【スタートアップ必見】CM制作の教科書 ~b→dash大型プロモーションの裏側!担当者が知るべきCM制作のポイント編~

みなさん、こんにちは。
株式会社フロムスクラッチでCMOを務めております三浦將太です。

2月4日に『b→dash大型プロモーションの裏側 ~全体設計と成果編~』と題して、以下のnote記事を公開いたしました。

 記事公開以降、大変ありがたいことにnoteやTwitterを通じてたくさんの反響をいただきました。皆様から多くの言葉を頂戴でき、時間をかけて記事を書いて良かった...と強く思いました。

 一方で、「次も楽しみにしています」「続編はいつ出るの?」「早く出してほしい!」という声も、多くいただきました。

 そこで!前回の記事公開からまだ10日ほどしか経っておりませんが、予告していた通り『b→dash大型プロモーションの裏側』シリーズ3部作(前編・中編・後編)の中編として「担当者が知るべきCM制作のポイント編」を本記事でお届けいたします。どうぞ最後までお付き合いいただけると幸いです。(気合い入れて書いたら1万文字を超えてしまいました...。)

※前編と同様「全部読んだけれど、もっと詳細に教えてほしい!」と感じた方は、本記事の最後に私、三浦の連絡先を記載していますので、ご自由にご連絡くださいませ。

※本記事では主に18年2月から放映したおぎやはぎさんCMに関して言及しています。

※なお、当然のことながら、以下から記載することは私が1人でやったわけでなく、社内外のとても優れたチーム・パートナーの皆様あってのことです。特に、昼夜問わずディスカッションや実行に注力してくれたマーケ部のメンバーや、今回ご一緒させていただいている代理店の担当チームの方々には感謝しかありません。いつも本当にありがとうございます。今度、何か奢ります。

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アジェンダ

① どのようなクリエイティブだったか
② クリエイティブを通じどのようにターゲットを態度変容させたかったか
③ 死ぬほどこだわった4つのポイント
④ なぜこれほどまでにクリエイティブにこだわったのか
⑤ まとめと次回予告

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◆①どのようなクリエイティブだったか

 クリエイティブのこだわりを説明するにあたり、まず、どのようなCMクリエイティブを制作したかを簡単に紹介させてください。

こちらの動画が18年2月から放映を開始したb→dashのCMです。

 上記動画は『時間がかかる編』と称しておりますが、実はこの動画以外にも『お金がかかる編』『使いにくい編』『データもらえない編』と合わせて合計4本のCM動画を制作・放映しました。

 一見すると何の変哲もないCMクリエイティブのように見えるかもしれませんが、実は至る所で様々なこだわりポイントを入れています。そのこだわりポイントをあげると枚挙にいとまがありません。
 では、このこだわりは具体的にどのようなものだったのか、そもそもなぜそんなにこだわったのかという点を、次章以降で包み隠さず、説明していきます。

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クリエイティブを通じ、どのようにターゲットを態度変容させたかったか

 CMのクリエイティブ制作を開始するにあたり、まず最初に考えたことは『ターゲットにどうなってもらいたいか』でした。言い換えると『視聴者が、CMを見終わったあとにどういう認識を持ってほしいか(態度変容)、または、どういう行動をとってもらいたいか(行動変容)を明確にしよう』ということです。

 今回のCMのターゲットが『企業のマーケティング部門の方々』に加えて『代理店の方々』と『クライアント企業の意思決定者層(主に役員や経営者)』であることは前編の記事でお話いたしましたが、この方々のCM視聴後の態度変容と行動変容をどう設計するかをまず考えた、ということになります。

 態度・行動変容の設計は、最近では『パーセプションチェンジ(ターゲットの認識変化)』『カスタマージャーニー』という言葉で広く知れ渡っています。しかし、これらの用語を解説されている記事等を見るとやや複雑になっている気がしますので、自分なりにシンプルにポイントを絞り、整理してみました。

