、答える。
「それは言えないな」
「ほーう。ソースは明かさない、か。我々と同じというわけだ。ハハハ」
「ご理解感謝する。と言いたいところだが、盗み聞きはよくないな」
「偶然だよ。な? 大福!」
「はい。部長」
「なるほど。フフッ。まあいいだろう。ところでユーの要件は何だね?」
「潜入取材の決行日が決まったのでな。知らせようと思ってな」
「ふむ。いつになる?」
「来週の金曜日。12月13日だ」
「いや、まだだ。乗り込むには船が必要だ。その手配を考えると、時間がな」
「その心配はない。我々の取材の為ならクルーザーの一隻くらい無償で、しかも運転手付きで貸してくれる、そんなスポンサーがいるのだよ。この前の取材のときは確かヘリだったかな」
そう言いながら、アイリは一袋目のポップコーンを半分以上平らげている。
「オー、グレイトゥ! いや、うらやましい限りだが、いったいどこのお金持ちなんだ?」
「ここにいる藤原の親父の会社だ。IT関連の事業で成功して、今や飛ぶ鳥を落とす勢いだ。自家用ジェットまで持っているんだぞ!」
ポップコーンをほおばりながら、アイリはエッヘンという仕草で自慢げな様子だ。
「では、細かい打ち合わせをしよう。まず時間だな。今の話だと夜ということだが」
「当日は授業が終わったら、ここに集合、ということでどうだ?」
「わかった。こちらは私とこの藤原の二人で行く。そちらは何人だ?」
「こちらはフルメンバーでいく。四人全員だ」
「了解だ。当日は市内の芝川マリーナまで車で送ってもらうよう手配する」
「うむ。そうか川を下って海に行くのか」
「そうだ。荷物や機材はなるべくこちらで積み込みたいからな」
「フフッ、どうやら、いらぬ心配をしていたようだな。フフフ……」
アイリはポップコーンを口に流し込んでモグモグしながら言う。
「我が新聞部のすごさがわかったか! ワハハハハハハハ……」
「フフフ……ハハハハハ……」
両部長の高笑いだけが、静まりかえった部室にこだましている。
「質問があります!」
カン太が手をあげた。
「なんだ?」
「なんだね」
ギロリと両部長がカン太をにらんだ。
「あ、あ、あのですね。途中で休憩とか、あ、ありますか?」
アイリはすでに一袋目のポップコーンを食べ終えていた。その空き袋を丸めるとカン太に渡しながら、言う。
「ああ、大丈夫だ。海にでて東京湾の『船橋ボートパーク』で燃料の補給と休憩をとる」
「アカンよ。良いところに気づいてくれた。感謝する」
源二はそう言っている間も鋭い視線のまま、カン太を睨みつけている。
カン太は、丸まったポップコーンの空き袋を握りしめながら、思う。
(あの。なんだか二人ともめっちゃ怖いんですけど。いろんな意味で)
◇ ◇ ◇
週末。12月7日。土曜日。
今週のすべての授業が終わり、雀ケ谷南高校には、終業のベルが鳴り響いていた。平和の鐘の音だ。
動物愛護部の部室では、決意のこもった目で源二が今日の部活の方針を説明していた。
「諸君! 来週はいよいよ新聞部と合同でサテンドールの秘密基地に潜入する。だが、我々には解決しなければならない課題が残されている」
緑子が鋭い目をして口を挟んだ。
「部長。何です? 解決って? 装備も、アプローチの手段も確保されてますよね?」
「いや、一番大事なものだ。それが不足している」
今度はカン太が気難しい顔で言う。
「いったい何ですか? その不足しているものって?」
「世の中で一番大事なものや。つまり、銭や!」
「いや、あの、部長いま関西弁でしたよね」
「空耳だ。気にするな。それとも、なんだ。また、言い張るのか?」
「……あ、いえ、ちゃんとした埼玉弁でした」
「よろしい!」
そう言うと険しい表情を少しゆるめて源二は続けた。
「わが校からは備品の貸与はあるものの、基本、我が部には部費がでない。つまり自分で何とかしろということだ」
「ええ?! まるでブラック企業。学校だからブラックスクールですね!」
するとシータが突然喋り出した。
「吾川様。そうなのです。ですが、部として認めてもらえただけでも感謝すべきです。これは源二お兄様の努力の結果です」
実は去年まではシータと源二だけで活動していたのだ。つまり部長を除いては、ほかの部員はすべてシータの後輩ということになる。
源二はしみじみと、過去を噛みしめるような表情で頷き、部員たちを見渡した。
「というわけだ。では今から募金活動を始める!」
◇ ◇ ◇
動物愛護部の一同が向かう先は、駅前のショッピングモールだ。
彼らの縄張りと言ってよい。
彼らは、制服の上から、部のユニフォームである黒いウインドブレーカーを羽織っていた。
――その胸の部分には、雀ケ谷南高校の校章が刺繍されている。また、左肩の部分には動物救済のロゴマークが入っている。
そして、
『SUZUMEGAYA SOUTH HIGH SCHOOL ANIMAL SUPPORT』
というアルファベット文字が、そのロゴマークを丸く囲っていた。
源二は部員たちの前に出て、振り向いた。
「何度か説明しているが、あらためて言わせてもらう」
源二の説明は、募金活動の目的。それと、ネット上で使途明細は広報していること。さらに領収書は求められたら快く発行すること。などである。
「募金を装った詐欺が横行している。だからなおさら気遣いが必要になる。肝に銘じるように!」
しかし、それは杞憂に過ぎなかった。ショッピングモールに到着すると募金箱には列ができた。まさに美少女効果と言える。
少なくとも、通りがかる人は皆振り向く。うるみの妖精を思わせる美少女オーラと緑子の蠱惑的な魅力が対をなして、相乗効果を生んでいるといっても過言ではない。
「ご協力ありがとうございます!」
さわやかな笑顔。心地よいその声。心が洗われるのである。リピーターも多い。
図々しい奴は「頑張ってください!」などと言って握手を求めてくる。(いやいや、何か勘違いしているのではないですか? あなたたちは)
というわけで、圧倒的に男性からの募金協力が多くなるのが、最近の傾向である
「部長! あそこ見てください」
「……何?!」
源二が振り向くとカン太の視線の先には、ある人物が歩いていた。
(つづく)
ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです