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ワイルド・サイドが私を呼んでいる

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2021年5月2日。社会人1ヶ月にして荒波に耐えきれず三浦半島まで流れ着いた1人の新社会人のリアルな記録。
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vol.6 ワイルド・サイドが私を呼んでいる

vol.6 ワイルド・サイドが私を呼んでいる

 ふらり、ふらりと来た道を戻ると、人だかりのできている店があった。気になって近くに寄ってみると、肌を焼いた筋肉質な青年が黙々とトウモロコシを焼いていた。有無にトウモロコシを焼き続ける青年に魅かれ、ちょうどお腹も減ったこともあり、この店で昼食を摂ることにした。

 大衆食堂の雰囲気が漂う店内は、ただ空腹を満たしに来た人たちがほとんどであり、目の前の食べ物に夢中であった。中には、昼間からビールを飲んで

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vol.5 馬の背洞門へ

vol.5 馬の背洞門へ

 その後、野良猫と別れた私は城ヶ島の観光名所である馬の背洞門を目指すために小さな丘陵に登った。道の両脇には草木が生い茂っていたが、人が往来するせいか整っている道であった。

 ゴールデンウィークとはいえ時刻が午前10時半前後だったこともあり人通りはほとんどなく、ほぼ貸し切りだった。海からの風が心地よく、気分がよくなった私は大事な充電を削ってスマホの動画機能を立ち上げ、パノラマ撮影をした。

 しば

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vol.4 野良猫

vol.4 野良猫

 翌朝、目が覚めたのは確か6時頃だった。連休中に会う約束をしていた会社の同期から断りの連絡が入っていたのには興が冷めたが、私も私で人に会えるような精神状態にまで回復していなかったので、これはこれでいいか、と返事を送った。

 予想以上に早く起きてしまったため、7時半ごろまで二度寝をしてからようやく起き上った。港にそそぐ朝日はまぶしく、窓を開けると風もおだやかで絶好の行楽日和だった。備え付けのケトル

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vol.3 宴会

vol.3 宴会

 幸運なことに、三崎港のバス停の方へ行くと1軒コンビニがあった。気分の良くなった私は最低限のスキンケアセット、マスク、アイシャドウをかごに入れた後、迷わずアルコールを取りに行った。コンビニには、肌を焼いてビーチサンダルを履いた兄ちゃんと姉ちゃんが集まってくる。学生時代、コンビニで酒とつまみを買って盛り上がっていた連中を散々バカにしていたが、まさか自分がその人たちと同じようなことをしようとしていると

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vol.2  まごころ

vol.2  まごころ

 寝床を確保した私は、さっそく夕食と必要物資の調達のために外に出た。港にはまだ強い風が吹きつけていたが、先ほどより寒いとは感じなかった。日が完全に沈む前のかすかに明るい空の色も見えて、自分の視野が広がるのを感じた。

 夕食の場所は、迷うことなく女将と板前のいる店に行くことに決めていた。お世話になったからには、ささやかなお礼の気持ちとして利用するのが当然だと考えたからだ。店に入ると、女将は何もなか

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vol.1 漂流

 

 2021年5月2日。私は気がついたら京浜急行線の終着地点、三崎口駅まで来ていた。時刻は17時を回っていた。日が傾き出しており、海からの強風に煽られた私は、身体の熱がどんどん奪われるのを感じた。上着を羽織って来なかったのもそうだが、自分の不可解すぎる行動に呆れ果てた。

 三崎口に来る前、私は何をしていたのかというと、駅前のスーパーに買い出しをしていた。いつもなら陳列している商品を眺めながら

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