 (1) ターゲットとブランドのタッチポイントを全て洗い出す 
 (2) 各タッチポイントで想定されるターゲットの”心”と”体”の動きを書く
 (3) ターゲットの”心”と”体”の動きを、”理想形”で書く
 (4) (2)と(3)のギャップを埋めるための施策やクリエイティブを考える

 もちろんこれら以外にもポイントはありますが、スピードが勝負の現場にいたっては、上記をしっかりと考えられていれば、大事なところは外さずに済むと思っています(このあたりの詳細説明もいつか機会があったら記事化できればと考えています)。

 さて、態度変容や行動変容が大事である!とは言え、たった15秒 or 30秒しかないCMで伝えられることは限られています。この限られた時間を有効に使うにはどうすればよいか?を考えるにあたって、CM制作の経験が乏しい私たちはまず、どういうCMを打てばどう視聴者を変容できるかの『型』をプロのクリエイターの方々と議論を重ね、整理していくことから始めていきました。

 ここではその議論の結果整理できた5つのクリエイティブの『型』を参考までにご紹介します。

※当然、クリエイティブパターンは色々な整理の切り口があるため、ここで紹介している「型」が全てではありません。

【A】市場啓蒙型
 サービスや製品自体の認知を取りに行くのはなく、そのサービスが属するカテゴリ自体の認知や想起率を高めにいくことを目的としたCM。カテゴリが拡がれば、自然と自社サービスの売上も上がる、という構造ですので、カテゴリ内における売上シェアや認知度が1位もしくは上位である必要があります。さらに細かく言えば、そのカテゴリでの検索が増えたときに、SEO合戦で必ず勝てる見込みが(リソース的にも)ある時でないとなかなかはまらない印象です。
(ここでいう『カテゴリ』とは業界や商品分類のことを指します。b→dashで言うと、b→dashはサービス名で、MAやプライベートDMPがカテゴリにあたります)
 一般的にマーケットリーダーのポジションを取る企業やサービスが、さらなるマーケットの拡大と、自社の圧倒的なポジションを取りにいくために発動するオプションかと思います。

 ケースとして挙げられるものとしては、JR東海の『そうだ、京都行こう』などが代表的です。

【B】ダイレクトマーケティング(刈取り)型
 こちらは、視聴者の頭にサービス名を残し、視聴後に具体的な行動(店舗に行く、検索行動をするetc...)を”させきる”ことを目的にしたクリエイティブです。極端な話、そのサービスが何か、機能的なベネフィットが伝わらなくてもよいので、最低でもサービス名とわかりやすいベネフィット(無料!や○○プレゼント!など)だけは覚えてもらう、というものです。
 また、カテゴリが成熟している場合は、「○○と言えば■■」というパターンを繰り返すことで、純粋想起のポジションを確立しにいくこともこれに該当します(※カテゴリがある程度成立していないと、カテゴリからの純粋想起がなされないため)。

 ケースとしては、最近では「PayPay」や「indeed」のクリエイティブが該当するでしょう。


【C】競合比較型
 明確な競争相手となる競合がいる場合に使われることが多い『型』です。ユーザーの購買意思決定要因(Key Buying Factor)が明確であり、かつそのKBFが競合他社と比較して優位にあるときに有効な手法です。
 自社や自サービスのカテゴリで”圧倒的強者”がいる場合によくとられる手法です。圧倒的強者がいる場合は、そのサービスの”特徴”がユーザーにとってのKBFとなっているケースが多く、比較軸が明確になります。その比較軸を勝負の土俵にして戦うという手法です。

 (※アル・ライズの名著「ポジショニング戦略」などでも言及されていますが、カテゴリ内での順位≒ポジショニングを意識して戦う際には”お作法”というものがあります。例えば、シェア3位の会社が1位の会社に挑むよりも2位、もしくは4位以下を相手にしたほうがいい場合もあります。詳しくは書籍等をお読みいただければと思います。)

