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『「人間ではないもの」とは誰か:戦争とモダニズムの詩学』(青土社)、詩集『遠さについて…

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『「人間ではないもの」とは誰か:戦争とモダニズムの詩学』(青土社)、詩集『遠さについて特装版』発売中!詩歌/哲学/創作

最近の記事

オランダ備忘録(6)出会って一週間でカップル誕生⁉

オリエンテーションウィーク中には、非公式活動として飲み会とか浜辺でチルアウトとか、(チルって言葉、オランダで初めて覚えたわ) もあった。 砂浜は、北海。ガトウィックってとこまで行ったかな。 すみずみまで磨かれた窓みたいな、完璧に整備された公園のような住宅地のようなところを通って行った。 オランダは住宅地がそのまま公園のように緑が多くて美しいのがいいところ。 北海の砂は白。薄曇り。 けっこう穏やかで全体的に白っぽい印象の海と空だったと思う。 実は、砂浜の砂は不足していて、地

    • オランダ備忘録(5)もっと早くに来ていれば…。

      オリエンテーションウィークで、最初に圧倒されたのはやっぱり向こうの教会だろうか。 街の中で一番大きな教会。ややゴシックぽい尖塔。ゴシックほど尖ってないから、ロマネスクなのだろうか? ちょっと建築には詳しくないので正確なところは不明。(後期ゴシックだそうです) 高い窓から日光が入り、円柱が巨木のように内部に並んでアーチ型になった天井を支えている。 内装は白っぽい。柱、床、天井が白大理石からできている。 清潔で明るい雰囲気。 オランダはプロテスタントの国だから、中世まであっ

      • オランダ備忘録(4)何ゆえオランダに?

        授業が始まる前に、交換留学生向けの一週間のオリエンテーションウィークがあった。 ビーステン・マルクトという、運河に面した広場。 ビースト・マーケットはその名の通り、獣市場。昔は動物を売り買いしていた場所らしい。 石畳で、噴水が噴き上がっている。ぐるりには、商店が並んでた。 建物はみんな煉瓦でデザインも統一されてるので美しい。 煉瓦に白の飾りぶち。 そこに、ぞろぞろと売られる羊や牛のように集う私たちであった。 グループは7つとかにわかれていて、それぞれ二人の案内人が旗かプラ

        • オランダ備忘録(3)乙女チックなルームメイト

          何日か一週間弱だったか。ルームメイトのベッドは空いていた。 まだ自分の部屋に入れない、到着したばかりの学生が、他の人の部屋に泊まらせてもらうという習慣があった。 とある日本からの留学生が探してたので、空いてるよ~とメッセージ。 当日、けっこう夜まで連絡つかなかったので、大丈夫だったかな~? と思ってたけど、なんとかMちゃん無事到着。 その後も一緒に出かけたりすることになる。 そして、相方の中国人留学生が到着。 部屋に帰ったら着いてて、荷物を広げていた。 見た瞬間の感想

        オランダ備忘録(6)出会って一週間でカップル誕生⁉

          オランダ備忘録(2)水と緑の住宅地

          大学からアパートの鍵を受け取って、スマラグドラーン(宝石の名前エメラルドだったかな)へ。 ライデンの中心地は、城壁に囲まれていて、その外、郊外に建てられた新興住宅地である。 新興住宅地のストリートは、ぜんぶ宝石の名前が付けられてた。 部屋は、普通の団地の一部屋。学生が多いけど、それ以外の一般住民も。 普通の団地といってもやはり日本のとは佇まいが違っている。 建物は、全体的な作りが大きくて、窓が広くて天井が高い。 たいていの団地が、窓枠などにペイントされていて、レゴ感という

