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バレエ漫画60年の遍歴 1980~1990年代編

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1980年代

80年代は少女漫画の黄金期です。
SFをはじめとした、様々なジャンルの作品が登場しました。
1984年に別冊マーガレット(9月号)の発行部数が過去最高の192万8千部を記録したことからも、全盛期であったことが分かります。
この少女漫画の黄金期に欠かせない要素が、ずばり「恋愛」です!

80年代のバレエ漫画は、本格バレエストーリ + α で恋愛が含まれているのが特徴です。
80年代のバレエ漫画の主人公は、ひたすらに恋をしています
(もちろん、70年代の主人公たちも恋をしています。しかし、『SWAN』の真澄のように、恋愛よりバレエを優先している雰囲気を感じます。)

バレエ漫画の作品数は、80年代以降、減少の傾向をたどります。しかし、フィギュアスケートや社交ダンスなど、バレエを源流にした美と身体性を表現する「ダンス漫画」が増加しました

日本バレエ界では、1989年に、熊川哲也がローザンヌ国際コンクールで日本人初の金賞受賞。同年、英国ロイヤル・バレエ団に東洋人で初めて入団するという、素晴らしい功績を収めました。

「ローザンヌ国際コンクール」や、「ロイヤル・バレエ団」の名前は、今回紹介する16作品の中にもたくさん登場します。日本バレエ界の功績と照らし合わせて読むのも面白いかもしれません。


1.『Lady Love』 小野弥夢

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【図24】『Lady Love』より引用

掲載年/掲載誌:1981~1984年/別冊少女フレンド
巻数:単行本全8巻(講談社)
主人公:レージテージ・ミッシェル(レディ)(12~19歳ごろ)
登場国:イギリス、モナコ、アメリカ、フランス

あらすじ
バレエが何よりも好きな少女、レディ。彼女の夢は、メリング先生のような世界一のプリマになること。
小さな胸に大きな夢と希望を秘め、レディは、今日も踊り続ける。話題のヒロムのダンシングドリーム第1弾!
(単行本1巻あらすじより)

今回読み比べをするにあたり、バレエ漫画を紹介しているサイトを色々拝見したのですが、実は『Lady Love』を紹介しているものは見なかったです。
自力で探し出したこの作品ですが、とにっかくめちゃくちゃ最高でした…!せのおが紹介する全16作品の中でも、1番のダークホース(笑)でおススメです

小野弥夢先生は、大和和紀先生のアシスタントを経て、1977年に別冊少女フレンドでデビューされました。
『Lady Love』は1984年に第8回講談社漫画賞少女部門を受賞しています。本作は続編やスピンオフも出ており、『Lady Love 愛するあなたへ』が2005~2010年にBE・LOVEで連載されていました。

『Lady Love』は、80年代らしい、とってもファッショナブルな作品です。
【図24】のような、バレエシーンのロマンティックな演出は、この作品が突出しています

レディのパートナーになるマーシーは、2人が通うクイン・バレエ・アカデミーで出会います。
冒頭はバレエアカデミー版・学園恋愛ものの感じが新しいです。
2人でコンクール入賞を果たした後、マーシーNYへ、レディはロンドンに残るという別々の道を選ぶことに…。
それぞれの道を進みつつ、お互い最高のパートナーとして、再び一緒に踊ることを夢見ます。
後半は、コンクールで知り合ったロージャも物語に加わり、劇的な展開へ発展していきます

【図24】は、数々の辛い困難を乗り越え、2人の夢を掴んだ瞬間です。
読者をレディとマーシー2人だけの世界に誘ってくれるような雰囲気が最高ですね!せのおが一番大好きなシーンです。

その他のバレエシーンも、非常にドラマティックです!

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【図25】バレエシーン(『Lady Love』より引用)

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【図26】バレエシーン(『Lady Love』より引用)

ロンドンの街並みを生かし、人物の格好がお洒落だったり、某ロック歌手に似た男性キャラクターが登場したりする演出も、小野先生らしいです。
「白鳥の湖」を土台にしたオリジナルバレエにロック音楽も使用する場面も、小野先生らしい演出と言えるでしょう。

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【図27】『Lady Love』より引用

また、紹介する16作の中では一番早く黒人のプリマを描いていたことも述べておきます。

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【図28】『Lady Love』より引用

(【2020.7.17追記】黒人のプリマの登場は、飛鳥幸子先生『ガラスの靴』(1974〜75年、小学三年生)から見られるとの情報いただきました!ありがとうございます。)

何ともありがたいごとに、『Lady Love』はマンガ図書館Zで全話無料で読むこともできます。こちらのサイトは、ちゃんと合法ですので(笑)、ご興味ある方は読んでみてください!