 さてこちらのケースですが、古くはペプシVSコカ・コーラのクリエイティブが代表的ではないでしょうか。それ以外にも、少し古いのですがLenovo Thinkpadのクリエイティブは、MacBook Airに真っ向から勝負を挑んでいます。当時『封筒に入るほど薄い』という点をアピールしていたMacBook Airに対し、Thinkpadも薄いし、付属品など不要だからMacBook Airよりもかさばらない、ということをクリエイティブで直接的に伝えています。
(詳しくは「Lenovo X300」で動画検索してみてください。)


【D】イメージ型
 次のイメージ型は、いわゆるブランドの世界観を打ち出すCMです。外資系ベンダーが定期的に放映したり、歴史ある企業が周年行事などで放映したりすることが多いように感じます。
 こちらのクリエイティブは、ターゲットの態度・行動変容をどう規定するかによって、内容は大きく変わります。クリエイティブを見た時に「○○という会社は■■な会社だ!」と具体的にイメージしてもらうこともできれば、「○○という会社はなんかイケてるなぁ」といったように、言葉にできない情緒的な”何か”を創り出していくこともできます。

 しかし、私見を言わせていただくと、ターゲットに「こうなってほしい」というコミュニケーション設計があるというよりも、例えば採用時に学生候補者に対して「CM放映中」と言うことや、社員のロイヤリティをあげるため、などどちらかというと”やや内向き”な目的によるクリエイティブが、比較的多い印象です。

 ケースとしては、村田製作所やIHI、総合商社などが挙げられると思います。


【E】興味喚起型
 最後にご紹介する『興味喚起型』は、具体的なベネフィット訴求をして、視聴者に興味を喚起させ行動まで促すクリエイティブです。サービス利用前後の”ユーザーの状態”を見せることで「そんなに変化があるのか」という意外性を与えたり、サービス体験者の声を見せることで「私にもできそう/私もやりたい」という共感を得たりします。一般的には”テスティモニアル”と呼ばれる手法でもありますね。
 こちらが目指す視聴者の行動変容はわかりやすく、『すぐ行動してもらう』ことです。店舗商売であればすぐ店舗に行ってもらい購入・入会をしてもらう、通販であればすぐ電話してもらうなどです。

 こちらの代表的なケースはRIZAPかと思います。もはや説明不要ですね。RIZAPでのトレーニング前後を見せることで、視聴者に「私もこうなりたい!」と思わせ、すぐ入会などの行動をとってもらうことを目指しているのでしょう。


 以上、5つの型を紹介しましたが、上記の型は、クリエイティブタイプだけで完結する話ではなく、当然どの媒体に出稿するのか、どれだけの量を出すのかによって、効果も目的も変わってきます。設計する際はそのあたりも考慮されるといいのではないかと思います。

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【b→dashのクリエイティブではどの『型』を採用したか】
 この5つの『型』をご覧いただければわかる通り、どの『型』にするかによって、どのようなクリエイティブにするかは大きく異なります。さらに、クリエイティブだけでなく、目指す成果指標(KPI)も変わりますし、出稿ボリュームや媒体も変わります。そのためどの『型』を選ぶかはとても重要な意思決定であると考えました。

 意思決定するにあたっての判断材料として、市場のライフサイクルの状態、サービスのシェアや認知度、サービスが属するカテゴリ自体の認知度などを加味する必要がありますが、今回、b→dashでは『イメージ型』と『興味喚起型』のいいとこどりをしてクリエイティブを制作することに決めました。決めた理由は以下の通りです。

※『マーケター』『代理店』『意思決定者』がターゲットであることを前提として考えています
・(前回の記事でも書いた通り)今回のプロモーションの目的は、ターゲットの「認知」と「印象」をつくりにいくこと。

・サービス名をただ認知してもらうだけでもダメ。ターゲット特性は、”色々なサービスやクリエイティブを吟味する物言う視聴者”であることを考慮すると、正しく価値を伝えなければならない(下手なことをすると、一気に信用が失墜するリスクもある)。

