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#好き002 桜の森の満開の下

坂口安吾による30ページにも満たない短い物語。
その清涼感と、表現の美しさに、桜の季節に毎年必ず読み返す。

桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。

独特なテンポで始まり、一気に物語に引き込まれる。そして、物語は淡々と進むが、少しずつ狂気を感じ始める。

山賊は始めは男を殺す気はなかったので、身ぐるみ脱がせて、いつもするようにとっとと失せろと蹴とばしてやるつもりでしたが、女が美しすぎたので、ふと、男を斬りすてていました。

最後は、清涼感に満ちた、透き通るような余韻だけを残して物語が終わる。

彼は女の顔の上の花びらをとってやろうとしました。彼の手が女の顔にとどこうとした時に、何か変ったことが起ったように思われました。すると、彼の手の下には降りつもった花びらばかりで、女の姿は掻き消えてただ幾つかの花びらになっていました。そして、その花びらを掻き分けようとした彼の手も彼の身体も延した時にはもはや消えていました。あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした。

全てが美しい作品で、桜の季節に毎年必ず読み返す。
お昼休みに、職場の近くにある小さな公園の桜の木の下で、ランチを食べながら、この物語を読むことを毎年楽しみにしている。公園の下には首都高があり、いつも騒音を立てている。そしてこの時期だけは、桜を目当てに多くのサラリーマンとOLでにぎわっている。

そんな都会の喧騒の中で、まるで山奥にポツンと取り残されたかのような静寂を感じられる。


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