見出し画像

壊さずに壊す - 岡山県教育委員会【体験者インタビューVol.7】

【体験者インタビューVol.7】

こんにちは、ベネッセアートサイト直島 エデュケーション担当の大黒です。

ベネッセアートサイト直島でのプログラム体験者の声をお届けするインタビュー企画・第6回となる今回は、「岡山県教育委員会 高校魅力化推進室」室貴由輝さんにお話を伺いました。

■プロフィール

室 貴由輝(むろ たかゆき)
岡山県教育庁高校教育課高校魅力化推進室室長

1990年、南海高校にて教員生活をスタート。2000年に矢掛商業高校において、ホタルや淡水魚の保護・増殖や環境保全活動を通じての環境教育を始める。2004年、高校再編整備による矢掛高校との統合時に、学校設定教科「環境」を開設。カリキュラム、教材作成を行う。矢掛高校で「環境教育を入口にしたESD」を推進し、岡山県初のユネスコスクールに認定される。2010年に学校と地域をつなぐ新しい地域学として、学校設定教科「やかげ学」を開設。2013年に矢掛中学校に異動。小中高連携、地域連携を推進。岡山後楽館高校勤務を経て、岡山県教育庁に入庁。2021年より現職。高校と地域の連携による教育活動の推進等、高校の特色づくりを支援。

ベネッセアートサイト直島では、生徒との対話やコミュニケーション、チームビルディングなどに課題を感じている岡山県下の教員を対象に、対話型鑑賞のファシリテーターの体験を含めたプログラムを2022年度に実施。

大黒:ベネッセアートサイト直島のプログラムを体験しようと思ったきっかけや目的を教えてください

室:ベネッセの方に、対話型鑑賞のファシリテーションスキルが生徒や教員への対応力の向上やチームビルディングに活きるという話をいただいたんです。教育現場では「個別最適な学び」と言われていますが、教育関係者や教員は生徒個々をしっかりと見なければ個別最適化はできないですし、個々を見る力の必要性は感じていて。そういった手法の獲得に繋がるのではないかと期待を持ちました。また、高校生や大学生が対話型鑑賞に参加している様子を見る機会があり、その時に「これはやっぱり大人にやるべきだな」と感じました。教育関係者に実際に体験してもらうことで、教育現場に対話型鑑賞の効果や可能性が広がるかなと思ったのがきっかけです。


大黒:実際にプログラムを体験してみていかがでしたか?プログラムに参加する前後で室さんの中に何か変化があれば教えてください

室:衝撃を受けました(笑)。答えや解き方を教えるという教員の職業柄、自分が先に答えを作っていて、その答えに相手を導こうとするのが癖なんでしょうね。実際に対話型鑑賞のファシリテーションを実践する中で、そこが見事に表れました。対話型鑑賞って鑑賞者が持っている考えを引き出していくものだと思うのですが、学校の場合は、ある程度決まった答えに向けて、いかに効率よく到達させるかが重視されてきました。一人ひとりの意見を深く掘り下げることって学校ではこれまであまりされてこなかったと思うんです。そういう接し方ができていたら、もっと違う生徒の姿や学校の姿があるんじゃないのかな?と感じましたね。自分だけでなく、一緒にプログラムに参加した教育関係者の方々がファシリテートした時も一様にそれぞれの中にある答えに導こうとしている姿を見て、より一層説得力が増したというか。自分が持っていたものが崩れていく、壊されていく感じがしました。

大黒:プログラムの中で最も印象に残った場面を教えてください

室:対話型鑑賞のファシリテーションの実践が一番印象に残っています。ファシリテーターとして鑑賞者から作品鑑賞を通して感じたことや考えたことを引き出し、それぞれの考えを深堀りしていかなければならないわけですが、実際にやってみると、鑑賞者の言葉を待ちきれず「こうですよね?」と自分が持っている落としどころに向けて意見を引っ張っていってしまいました。普段、生徒を相手に何か答えを導き出したり、ゴールに近づけていくのが仕事だと思っていましたが、それって実は子どもたちが持つ本当の考えを導き出せずに、自分が思う答えを押し付けているのではないかと感じました。ショックでしたね、本当に。プログラム後に、一緒に参加した方同士で「鑑賞者の意見を待てなかった」、「これまで自分の考え方を押し付けてしまっていたのかと思うと恐怖だよね」と話しました。

室:鑑賞者として対話型鑑賞に参加したことも、自分が深層で考えていることが感じられる機会となり新鮮でした。新しい自分やこれまで気付いていなかった自分に気付けるという点では、対話型鑑賞はとても効果的だと思いました。ただ、その後に体験したファシリテーションの実践での気付きが、自分にとってはあまりにも衝撃として大きかったです。


大黒:今回のプログラムを薦めるとしたら、どんな方に薦めますか?

室:ぜひ学校の先生方に体験してほしいですし、提供したいプログラムだと思っています。先生方は、ある程度確固たる自分のスタイルを持って生徒に対峙しているので、考え方を変えたり、新しい手法を身に着けることって難しいんじゃないかと思っていて。そういう意味で、今回のプログラムは、一言で言うと「壊さずに壊す」。否定されることなく、体験を通して自分で勝手に気付くことができる。教員が持っているプライドのようなものを傷つけることなく、持っているものを壊してしまうことができるというか。私はそういう感覚になりました。「こうした方が良いよ」と指摘されるのではなく、「何か変えないといけないよな」と嫌でも気付いてしまう、「やっぱり今まで違ったんじゃないかな」と考える機会になる、そんなプログラムだと思います。参加した先生方がそう思えると、その先で教わる子どもたちにも自然と伝播していくのかなと思いますね。

大黒:今後ベネッセアートサイト直島のプログラムで「こんなことがしてみたい」ということがあれば教えてください!

室:今回、私たちが参加したプログラムは、本当は2日間でやるべき内容を1日に圧縮していただきました。やっぱりこのプログラムは宿泊付きで体験したいですし、特にファシリテーションのスキルをもっと身に付けたいので、実践を繰り返したいなと思います。

おわりに

今回は「岡山県教育委員会 高校魅力化推進室」室貴由輝さんのインタビューをお届けしました。ご協力ありがとうございました!

これまでのプログラムはこちらからご覧いただけます↓
ファシリテーター体験プログラム(岡山県教育委員会)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?