・どんなサービスなのかをターゲットに知ってもらい、そしてそのうえで、それは”イイ”ものなのか”悪い”もののかを判断してもらう

・上記を満たすために、イメージをつくりにいきつつ、具体的な価値を伝えるためのクリエイティブをつくらなければならない。それは『イメージ型』と『興味喚起型』の2つの特徴を加えなければならない。

 さて、これでb→dashのCMはどの『型』を目指したかの説明が終わりました。次章からはその『型』をベースに実際にクリエイティブを制作するにあたりこだわったポイントを説明していきます。

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◆③死ぬほどこだわった4つのポイント◆

 細かな点も含めると無数のこだわりがあるのですが、中でも代表的な4つのこだわりポイントを1つずつご紹介していきます。

【こだわり1】共感を生み、かつ、印象に残る”ストーリー展開”を、”自分たちで”考える
 前述した『イメージ型』と『興味喚起型』を実現するためには、どういうストーリー展開にするべきでしょうか?

 私たちが行きついた答えは興味喚起型の代表的な手法である『あるある』でした。

 いろいろな場面で採用される『あるある』ではありますが、視聴者が本当に「あ~それ、うちも同じだわ~」というように自分事として捉えてもらえる内容であれば『共感』を生むことができるのでとても有効だと思います。

 ただ、toBサービスのCMクリエイティブでは、『あるある』な課題を示し、その課題を解決するというフォーマットは古くからあるので、かなり使い倒されています。例えば、オフィスシーンからはじまり、スーツを着た人が何かに困っていて、それを解決する、みたいなものですね。そのような中ではあるので、普通に『あるある』をやっても印象に残るCMにはならず、期待する態度変容・行動変容は生まれないだろうと考えました。

 ではどうするか?と、検討に検討を重ねて生まれた方針がこちらです。

◆共感を生むために
・『あるある』のフレームは維持する
・『あるある』課題は実際にマーケティングの現場で起きる事象にする
・共感を生むために『あるある』課題は徹底的にこだわる

◆印象に残すために
・オフィスシーンを使いつつも、オフィス外のシーンを入れる
・印象的なフレーズを加える
ユーモアを取り入れる
映像品質をあげる(カメラワークや画質など)

上記を解説するにあたり、もう一度この『時間がかかる編』のCMをご覧いただけますでしょうか。

 開始から6秒ほど経ったところで「このデータのレポート、明日までによろしくね」と部長が発言し、それを聞いたおぎやはぎさんが困惑した表情をするというシーンがあります。これは『マーケティングの現場で本当に起きている事象』です。ここが共感を生むことを狙ったシーンになります。

 別のシーンを見てみると、冒頭のシーンでは課題の解決策として『樹海で匍匐前進をし、体力をつける』ということを行っています。このシーンが『オフィス外のシーン』『ユーモア』『映像品質向上』にあたる部分であり、引いて言うと印象付けをしているシーンになります。

 印象あるシーンにこだわることで、クリエイティブの品質が上がるだけでなく、従来のフォーマットから抜け出せるので、視認率が上がります。TVやタクシー(交通広告)の媒体には、色々なクリエイティブが放映されます。似たようなものだと埋もれてしまいます。少しでも差をつけることが重要です。

・『あるある』ネタは"自分たち"で考える 
 共感を生むためにこだわった点をもう1点補足しますと『あるある』ネタは代理店任せにせず、私をはじめとしたフロムスクラッチ社員が責任をもって考えたということがあります。今回、定められた秒数内におさめるため、代理店クリエイターさんやコピーライターさんに大いに尽力いただいたのですが、元ネタは自分たちで考えました。

 なぜなら、b→dashのクライアント様と向き合っている私たち社員以上に『マーケティングの現場』を知っている者はいないという自信があったからです。そのため、『あるある』の設計やセリフの大枠はこちらで用意し、その後に、優秀すぎるプロの方々に託しました。

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【こだわり2】印象的なファーストビューで、完全視聴率を高める】
 当然ですが『CMのファーストビュー≒最初の数秒で、視聴者はその後も見るのか、やめるのか』を決めてしまいます。

