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不水溶性な日常

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少しのこと、たくさんのこと、いっぱい考えたこと…についてのエッセイ。 あんなことやこんなことを誰かと共有できたらいいなと思っています。
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#ドキュメンタリー

点滴ルームへようこそ 9 (the final)

点滴ルームへようこそ 9 (the final)

Day 9

夜中から降り出した雨が朝になっても止まない。
9日間の最後にして初めての雨。
雨も嫌いではないが、今はあまり歓迎する気にはならない。
しかも、冷たい雨。先日までの変な暖かさを一変して真冬の寒さがまたやってきた。
年に数回しか出番のないダウンジャケットを着て出かける。

「雨の日の病院は空いている」という勝手な推測をしながらスタスタ歩く。
今日でなくてもいい人はわざわざ寒い雨の日にはや

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点滴ルームへようこそ 8

点滴ルームへようこそ 8

Day 8

10時25分病院着。
ほぼ毎日同じ時間に出動している。
点滴ルームに入るのもすっかり慣れて、もうそこで働いている人のようにスタスタ歩き入っていく。
顔見知りになった看護師さんに「今日も元気そう。そのバック可愛いね」などと同僚に話しかけるように話しかけられる。
でもあくまでも私は患者だ。次の瞬間から看護師の真剣な表情を見ながら針を刺されることになる。
ここか境目。患者と看護師の間に流れ

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点滴ルームへようこそ 7

点滴ルームへようこそ 7

Day 7

10時25分着。いつも通り。
椅子席に誰もいない。
こんな日もあるんだなぁと思いながら窓際の席に座る。
患者数が少ないせいか、看護師さんたちも余裕があるようでにこやかに話をされている。
今日はまた違う看護師さんが担当になった。
ベテランさんだ。年齢は私と同じくらいか少し年上かなと思う。
作業を進めながら世間話を上手にされる。

「今日で7回目ですね、少しは落ち着きました?あとちょっと

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点滴ルームへようこそ 6

点滴ルームへようこそ 6

Day 6

今日の担当は、とてもノーマルな感じの看護師さんだった。
いい意味でどこにでもいる感じの人。自意識過剰の反対のパターン。
優しさも笑顔も声のトーンもとてもノーマル。
ふと人生相談なんかをしたくなるような雰囲気がある。
落ち着く。
他の患者さんの担当で通りかかった先日のテキパキ看護師さんが私に気がついて「イトカズさん、調子はどう?あと少しだね、頑張って」と声をかけてくれる。声に張りのある

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点滴ルームへようこそ 5

点滴ルームへようこそ 5

Day 5

やっと、やっと、5日目にして窓際の席を確保する。
勝手なイメージで月曜日って混んでいると思っていたけど点滴ルームは椅子席にひとりいるだけで空いていた。
テキパキ看護師さんが「あぁ、イトカズさんおはようございます。好きな席座って。今日は窓際も空いてるよ〜」とまるで女子会の席順を決めるみたいな楽しさを込めて言ってくれる。
入り口近くに座る同じ歳くらいの女性に「おはようございます」と軽く挨

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点滴ルームへようこそ 4

点滴ルームへようこそ 4

Day 4

救急外来で点滴を受ける。
日曜日は一般外来が閉まる。
その対策として救急外来の処置室で点滴を受けることになっている。
注意書きに『救急患者さんが優先となるため、多少お待たせすることもあります。ご了承ください』と書いてある。
そりゃそうだろう。というか、救急の現場で点滴を受けれるというのが私としては予想外なのだけど。
救急外来のインターフォンを押して用件を伝えると解錠されて中に入れてく

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点滴ルームへようこそ 2

点滴ルームへようこそ 2

Day 2

昨日からの症状は改善されないまま2回目の点滴治療に行く。
歩いて5〜6分ほどの距離にある病院だけど気持ちは遠い。
それでも1度通えば常連客のような厚かましさもある私ゆえ、長年歩いてきた道を行くようにスタスタ歩いて受け付けを済ませる。
病院は大盛況。
スタッフは大忙し状態でワサワサしている。

昨日の帰りに「眠れないかもしれません」という嫌なお知らせを受けていたが、妙に眠れた。処方され

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点滴ルームへようこそ 3

点滴ルームへようこそ 3

Day 3

今日は点滴ルームにジャズの音楽が流れている。
モードジャズとでもいうのか、少々おとなしい調べではあるが、クラシックほど仰々しくなく人々を癒す効果はあるようだ。
でもどうして?
あっ、土曜日だから?
朝10時半という時間帯にとてもマッチしているBGMが心地いい。
先客が椅子席に2人ベッドに3人いらして、私はまた入り口から2番目の椅子席に座る。
椅子席の先客は2人とも若い男性。それぞれス

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  点滴ルームへようこそ 1

点滴ルームへようこそ 1

Day 1

そこにいる人々は、リクライニングの椅子に腰掛けて腕に針を刺され何らかの薬品が入った透明の袋から流れてくる液体を享受していた。
眠りこける人、スマートフォンで動画を見ている人、飽きずに外をいつまでも眺めている人…それぞれ自由にというと素敵な感じに受け止められるが、それは少し違っていて、自由にするしか仕方のない不自由さという感じだろうか。袋の中身が空っぽになるまでの間、限られた方法で自

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