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ばれ☆おど!㉔


 第24話 ハーレムへご招待?


 ……(警察の発表では、昨日の深夜、何者かが、NOTE動物園に忍び込み、白くま一頭を連れ去った模様です。動物園の職員の話では、見かけたら、近寄らず、最寄りの警察署に連絡を入れて欲しいとのことです。川辺などを中心に捜索していますが、未だ、その消息は不明です。現場からは以上です)……

 長身のイケメン藤原大福丸は部室のテレビのリモコンを手にとると、電源をオフにした。
「……部長、それにしても怖いですね。最近ちょっと多くないですか? サーカスからライオンやトラが拉致されたり、牧場から競走馬がさらわれたりとか」

 好物のポップコーンを頬張りながらもアイリは答える。相変わらず、その仕草はリスがクルミを食べている様子を見ているようで、とても愛くるしい。
「そうだな。これはもう、組織的な犯罪じゃないかと、私は確信している」

 小学生と言っても通用するほど小柄なアイリは、金髪ツインテールを手で、そっとなでながら話を続ける。
「ところで、大福。この前、誘拐されたときに、突然現れて救ってくれた人のことなんだが」
「やはり、気になりますよね。あの時全滅を免れたのは、あの人のお蔭ですからね」

「あの制服は、確か、聖アグネス女学院高等部だな。リボンの色から、二年生だろう」
「あの〝アグネス〟ですか! さすが、部長、お詳しいですね」

「あの学校の制服は、市内では人気ナンバーワンの座を毎年キープしているからな。このあたりのほとんどの女子は知っているはずだ」

「なるほど……。じゃあ、みんなで手分けして、その人を見つけましょう」
「そうだな。あの時、私は気が動転してお礼の言葉すら言えなかったからな……」

「わかりました。では取材という形で〝アグネス〟の生徒会から情報を得ましょう。そうですね。一年生の部員にもそろそろ経験させてもいいですね。……おい! 本田。お前やってみるか」

「大福! ちょっと待て。その件だが、やはり元は我々の都合でもある。だからな。その。……お前と私の二人で取材しなければ、まあ、いけないのではないかと思う……」
 いつも強気なアイリが、少しうつむき加減でつぶやくように言う。頬もわずかに赤らめている。
「そうでしたね。部長! これは私と部長の二人で直々に取材すべき案件でした」
「二人で……。そうだ! そ、そうだな! ガハハハハハ……」

 翌日、新聞部の部長のアイリと副部長の大福丸は聖アグネス女学院高等部の生徒会の取材に訪れた。約束の一時間の間、生徒会の面々との有意義な時間をすごした。そして、その一時間の取材の中で彼らは有力情報を入手したのだ。

「それにしても、動物愛護部がこの学校にもあるとは、驚きましたね。部長」

「そうだな。意外だ。このような部活が、お嬢様学校にあるとはな」
「まあ、でも手掛かりがつかめてよかったですね」

「…………そうだ! 大福! いいことを思いついたぞ!」
「なんですか?」

「それはだな。我が校の動物愛護部は今すごい人気だ。これを利用しない手はない。そこでだ……」



 ◇ ◇ ◇


 翌日、カン太たち動物愛護部のメンバーである、源二、うるみ、カン太、シータを抱いた緑子は新聞部の企画である、交流を兼ねての『対談』ということで聖アグネス女学院へ向かっていた。

 緑子がカン太を咎めるように言う。
「ちょっと! カン太、何か二ヤけてない?」
「え? 別に二ヤけてなんてないよ」

「お嬢さま学校との交流会、楽しそうね」
「そりゃもう! ん?」
「………………」
「い、いや、ぜんぜん楽しくないよ。もう憂鬱で帰りたいくらいだよ。テヘヘ」

 緑子が意を得たりとニヤリとする。
「部長! カン太が帰りたいみたいです」
「そうか。アカンよ。無理なら仕方ない。帰っていいぞ」
「…………」
 カン太は思う。
(マジすか?!)