 ぱっと映ったCMを一目見て「あ、なんかおもしろそう」「あ、これ知りたかった」などと感じたら、他にやることがあってもCMを最後まで見るはずです。しかし一方で「おもしろくなさそう」「あーまたいつもの似たようなやつか」と感じた場合はCMから目を離してしまうでしょう。

 このような背景から、b→dashのクリエイティブも『ファーストビュー』はとても重要視しました。先ほどご紹介したb→dashの『時間がかかる編』のCMで言うと、おぎやはぎさんの二人が樹海で匍匐前進をしているシーンが『ファーストビュー』にあたりますが、この印象的なシーンを最初に持ってくることで視聴者に「あ、なんかおもしろそう!」「何これ?あんまりないタイプのCMだな」と無意識に感じさせ、CMを最後まで見てもらうことを狙っています。

 実際に、CM動画を最後まで見たかどうかを測る指標である完全視聴率についても、普通の動画であれば平均15~20%程度を言われているところが、b→dashのクリエイティブでは40~50%と高い数字を実現することができました。
 
 個人的にこの結果は、どんなにすごい広告賞を取ることよりもすごいと思っています。繰り返しになりますが、ご一緒してくれたクリエイターの方々に感謝の気持ちでいっぱいです。

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【こだわり3】リアリティとユーモアのバランスをとれるタレント起用
 タレント起用における最初の論点として、そもそもタレントを起用するのか/しないか、がありますが、我々は迷わず「起用する」ことを選びました。

 これは知名度のない無名のスタートアップがノンタレ(≒いわゆる知名度のない役者の方々)を使っても、クリエイティブに触れた際に頭に残ることがないからです。知名度のあるタレントパワーを活かすことができれば、印象に残し切ることができます。

 例えば、我々の場合であれば「あぁ、あの”おぎやはぎ”のb→dashだよね」や「ほらほら、あそこの、”おぎやはぎ”使ってるCMのツール、いいよね」といったように、言葉が勝手に伝聞していくことも意識しました。そのためにもタレントパワーは必須だと考えました。

(ゼクシィのように、ブランド認知もあり、かつタレントの今後を分かつ”登竜門”的な立ち位置として確立されていれば、今は無名のタレントを起用しても、それ自体が効果を発揮しますが、我々の場合は違いました。)

 さて、次にタレント選びですが、おぎやはぎさんの他にも、山田孝之さん、遠藤憲一さん、大泉洋さんといった、錚々たる顔ぶれの方々も候補に挙がりました。しかし、最終的にはおぎやはぎさんを選びました。 

 おぎやはぎさんを選んだ理由を説明するにあたって、前述の【こだわり1/2】でも出てきている『共感を生む』と『印象付ける』の2つのキーワードをここでも使わせていただきます。

 まず『共感を生む』という点です。「あるある」の課題は実際に現場で起きている事象にした、という話を前述しましたが、これをもう少し抽象度をあげて言うと『リアリティ』を持たせたかったということになります。ここでいう『リアリティ』とは「あ、このタレントさん、何か本当にマーケティングの現場でいそうな人だな。いてもおかしくないな」と視聴者に思ってもらうことと捉えていただければと思います。要はあまりにもビジネスシーンとかけ離れているタレントを選んでしまうと、リアリティがなくなる=共感が生まれなくなると考えました。そのため、この『リアリティ』という点をタレント選定軸の1つに掲げました。
 次に『印象づける』という点です。よくある印象付けの方法として、タレントに奇抜な恰好をさせることが挙げられますが、b→dashのCMでこれをやってしまうとリアリティが失われてしまいます。そこで、代わりに何があれば印象付けられるか、と考えた結果『ユーモア』を取り入れることに行きつきました。何気ないCMでもそこにおもしろさがあるのとないのでは、視聴者の頭に残るかどうかに大きな差が生まれるだろうと考えました。そのため、この『ユーモア』が2つ目のタレント選定軸です。

