見出し画像

【2章】 理由①究極の消費によるネタ切れと疲労

前章で「NORMCORE」がどのような現象か説明した。ではなぜ「NORMCORE」というファッションスタイルが流行したのか。実のところ理由は明白、大別すると2つある。そしてその根拠を把握するには、ファッション史を無視することはできない。かけ足で見てみよう。

お手軽現代ファッション史ガイド

ファッション産業は、異なる流行スタイルを提案し、スタイルチェンジを世間に促すことで成立してきた産業だ。
そのスピードが急激に加速し始めたのは90年代。ラグジュアリーブランドの合併/買収が進み、企業は利益増加第一主義となった。これらの企業は顧客に短期間で多くのものを消費させるため、年々流行サイクルを加速させるようになった。春夏/秋冬と年2回発表していたコレクションも、ブランドによっては年4回に増え、1度に発表する新作の数も増えていった。

ラグジュアリーブランドがより短期間に、より多くのスタイルチェンジを繰り返す。もちろん、他のアパレルメーカーもこのスピードを追う。そして、メディアやSNSなどの通信網の普及により、ラグジュアリーブランドが新作コレクションを発表した翌日には他のメーカーがコピーし、本家よりも先にコピー品を店頭に並べることが可能となった。しかも破格の値段で。これがいわゆるファストファッションだ。

次第に消費スピードが極限まで速くなり、ついにはその“スタイル”だけでなく、それを生み出すデザイナーまでもファッション業界のシステムに消費されるようになった。
ここ数年の大手ブランドのデザイナー交代劇を見て欲しい。長いファッション産業の歴史の中で、近年デザイナーの交代頻度が急激に加速している。特に2015年から2016年にかけては、Diorなど名だたる有名ブランドのデザイナー交代劇が盛んで、業界内でも混乱が生じていた。そう、ちょうど「NORMCORE」が流行り始める頃を境に、デザイナーの交代頻度に拍車がかかっているのだ。

画像1

画像キャプション:cap:グローバリゼーション前の社会に生きる人々は、消費に疲れるなんて想像もつかなかっただろう。

その後にBurberryがウィメンズ/メンズコレクションをそれぞれ年2回開催していたものを年1回に集約するようになった。「シーズンが来る前にコレクションを発表→受注→シーズン到来時(コレクション発表から6ヶ月後)に消費者に届く」という従来のシステムではなく、コレクション発表直後に、消費者が商品を入手できる方向へシフトした。この“see buy now”というシステムは、後に他のラグジュアリーブランドにも採用されるようになった。

こうしてデザイナーの交代スピードが急激に加速し始めた時期と、ファッション業界がシステムを転換し始めた時期、そして「NORMCORE」が流行した時期が重なることは、偶然とは言えない。
人を滅ぼすまでに至る“究極の消費”システムは、持続不可能となった。それは同時に、システムが変化せざるをえないことを証明している。

画像2

画像キャプション:rijans - Flickr: Dhaka Savar Building Collapse
2013年に勃発したダッカ近郊ビル崩落事故は、死者1100人、負傷者2500人超だ。本ビルにはファストファッションの請負縫製工場が入居していた。利益搾取による劣悪な労働環境で、規定を上回る数のミシンを起動させていたことが事故の原因と言われている。

手抜きのごまかし万歳!
聞こえだけ良いファッションスタイル

上記のような流れから、「NORMCORE」は消費者/アパレルメーカー双方にメリットがあると筆者は考える。なぜなら、消費者は手軽にこのスタイルを完成させることができ、アパレルメーカーは比較的製造コストがかからないからだ。
例えば...

・ノーカラー(襟なし)シャツ→縫製が面倒な襟を省くことで、材料費/人件費のコストダウンが可能だ。襟に必要な芯地という素材を使う必要がなくなる。また、“ゆとりのあるシルエット”という名目でデザインすれば、洋服を立体的に仕上げるために必要なダーツ(つまんで縫い合わせる技法)も省ける。

・ボーダー柄→粗悪な素材をごまかすためにはうってつけの柄だ。細かい柄をデザインするコストも必要もない。

・化学繊維で仕立てられたワイドパンツ→パターン(布を裁断するための型)、縫製共に比較的シンプルで簡単。ゆったりとしたシルエットにして、ウエストをゴムにすると、幅広いサイズの人にフィットする。サイズが合わずに商機を逃すリスクも防げる。


これらの意図があって製造されたアイテム達もあら不思議、
「NORMCORE」という言葉が添えられれば売れる。
短いサイクルで消費を促されつづけ、疲れ切った一般消費者は
何も疑わなかっただろう。それどころか、抵抗なく受け入れた。「NORMCORE」はネタ切れしたファッション業界には“もってこいの”流行スタイルだったのだ。(もちろんこれらの製品全てが、このような理由で製造されているとは限らない。)

消費者に“究極の消費”を扇動してきたファッション産業自体が、消費されるようになった。産業/消費者共に疲れ果て、辿りついた捨て身の最終手段が“究極の普通”だった。しかしそれさえも、新たなファッションスタイルとして消費されてしまった。

「NORMCORE」というファッショントレンドは、これらの象徴なのだ。

さらにこれだけではない。「NORMCORE」の流行を裏付ける根拠がもうひとつある。次章では、この現象から現在の社会構造を紐解いてみよう。

シークレットプロジェクト準備中
SNSやメルマガでお知らせします。
メルマガ 頻繁に配信しないのでご安心を!
Twitter
Instagram


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?