ペアリングイベント2024のはなし ②
さて、一皿 / 一杯目。
まずリオレ。Riz au laitと書く。
これは仏名。
英名だとRice puddingで、米をミルクで炊いたもの。
聞いたことはあれども食べたこと無いという人が大半じゃないだろうか。僕もそうでした。
優しい甘味あるリゾットと書けば伝わるかな。
これに白バルサミコで和えた苺と甘く煮たセロリが加わることによってパイナップルのニュアンスが取れた。
そこを起点にまずカクテルを思案。
パイナップルと相性のいいもの、また、使ったカクテルなんて一も二もなくココナッツとピニャコラーダである。
しかしそのまま作るのは凡庸に過ぎるし、何よりミルク使ったデザートにココナッツミルクのカクテルなんてどう考えてもセンス0以下の悪手。
そこでまず考えたのはパイナップルのブースト。
だからといってまんま使うのは面白くないし、なによりリオレに感じたニュアンスを喰ってしまうので良くない(何個かトライはした)。と、ここでパイナップルはリオレのニュアンスに任せて周縁を形作れば良いのでは?→ならいっそ振れる部分を全振りしよう、二つを合わせることによって完成するピニャコラーダにすれば良いじゃないか!と思いつく。
いま思い出してもあれはなかなかの妙案だった。
ご存知の方も多いとは思いますが、まずピニャコラーダのレシピ。
上記でリオレに含まれないものを使ってドリンクを構成すれば良い。
書くまでもなく、それはラムとココナッツ。
まずココナッツの香り。
これはココナッツミルク使えば良いのだけど、前述したように、リオレはそもそも牛乳で煮たものだから同じようなミルク感はクドくなる。かと言ってリキュールだと必要以上に香りが強く、作り物感も出てしまう。ならココナッツウォーター使えばいいじゃん、と思ってこちらを使ってみるとかなり良くなった。
つぎ、コアとなるラム。
バカルディのホワイトで作ってみたもののノイズ(雑味というのとも違うザラついたニュアンス)が多く、作ってみると今回のイメージに合わない。ハバナのホワイトに変える。
マシにはなったが、これだとまたタイプの違うノイズが。ならばとハバナ7yに変えるとイメージにかなり近づけた。
ここから全体のバランス調整をした結果、ココナッツ感をもう少し強調したく、ハバナ7yをココナッツミルクでウォッシュして僅かに加えることにした。ミルクウォッシュ(※)なんて5年ぶりくらいにやった。
それでも決め手にかけるところがあって、そこを埋めてくれたのがマイヤーズ。
酸味と焦げ感、それに良くも悪くもある雑味がアクセントになった。
最初はノーマルのハバナ7yの分量上げていたのだけど、さつまいもみたいなニュアンスが出てしまっていまいちポジティブに思えなかったところを試してみたら見事にフィット。
ただ、少し甘さが飽和した感じを受けたのでほんの僅かに強めの塩で全体に輪郭を引いた。これでリオレの甘味も引き立てられた(と思う)。
それで結実したピニャコラーダエッセンスのレシピ。
飲むとよくわかるのだけど、これはカクテルとして自立していない。今回のリオレ有きで作ることのできる一杯。
こういうカクテルを作ることができるのはペアリングイベントにおける、製作側最大の楽しみのひとつと言える。と思う。
本イベントドリンク3杯の中でいちばん楽しいクリエイションだった。同時に突破口開くのに最も苦労したものでもある。これは表裏一体みたいなものだけど。
さすがにチャイエッセンスまで書くと長くなり過ぎるので次回に持ち越します。
手法は同じなので、もうおおよその想像はつくかと思いますけど。
※ミルクウォッシュ(清澄化)
ミルクとアルコールを合わせ、酸を加えて液体から乳清(ホエー)を凝固させ、香りを抜き出す技法。同時に色素も抜ける(=透明になる)のでクラリファイド(clarified)とも呼ばれる。
ちなみにこの技法は17世紀にすでに確立されている。
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