 おぎやはぎさんの場合、芸人をされる前はサラリーマンであったことからオフィスにいるという『リアリティ』がある、また、芸人であるため当然『ユーモア』も併せ持たれていることから、おぎやはぎさんであれば視聴者の『共感を生み』、『印象付ける』ことができると考え、選定させていただきました。

 ※ちなみにではありますが、上記以外におぎやはぎさんを選んだ理由として、『2人なので掛け合いができることから、クリエイティブパターンの自由度が増す』という点もありました。

 ※また「元サラリーマンの2人が、再びサラリーマンに!?」というフレーズのもと、ある程度PRでパブリシティも狙えるな、と思ったため最終的意思決定した、という背景もあります。

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【こだわり4】シリーズを4本つくる
 リソースの限られているスタートアップですと、「クリエイティブを1本制作」し、「一定期間のみ放映する」ことをやってしまいがちです。これは、よくある”失敗パターン”だと思っています。

 前述した通り、「ダイレクトマーケティング型」のクリエイティブであれば、放映した回数だけ、ある程度の成果は見込めますが、それ以外の目的でクリエイティブの場合、「時間とともに、認知・ブランド資産が溜まっていく」という定石があります。

 つまり、1回だけのキャンペーンで良し悪しを判断するのではなく、多少長い目で成果を測るスタンスが重要になります。

 b→dashの場合ですと、2~3ヶ月で放映止めるのではなく、一定期間放映し続けています。加えて4本のシリーズ化にしたことで、一定期間毎に新しいクリエイティブを投下することができます。これにより、視聴者に飽きられることなく、絶えずコンタクトポイントを持ち続けることができました。

 さらに付け加えると、シリーズ化すると一定期間毎に新作としてリリースしていくことができるため、ターゲットの方々に「お、またきたな」、「どんどん新作が出るってことは順調なのかな」と、別の”印象”を与えることもできます。

 また、シリーズ化する際は、必ず”統一感”も重要です。同じキャラクターを使い続けることも当然ですが、それ以外にb→dashでは、キーワードを統一しています。「なんか違くない?」「お前やっぱ天才だな」というキーワードで、世界観をくくっています。


※「タレント契約のポイント」※
 細かい注意点ですが、タレントと契約する際は、必ず契約時に「どの範囲までご協力いただけるか」をエージェンシーと握っておくことが重要です。よく相談もいただきますが、「後からパンフレットを作ることになったとき、追加feeがかかった」など、施策ごとにfeeが発生してしまうこともあります。

 契約する際には、「今回のクリエイティブ・素材が、どんなときに、どんなところで使われるか」をあらかじめ全てピックアップし、事前に握っておくことが重要です。追加feeによって「やりたい施策ができない」ということがないようにすることをお奨めします...

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なぜこれほどまでにクリエイティブにこだわったのか

 さて、ここまでクリエイティブへのこだわりをご紹介してきましたが、最後に、そもそもなぜこれほどまでにクリエイティブにこだわったのか、という点を説明させてください。
 それは、結論から申しますと中途半端なクリエイティブにするとb→dashのブランドイメージが悪くなるからです。

 前編の記事にて、CMのターゲットは『代理店の方々』と『クライアント企業の意思決定者層(主に役員や経営者)』に設定しており、ターゲットに取っていただきたい態度変容や行動変容は『代理店の方々』には企業のマーケターの方にb→dashをオススメいただくこと、『意思決定者層』にはb→dash導入が上申された際に「聞いたことあるツールだから導入してもいいのでは」と判断いただくこと、であると説明しました。

 このようなアクションを取っていただきたいと考えているにもかかわらず、クリエイティブがイマイチであり、何のツールかよくわからないCMになってしまったり、共感も生めず、印象にも残らないものになってしまったりすると、目指す態度変容や行動変容が実現できない=大きい投資をしてまでプロモーションを打つ意味がない、と考えました。

 ターゲット特性を鑑みても、我々のターゲットとするマーケターや、代理店担当者の方々、そして経営者の方々は、目がとても肥えています。その方々に対して中途半端な品質のものを見せてしまうと、逆にマイナスイメージを持ち、マイナスの啓蒙活動にもなりかねないので、クリエイティブには徹底的にこだわりました。

 (徹底的にこだわった結果、CM制作をご一緒した代理店のb→dashチームの方々には多大なるご迷惑をおかけしました。しかし、本当に最高のクリエイティブができたと思います。このチームでなければ同じようなものはつくれなかったといっても過言ではありません。本当にありがとうございました!)

