見出し画像

#168_【読書】コンテナ物語/マルク・レビンソン著 村井章子訳(日経BP)

お客様をガイド中、朝鮮半島が見える場所に行きますと「あれは韓国ですか?」と尋ねられます。
しかし、「どれどれ…」思い見に行くとタンカーだった、ということもよくあります。

【水平線の上に島っぽい影がふたつありますが、釜山であれば陸がつながっています。】
【視界良好ですと、釜山の街並みはこんな感じに見えます。】

世界最大のタンカーは全長400mを超えるそうで、下手をすると沿岸にある島よりもデカいなんていうこともありますから、ムリもありません。

ちなみに、400mという長さはどの程度なのかといいますと、16両編成の新幹線と同じ長さになります。
船で例えるなら、横須賀にいる米軍の原子力空母よりも長いです(全長333m)。 逆にそちらは、たったそれだけの長さの船で飛行機を離着陸させるわけですから、違う意味で驚異的ですが…(゜o゜;;。

【2008年12月にみた米海軍空母の「ジョージ・ワシントン」です。】
【滑走路もあります。】

タンカーといえば、世界の物流を支える大事な役割を果たしていますが、なんとなく「物流」といいますと、物を右から左に流すだけの地味といいますか、単調といいますか、誰でもできそうなといいますか、少なくともイノベーションのかけらも感じられないイメージを持っていましたが、島の物流は海運に支えられていますし、海運に興味がある人なんて世の中あまりいないだろうと思い、ガイドのネタ集めで調べることにしました。
そんな折に出会ったのが、「コンテナ物語」という本です。

ここ数日、近代化遺産の記事を集中的にアップしていますが、史跡の紹介だけでまだ1週間以上かかりそうですので、今回は箸休めとして、この本の紹介をしたいと思いますf^_^;)。


コンテナ物流の実情

本の中身に入る前に、国土交通省が発表しています「世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング」を簡単に見てみましょう。

1980年の上位10カ所は、地球上であまり地域に偏りがない印象で、日本では神戸港が4番目に位置していました。
しかし、2022年の速報値を見ますと、トップ10のうち7箇所が上海、寧波-舟山、深圳など中国、残る3つもシンガポール、釜山、ロッテルダム(オランダ)と、国際物流は、ほぼアジアの独壇場です。

余談ですが、釜山の取扱業は2207.8万TEUに対し、京浜地区の港(東京+横浜+川崎)の取扱量を全部足し上げても801.9万TEUということで、釜山港は日本最大級の港と比較しても、ケタ違いに規模のデカい港になります。
そりゃ、島みたいな図体の船が対馬近海をうろちょろしているわけです。
※TEU:20フィート換算したコンテナ個数を表す単位

しかし、釜山の人口や港の規模は、多くの日本人に勘違いされてるようで、数字を並べて説明しても、疑ったり反論してきたりする方がたまにいらっしゃいます(苦笑)。
たしかに、数十年前は、アジアのハブ港を神戸が取るか釜山が取るか、という感じの議論をしていた記憶がありますが…。

1点補足しますと、日本の人口のようにどこかが増えたらどこかが減るという感じの「ゼロサム」な話ではなく、世界全体の取扱量がうなぎのぼりであるところ、昔から貿易がさかんな港も取扱量が増えてはいるものの、新しく整備された港がとてつもない取扱量を叩き出している、という潮流です。

コンテナが発明されるまでの紆余曲折

港湾労働者の存在

港湾労働は 重労働なだけでなく、危険と隣り合わせ でもあり、船が到着する時間も不規則でしたので、肉体的にも精神的にも過酷な労働条件であったようです。
そして、賃金こそ平均的な肉体労働者より高かったものの、社会的 評価は著しく低かったとも。
港湾といいますと、荒くれ者がウヨウヨいて、さらにそういう人たちを束ねる集団があって、というきな臭い雰囲気が連想されますよね。

そんな港湾の現場にも機械化や効率化の波が押し寄せ、所得補償などをめぐり、ストライキなどの労使紛争が絶えませんでした。
労使間、組合内部など様々に利害対立があったようですが、紛争が絶えなかったことにより、だんだん海運業界全体が、作業効率を大きく改善をしないと労働者の賃金や福利厚生を賄いきれない状況になり、コンテナリゼーションの加速へと突き進む進むことになります。
港湾労働者は、力を持ったことにより仕事がなくなるという、何とも皮肉な結末が待っていたということです。

規格化

港に行くと同じような形をしたコンテナがうずたかく積まれている光景に対して、さも当然くらいにしか感じられないかと思いますが、実はその過程にも紆余曲折がありました。

まず、コンテナがきれいに積まれるには、3辺の長さが統一されていないとこのようにはいきません。
鉄道を例に考えてみますと、都市圏ではあちこちで相互直通運転が行われるようになっていますが、実現させるためには、ほかの会社の線路にも入れるよう車輌の線路幅を合わせないとなりませんし、各社の車輌で運転台などの機械類が全く違うと、運転士さんが困ってしまいます。最近では、ホームドアが設置されるようになり、ホームドアの位置にドアの位置が合わない車輌は、廃車か別の路線にドナドナになる、ということも起きています。