          オランダ備忘録(2)水と緑の住宅地

          オランダ備忘録(1)到着まで

          初めての海外滞在として、オランダに半年いたのが2016年夏から2017年明けるまで。 生きてきた中で、今までで一番幸せだった、といっても過言ではないほどの時期だった。 なんでそんなに幸福感を感じていたのかは、たぶん異文化との出会いの初期段階の陶酔効果というものもあるんだとは思うけど。 けどなんだか、すごく、自由になったような、世界が広がったような感じがしたのは事実である。 今までも、ちょこちょこ書いてはいたけど、忘れ去ってしまう前に、少し備忘録として記しておこうかと思い。

          オランダ備忘録(1)到着まで

          やさぐれエンジェルと天国の七階:第三話

           翌朝、晴れた空を見上げると、空の遥か高いところに王冠の形をした雲が渦巻いていた。  天の第二層だ。  壮大な眺めだ。あの上までたどり着けたらどんなもんだろうと想像をめぐらしていると、首からIDカードを提げた二人の使いがやってきた。  胸ポケットのある半袖シャツに紺色のズボン。  これまた、電気料金を測りに来た係員みたいな感じだなあ。  一人は水筒と弁当箱を沢山入れたカートを押していて、もう一人は巻物を脇に抱えている。一人が巻物を読み上げて「到着者」たちに次々と仕事を割り

          やさぐれエンジェルと天国の七階:第三話

          やさぐれエンジェルと天国の七階:第二話

           もちろん、この世界に神はいる。  実際、本物の天使が各地に降臨して各国政府に助言を告げるわけだし。  神そのものは姿を現したことはない。  それでもその御使いである天使の存在は公的なもので、映像だって撮影されている。  戦争が起こりそうな時など人類の重大事にはいつも彼らが出現して調停するのだ。  この前はニューヨークのエンパイアステートビルの上空と、サウジアラビアのトリリオンタワーの上空に出現した。  *  俺は神の高さまで到達する準備を始めた。  この世界で一番高い山

          やさぐれエンジェルと天国の七階:第二話

          やさぐれエンジェルと天国の七階:第一話

          あらすじ俺は治安を守る「偽」天使部隊の一員だ。心がやさぐれるにつれて薄汚れた翼を、ぜんまい仕掛けの翼と交換してせいせいした。怪しげな商人によると、この翼で神の御許まで昇っていけるとか。もちろんそんな言いぐさは信じていない。 しかしある時、勤務中に俺のせいで同僚が死んでしまい、俺は彼を蘇らせるために本当に天国まで飛ぶことを思いたつ。 だけど到着した天国は単なる役所みたいだし、地上の人々の運命はあらかじめ定められているとか。俺は神に会って直訴するため、天国の七階を目指すことにした

          やさぐれエンジェルと天国の七階:第一話

          風と霧と自転車と―オランダ滞在記③個人的自由と花火

          個人的自由と花火 新年を告げる花火。花火の打ち上げ方一つとってもオランダと日本の違いは鮮明で面白い。 日本の花火大会では、専門の花火師が盛大なものを打ち上げ、市民はそれを見に集うのだが、オランダ、ベルギー、ドイツ等では市民がてんで勝手に住宅街や広場やそこら中で、この日のために買い込んだ花火をぶち上げる。 混雑しているとはいえ日本の花火大会が秩序立てられて整然としているのに比べ、自由な意志の発露みたいに、オランダのこの日は少し混沌とする。 打ち上げ花火が許されるのは、大晦

          風と霧と自転車と―オランダ滞在記③個人的自由と花火

          風と霧と自転車と―オランダ滞在記②「シンタクロース」からの手紙

          「シンタクロース」からの手紙12月は、オランダにとって何よりもシンタクロースの季節だ。そう、誤植ではない、「シンタ」である。 シンタクロースはサンタクロースと一味見た目が違う。 十字架模様の入った帽子をかぶり、杖と大きな本を抱えていて、枢機卿のようなマントを羽織っている。 それに、トナカイではなくて、お手伝いのズワルト・ビートを何人も従えている。 橇ではなくて船に乗ってスペインからやって来る。 庶民的なサンタさんよりも、なんだか社会的地位が高そうなのだ。 シンタは実は