☑その他の見どころポイント

ロージャのソ連亡命。

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【図29】『Lady Love』より引用

世界バレエコンクールで、レディ&マーシーのライバルとなり、その後世界的に活躍していたロージャ。しかし、彼にはソ連の社会主義による拘束がありました。恋人と別れ、イギリスへ亡命しレディたちと共に踊る運命を決意します。
『アラベスク』でも、劇的な亡命シーンは描かれていますが、個人的には『Lady Love』の方がより明確でダイナミックに描かれているように感じます。
その後のロージャの運命にも注目です!

2.『フラワー・フェスティバル』 萩尾望都

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【図30】『プチフラワー』1988年7月号扉

掲載年/掲載誌:1988~1989年/プチフラワー
巻数:文庫版全1巻(小学館)
主人公:五所みどり(高校2年生)
登場国:日本、イギリス

あらすじ
バレリーナの卵・五所みどりの兄はロンドンに住んでいる。兄の名は薫、英国人を父に持つ美形で名門バレエスクールの音楽講師だ。
そのバレエスクールのサマー・キャンプに参加いたみどりは新作公演「12宮フェスティバル」に抜擢されるが、思わぬ大役にとまどいを隠せない。
そんなみどりの前に、愛にまつわる複雑な人間模様が現れる…。
萩尾望都がバレエに捧げる愛とオマージュ!
(文庫版あらすじより)

萩尾先生は80年代、『銀の三角』(1980~1982年、S-Fマガジン)『マージナル』(1985~1987年、プチフラワー)の、ハードSF作品の連載をされていました。
『マージナル』終了後、「ふつうの女の子を描きたい」という思いをきっかけに、『フラワー・フェスティバル』の連載を考えたそうです。
そして本作を封切りに、『ローマへの道』(1989年、プチフラワー)『感謝知らずの男』(1990年、プチフラワー)などのバレエ漫画を執筆されるようになります。

本作は、これまでのような、数年にわたった主人公のバレエ人生を描いたものとは打って変わった作風です。
主人公・みどりが参加する、ロンドンのバレエ学校のサマーキャンプでの2か月間を描いています。

みどりがサマーキャンプに参加する動機の一つに、「恋」があります。
みどりは義理兄・薫のことが好きです。薫がみどりのバレエを応援するからバレエを続けている。薫がロンドンに留学中だからサマーキャンプに行きたい、という想いがあります。

本編では、みどりがロンドンへ訪れたことによって分かる家族の新事実、そしてサマーキャンプをとりまく事情が徐々に明らかになっていきます。
人と人との繋がりや感情に焦点を当てた、とても萩尾先生らしい作品です。

かといって、バレエの話がおざなりになっている訳ではありません。
薫のロンドンの友達で、バレエ学校に通うガブリエルが監督する「12宮フェスティバル」に、サマーキャンプ生も参加することになります。
みどりは主役の精霊(スピリット)に抜擢されます。
みどりと、精霊のパートナー役を踊るサンダーが、一緒に踊りを完成させていく姿は、読んでいてとてもわくわくしました。

他作と比べて既存のバレエ作品を踊ることは少ないですが、「12宮フェスティバル」のバレエシーンもとても華やかで美しいです。

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【図31】『フラワー・フェスティバル』より引用

萩尾先生の代表作としては挙がらない作品ですが、やはり素晴らしく面白かったです。
日常に近い風景を描いており、萩尾先生作品初心者でも挑戦しやすい作品だと思います。

☑その他の見どころポイント

みどりと一緒にサマーキャンプに参加する玉子ちゃん。
バレエ漫画史上、最もデブな女の子(ひどい、笑)。オーディションでグラン・フェッテ(「白鳥の湖」の黒鳥の踊り)を32回転どころか、50回転もしました!