最初はたかが3辺の長さくらいでしょ?と思いましたが、コンテナは港から先、鉄道やトラック、トレーラーへの積み替えもしますので(これが、大きな強みですが)、そこで不都合が生じないことを考慮しなければなりません。長さであったり、強度や吊り下げ重量であったり、ロックする金具であったり。
設計段階で船に載せることを想定するのと、それが鉄道とで、最適な長さや形が違うはずですから、どれに優先して合わせるかということで覇権争いのようなものがあり、いまの形に落ち着いたのだと思います。

物事を効率化をするためには、このような地味なすり合わせが、実は大切であることを痛感します。

コンテナが普及してから

タンカーや港の大型化

どうせ運ぶのであれば、 一度に大量に運べたほうがいいので、まず運ぶための船が大型化します。
つづいて、船が大型化してきますと、次はそれに対応できる長さや深さの岸壁にクレーンをはじめとした設備が整った港が必要になってきます。
そして、扱うコンテナの数も増えますから、広大なコンテナ置き場も必要になってきてきます。

かくして全てが巨大化していきますと、この流れに対応できる設備を持つ港にはますます荷物が集まる一方、対応できる設備が整っていない、あるいは更新できない港の地位は落ちていき、這い上がるのも困難になっていきます。

本書の本題から外れますが、このような選択と集中のような流れがますます進んでいきますと、港湾が不可欠なインフラである我々離島の住民にとっては、世の中から見放されるのではないかという気がしてきます。
それが良いのか悪いのかは分かりませんが…。

輸送費の変化

大量に荷物を運べるようになれば、1個あたりの輸送費は下がるということは、容易に理解できるところと思います。
それが、海上輸送では、効率化が進みすぎて、陸送するよりも輸送費用が安く上がってしまうレベルまで来ているのだそう。
100均のビジネスモデルの話を聞いたとき、最初は単にボリュームディスカウントで1個あたりの原価が抑えられているのだろうと思っていましたが、運んでくる費用も安かったということですね。
裏を返しますと、コンテナを満杯にするだけ製造しないといけないという話もつながりそうですが、このように考えていきますと、国内でも生産できるものをわざわざ海外生産にしたり、原料の仕入を輸入に切り替えたりする背景が見えてきます。

将来に思ったこと

コロナの影響で巣ごもり需要が増加する2021年3月、スエズ運河でタンカーが座礁した事故があったのは、ご記憶でしょうか。

スエズ運河が塞がれ、タンカーが立ち往生や迂回により「荷物がスケジュール通りに運べないという事態が起きたんだなぁ…」くらいまでは素人でも想像が付くレベルの話ですが、それによって空のコンテナが不足すると騒がれました。

一体どういうこと?と思いましたが、コンテナが規格化され、積み荷の混載もなくなったおかげで、荷物の上げ下ろしが効率化され、荷物が港に滞留する日数が激減しました。
しかし、船や港湾が大型化しているため、投資を回収すべく、それぞれを回し続けなければならない状況にもなっています。
ということで、荷動きが止まってしまっては、荷物を積み込む空のコンテナが回ってこないという事態に直面したわけです。

トヨタ自動車のカンバン方式でも指摘されることですが、在庫をなくす、すなわち部品(荷物)を滞留させないことによって、効率的にものを流す半面、流れることが前提となるので、ひとつの工程が躓いたら全てが止まる、ということが起こります。
もしかしますと、物流は「止まらない」を通り越して「止められない」という段階にまで来てしまったのかもしれません。

船や港湾に巨額の設備投資をし、ここまで規格化、効率化が進んで行った先にどのような未来が待っているのか、またどのようなゲームチェンジが起こるのか、とても気になるところです。

まとめ

物が滞りなく右から左に流れるのには理由がある、それは昔から当たり前ではなく様々な泥臭い努力の積み重ねであったことを認識しました。
凡庸に見えてしまうものに、革命的なイノベーションが隠されているというギャップが面白く、イノベーションのかけらも感じられないとか書いてしまったことを反省しなければなりませんf^_^;)。

そして、この記事が上手くまとめきれているのか分かりませんが、本書では、他にも積み荷の盗難対策をしたことによって生まれた副次的効果や輸送量のアンバランス(行きと帰りで積み荷の量が違う状況)を解消する試み、クレーンの遠隔操作化など、多岐にわたる話題が満載に書かれています。

辞書みたいな厚さの本ですが、日常に刺激が足りないとお感じの方、イノベーションを生み出したいという方、ぜひ手に取ってみてくださいo(^-^)。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?