 そこに、大福丸が口を挟んだ。
「いや、この前の記事のヒーローがいないのでは、『対談』も盛り上がりません。ですから、多少無理でもお願いしたいのです」

「……そ、そうですよね。うん。無理しますよ。藤原さんがそう言うなら仕方ない。うん」
 恐る恐るそう言ったカン太を、緑子は腕組みしながら、鋭い視線で射るように見つめていた。

 やや焦りながらカン太は思う。
(ふう。アブナイところだった。でも、たのしみだなぁ。ムフフ)



 ◇ ◇ ◇


 聖アグネス女学院。
 ——地元の高校生の間では〝アグネス〟という略称で親しまれ、市内でもっとも由緒あるミッションスクールである。
 名家の子女はもちろんのこと、大会社の社長令嬢や高級官僚の子女が、多く在学し、自然とその校風も品格と威厳が備わっている。
 正門の作りが、そこら辺の公立高校とは全く違う。ヨーロッパの名門大学のような立派な門構えで、部外者は入るのをためらうほどなのだ。
 大福丸のデジカメはメモリがいっぱいになるほど、撮りまくり状態であり、フル回転している。
 中に入ると、やはり地元の有名人である南高の動物愛護部のメンバーを見ると生徒たちは振り返るが、露骨に握手を求めたり、写真撮影などの行為はない。さすがは礼儀作法に厳しいお嬢様学校の生徒たちである。

 手を振ると、どの生徒も、にこやかに微笑んで、会釈してくる。容姿のクオリティーも全体的に高く、ここにはお嬢様オーラが充満している。まさに、ここはハーレムではないのかと思うカン太なのであった。
 必然的に緑子の機嫌は悪化の一途をたどることになる。
 ニヤケ顔が止まらないカン太には、のちほど、緑子から特別な折檻が待ち受けているはずだ。


 正面玄関を入るとすぐ横に談話室がある。そこで対談ということになっている。
 談話室に通され、中に入ると、すぐに気づいた——。

 驚いたことに、あのオッドアイの謎の美少女が、そこにいたのだ。

「はじめまして、かしら?」

 彼女の問に源二が答える。
「いや、恩人の顔を忘れるわけがない」

「私は、深牧樹里と申します」

 深巻樹里(フカマキジュリ)。
 ——聖アグネス女学院高等部二年生。同校動物愛護部部長。父は純粋な日本人だが、母がロシア人である。
 代々外交官の家柄で、日本よりも外国での生活が長い。また、深牧家は競走馬のオーナーでもある。
 特技は華道・御茶・乗馬と、いかにもというものだが、特筆すべきは彼女には〝裏の特技〟が存在することだ。

 新聞部部長のアイリは挨拶する。
「この度は対談に応じて頂き感謝いたします。さて、部長同士はお知り合いということですが、それは後ほどお伺いするとして、恐縮ですが、まずはお互いのメンバーの紹介から入らせて頂きます」

 そう言って、ひと通り、全員が簡単な自己紹介と挨拶を行う。〝アグネス〟の部員たちは樹里を含めて四人でいずれも容姿端麗。立ち居振る舞いも洗練されている。
 その中でも、金髪オッドアイの樹里は白眉である。
 そして、もちろん、カン太の目はハート型になっている。
 緑子がカン太の足を踏む。

「いてっ!」


 ひと通りの自己紹介と挨拶がおわると、アイリがこう言った。
「さて、先日ですが、我が校の動物愛護部の部員とここにいるわたくし相沢、藤原は深牧さんにとてもお世話になりました。本当に有難うございました」
 南校の面々は全員、樹里に頭を下げた。

「……いいえ、気になさらなくて結構よ」

「ところで、その時に、機械音とも動物の鳴き声ともつかない不思議な音を耳にしました。あれは動物たちの不思議な行動と何か関係があるのしょうか?」

「……はい。あります。あれは動物を操る音です」

「ははー、そうなんですか? では、どうやってその特技を身に着けたのですか?」

「アフリカには動物を意のままに操る技術を持つ人がいるのですが、ご存知かしら?」

「いいえ?」

「私は幼少時、父の仕事の関係でアフリカに住んでいました。その時、迷子になって、原住民に保護されたことがあります。一年間くらいでしたが……。私はそこでこの技術を身につけました」

 そう言うと――
 突然、樹里はキラキラと輝く金髪を弾ませながら立ち上がる。

 そして、制服を脱ぎ始めた。

 ……ん?!



(つづく)


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