          風と霧と自転車と―オランダ滞在記②「シンタクロース」からの手紙

          風と霧と自転車と―オランダ滞在記①

          冷たい雨の中の体温異国語に囲まれて暮らすことは、あらためて言葉の音や触感、発音の仕方が人々に独特の空気をまとわせることを認識することだ。 まるで唾を吐き出すかのような、うがいをするような息の摩擦が頻繁に生じるオランダ語。 背が高くて白くふわりと砂糖菓子のように甘い気配の彼らの身体と結び付く。もちろん白い彼らだけではない。 オランダは多人種からなる国なので、アフリカ人、アジア人、中東の人、複数のルーツを持つ人など、あらゆる肌の色の人々のグラデーションが、この息の漏れることの

          風と霧と自転車と―オランダ滞在記①

          作品例:実験小説『07.03.15.00』より抜粋

          この作品に関しては、詩人の野村喜和夫さんがつけてくれた、以下のコメントが本当に分かってくれたというか、的を得ていると思います。深謝! 全体的に、いくつかの持続するエピソードもありますが、フラグメンタルな文章が散りばめられて進んでいきます。 まさに、詩でも小説でもないものを書きたかったのでしょう。 ただ友達に(ジャンル外のものを)「誰が読むんだ」と言われたとおり、読者のことを考えれば、かなり無謀な試みではあったと認めざるをえません・・・。 しかし、「なんだかよくわからん読みも

          作品例:実験小説『07.03.15.00』より抜粋

          矢野ミチル『夢意識のオラクル』短詩(解説詩)

          画家、矢野ミチルさん発行のオラクルカード『夢意識のオラクル』で、解釈文ともなる、ショートポエムを書かせていただきました! ミチルさんの世界を妖しく跋扈する、麗しい不思議な生き物達と対話して、彼らは一体何を言ってるのかなあ‥‥と耳を澄ませて発想しました。 カードは全部で四十枚。 そのうち、五枚をミチルさんの絵とともにご紹介します。 ミチルさんのHPはこちら「アトリエ可視光線」。 コマ撮りアニメも必見です! 「時間」のカード金色の曙光に乗り出せば 風はセピア色の写本をめく

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          西脇順三郎と左川ちか―二つの永遠性について【研究メモ】

          口頭発表@慶應義塾大学アートセンター アムバルワリア祭 XII「西脇順三郎と女性性──左川ちかを思い出しながら」 2023年1月28日のレジュメです。 左川ちかの詩の解釈は後半なので、そちらに興味ある方は、目次「左川ちかと永遠性」からとんでください! 左川ちかの紹介詩人・翻訳家、1911年生まれ、北海道余市町出身。10代で翻訳家としてデビューし、J・ジョイス、V・ウルフなど、詩・小説・評論の翻訳を残す。モダニズム詩壇の最前衛に立ち、将来を嘱望されたが24歳で亡くなる。国内

          西脇順三郎と左川ちか―二つの永遠性について【研究メモ】

          「遠さについて 特装版」鳥居 万由実

          2000年代の伝説の詩集が、夢幻画家矢野ミチルの挿画27点と共に蘇る! 初期詩篇2編をおまけとして収録。 中原中也賞最終候補となり、各方面からも高く評価された詩集が、美麗な挿画と共に、今息を吹き返す。脳味噌の裏をくすぐるような、夢意識をわたりあるく、矢野ミチルの描きおろし画を多数収録。 ああ 冬眠に失敗しちゃったんだね、あねき。 冬眠に失敗した熊は、氷に埋もれ いい頃合いに光りはじめる 涙 とも いのちの火 とも ちがう (「名寄の冬」より) 推薦の言葉 鳥居万由実

          ¥1,500

          「遠さについて 特装版」鳥居 万由実

          ¥1,500