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◆⑤まとめと次回予告◆

【まとめ】
 前編記事と同じく、今回も簡単ではありますが、本記事のまとめを以下に記載しました。もし参考いただけそうな点が少しでもあればとてもとても嬉しいです。

【CMクリエイティブ制作における5つのポイント】

1. ターゲットの態度・行動変容を検討する
どんなに良いクリエイティブでも、視聴後にターゲットに変化を起こすことができなければ意味がありません。想起してもらいたいのか、すぐにアクションをとってほしいのかなど、タッチポイントごとに与えたい態度変容・行動変容を検討します。

2. 適切なCMの『型』を見定める
今回は、市場啓蒙型、ダイレクトマーケティング型、競合比較型、イメージ型、興味喚起型と、5つに分類しました。(他にも色々な分類があると思います)プロモーションの目的に応じて、どんな『型』でいくのかを決めます。

3. 『共感を生む』CMにするためにストーリー構成に積極的に関わる
CMで紹介するサービスを最も知っているのは代理店ではなく自分たちです。また、サービスを使っているクライアントの考えや実情を最もよく理解しているのも自分たちです。その自分たちが考えるストーリーであるからこそ『共感を生む』内容になるのではないかと思っています。

4. クオリティには徹底的にこだわる
予算の中で最大限、こだわり抜くことが重要だと思います。”コンコルドの誤謬”の教えではありませんが、自身が当事者としてプロジェクトを推進していくと、当初考えていたことを見落としてしまったり、「ここまでこだわらなくてもいっか...」と、無意識に妥協してしまう場面もたくさん出てきます。(意識的は無意識的かはさておき)妥協は、クリエイティブ制作において一番の悪です。優れたチームと最高のクリエイティブをつくるために、チーム全体で共通認識を持っておくといいと思います。

5. 『クリエイティブがサービスのブランドを創る』という当たり前のことを今一度深く認識する
クリエイティブがださいと当然サービスもださく見えます。一方で品質が高いCMだとサービスも品質高く見えます。普通に考えるとこれは当たり前のことだと思うのですが、予算がないから・・・時間がないから・・・と言って、どこかで手を抜いてしまうと...ユーザーはそこに気づきます。1つ1つのこだわりが、サービスのブランドがつくるんだ、という意識が重要です。
偉大な建築家ミース・ファンデルローエのあまりにも有名な言葉「God is in the details」を思い出すまでもなく、細部にまでこだわりましょう、ということです。

【次回予告】
 前編・中編・後編の3回に分けてお届けしている「b→dash大型プロモーションの裏側」シリーズ、今回は中編として「担当者が知るべきCM制作のポイント編」をご紹介いたしましたが、次回は後編、「運用マネジメント編」をお届けする予定です。

・PDCAってどのように回したのか?
・一連の施策のあと、何が課題で、次なる施策に何をするべきか?

 など、CMを公開して以降、少しでも成果を増やすためにどのような運用をしてきたか、どのようなチームマネジメントをしてきたかをご紹介しますので、次回もぜひご覧くださいませ!

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◆さいごに◆

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。冒頭に記載いたしました通り、本記事に関して「より詳細が知りたい」という方がいましたら、私 三浦までお気軽にご連絡いただければと思います

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(記事情報以外にも、マーケティングの有益情報を発信しておりますので、マーケティング関係者の方はフォローいただいても悪いことはないと思います)

最後までご覧いただき、本当にありがとうございました!
また次回もご覧いただけると大変うれしいです!


株式会社フロムスクラッチ CMO
三浦將太

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