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KLMオランダ航空


成田空港ができて数年後、私は初海外を経験する。しかも初海外が初飛行機。ここから私の海外旅行熱が燃え上がり、海外移住生活まで経験することになる。
成田空港のロビーで私のお隣に居るのは当時の彼氏。同行する訳ではない。お見送りに来てくれたのだ。私の旅行が決まると、ちょうど東京の実家にいるのでと見送りを申し出てくれた。でも愛情からの行為というよりも、彼も初めて成田空港を見てみたかったんだよね、きっと。
約1ヶ月間のヨーロッパツアー。しかも、大学生だけの約200人の大ツアーだ。有名な「地球の歩き方」のダイヤモンド社が主催する。海外旅行が身近になりつつあった時代とはいえ、これほど私のような海外志向の大学生が多いとはと驚いた。
私は東北地方の国立大の学生だったが、参加者のほとんどが東京、大阪、名古屋の学生で東北以北の学生が私1人だったことも驚きだった。
大都市部とその他の地域との格差は今以上に感じられる時代だったが、海外への思い入れもこれほどの違いがあったのだ。
初飛行機が飛び立った。もちろん、単独参加の私に知り合いはいない。最初の経由地マニラまでは緊張もあり、誰とも会話することもなく過ごしたように記憶する。ヨーロッパの最初の訪問地はアテネだったが、そこまでの間マニラ、バンコク、ドバイと3ヶ所経由し、乗り継ぎのために降機した.。
このツアーの代金は50万円近くだったと記憶している。しかし、約1ヶ月の飛行機を含む交通費、ホテル代、主要都市の市内観光と何度かの
昼食代も含むとあれば、むしろ格安と感じていた。その大部分は家庭教師のバイトで工面したが、小遣いなど不足分は両親や祖父母が補ってくれた。
航空会社はKLMオランダ航空だった。時間に余裕のある学生ツアーだったので、安い経由便を利用したのだろう。アテネまでは20時間以上かかったように思う。しかも、経由地ごとに機内食も提供されたので4食は食べた。最初は初めての機内食を楽しんだが 、さすがに後半はギブアップしたように思う。
マニラは乗り継ぎ客専用の待合室で過ごしたが、バンコクではお土産品も見て回る時間があった。以前のドンムアン空港だったが、意外と活気に溢れていた。その時は20数年後この地に住むことになろうとは思考の片隅にもなかった。
やっと、アテネに到着し機体に別れを告げた。さすがにずっと同じ機体だったので、両隣も同じ人で、到着した頃は会話をかわすくらいにはなっていた。みんな大学生なので、少しずつ知り合いも増えていった。目の前のパルテノン神殿、夕日に染まるエーゲ海沿いの崖に立つ遺跡など初日から感動の景色が続いた。
ホテルでは同室の相手もすでに割り当てられていて、最初は東京出身のその子と行動を共にする事が多かった。滞在地では自由時間も多く、そのうちに親しくなったのは大阪出身のグループだった。その中のリーダー的男子が統率力が
あり、その日のスケジュール、食事場所などテキパキと動いてくれて、とても助かった。また、関西人の明るさ、ノリの良さなど気質の近い私はすぐにそのグループの雰囲気に溶け込んでいった。
次の訪問地、ローマに移動する頃はルームメイトも変えてもらって、そのグループにどっぷりはまって旅行を楽しんだ。荘厳なバチカンのシスティーナ礼拝堂、ベスビオス火山のポンペイ遺跡など書物で親しんだ事物を目前にする体験に本当に自分はこの地にいるのだろうかと不思議な想いにとらわれた。
学生の旅行でもあり、食事にはあまり時間もお金もかけなかった。サンドイッチや屋台の飲み物、市場の果物などをみんなで分け合って食べた。しかし、誰かの提案できちんとしたレストランでイタリア料理を食べてみようという事になった。そこでリーダーの男子が知識と勘をはたらせて、少し近辺を物色して回った末、一軒のレストランにたどり着いた。
大きくはないが家庭的で小綺麗な部屋に通され期待が膨らむ一方、べらぼうな代金を請求されたら、つまりぼられたらとか、口に合う料理は食せるのかなど、不安の心も皆同じだった。始めはサラダ。ちょっと酸っぱいドレッシングでなかなかいける。メニューも男子2人にほとんどお任せの私たち女子4人はワインの酔いもありだんだんと気分もリラックスしてきた。
大皿のパスタがあらわれた。すごい量だ。みんな歓声を上げんばかりに飛びついた。6人で満腹のパスタの皿が空いた。
そんな、みんな満足したところに出てきたのが、またまた大盛りの焼き牛肉料理だった。えーまだ出てくるの?誰かが言った。本当だよ。パスタがメインだと思って満腹に近いのに。今でこそコース料理も普通に食べるが、このころはパスタがメインでこれがメイン前のひと皿とは思ってもいなかったのだ。
肉料理は味見程度でほとんど男子に任せたが、イタリア料理のフルコースに大盛り上がりで、付け合せのフライドポテトとデザートの生クリーム添えシフォンケーキまで堪能した。また、サラダやパン、ポテトなどはおかわり自由であることも初めて知った。
最後にイタリアコーヒーを飲みながら、この内容ならかなりの出費を覚悟して会計の割り勘額を待った。500円!?!?!何というコスパ。
翌日の夕食もこの店で取ったことは当然といえば当然だった。


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