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【図32】『フラワー・フェスティバル』より引用

「12宮フェスティバル」で大地の女神を踊った彼女は、とても勇ましかったです。

1990年代

先に日本バレエ界の状況を述べますと、90年代の日本バレエは大きく前進します。
ロイヤル・バレエ団に東洋人で初めて入団した熊川哲也が、1993年に同団のトップであるプリンシパルに就任します。
退団後、1999年に自らのバレエ団「Kバレエカンパニー」を立ち上げ、今現在は日本を代表するバレエ団の1つとなりました。
余談ですが、2019年時は、ロイヤル・バレエ団のダンサー103人のうち、10人が日本人でした。多国籍のダンサーがしのぎを削る中で、この日本人ダンサーの割合は、かなり多いと言えるでしょう。

熊川を中心に、日本人バレエダンサーの認識がまた大きく変わった時期でしたが、それに反して90年代のバレエ漫画は閑散期(笑)です。

90年代は、バブルが崩壊したり、若者文化が大きく変わったり、また、少女漫画市場も岡崎京子らの登場でかなり一変しました。
漫画の主人公たちは、バレエを踊っている場合ではなかったのかもしれませんね…。

しかし、閑散期とはいいつつ、00年代の新たなバレエ漫画に向けた布石が打たれます
1995年には、ギャグ漫画ではありますが、少年誌で初めてバレエを取り上げた徳弘雅也の読切『バレエ入門―俺がバレエを始めたわけ―』(週刊少年ジャンプ)が載ります。
1998年によしながふみが、BLを含む多ジャンルが掲載される雑誌「Wings」で、『踊る王子様』という短編(オムニバス作品の1作)を描きます。
そして1998年のさかたのり子『プリマでいこう!』(JOUR)を始めとし、女性誌でも徐々にバレエ漫画が読めるようになります。
90年代にこれらの布石が打たれ、00年代でバレエ漫画の領域がさらに拡大されることは、後の話としましょう。

1.『トウ・シューズ』 水沢めぐみ

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【図33】『トウ・シューズ』より引用

掲載年/掲載誌:1997~1998年/りぼん
巻数:単行本全5巻(集英社)
主人公:森野くるみ(13~17歳)
登場国:日本、イギリス(※イギリスで1年半バレエ留学するが、現地での生活は書かれていない)

あらすじ
くるみは小学5年生の時に初めて見に行った「くるみ割り人形」の舞台に衝撃を受け、穂坂バレエスクールに入団した中1の女の子。ある日くるみは、病気で降板した憧れのはづきさんの代役を任されることに!! バレエを始めて2年たらずのくるみは、はづきさんとのレベルの差に戸惑うが…。夢と友情バレリーナストーリー。
https://www.s-manga.net/items/contents.html?jdcn=08856038856038315501

りぼんが1番売れていた90年代(1994年2月号で255万部発行)を支えた漫画家の1人、水沢めぐみ先生のバレエ漫画です。

ちなみに水沢先生は、19年間りぼんで作品を掲載しており、一条ゆかり先生を抜かしてりぼん掲載年数の最長記録者です。

『トウ・シューズ』は、あらゆる面でとってもりぼんらしく、そして水沢先生らしい作品です。
夢や目標に向かって、前向きに頑張る主人公くるみの姿が描かれています。

くるみは、背が小さい(145センチ)ことがバレエをする上でコンプレックスです。憧れの男性バレエダンサー、穂坂一臣と身長差がありすぎて一緒にパ・ド・ドゥを踊れないという悩みがあります。
そんな中を、同じクラスで背の小さいサッカー部の岩崎智也と、一緒に励まし合い、また良きライバルとして切磋琢磨し合う姿がとても微笑ましいです。
2人とも、自分の理想とする踊りやプレイを実現するために、積極的に挑戦しますが、中々上手くいかなかったり、時には周りから怒られたりもします。しかし、くるみと智也2人で一緒に乗り越えていく物語は、りぼんっ子に元気を与えたことに間違いはないでしょう

くるみがコンクールに1度参加する場面もありますが、基本的には、習い事で通っているバレエ教室の公演にまつわる話です。
くるみがケガをして公演に出場できなくなったり、一臣が心臓病を患っていたりしますが、これまで紹介してきたバレエ漫画とは違い、誰も死なず、悲しい展開がない点も、水沢先生らしい作風と言えるでしょう。

☑その他の見どころポイント

あとがきにも注目!「めぐタンのバレリーナ物語」。

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【図34】『トウ・シューズ』より引用

単行本すべてのあとがきに、水沢先生のバレエスクールの体験談があります。
集英社の公式プロフィールの趣味に「クラシックバレエ」と記載されているのは、この経験がもとでしょう。
『トウ・シューズ』以外にも、あとがきでバレエを語ってくれる作品は多々あるので、是非読んでみてください!

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