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社会科学

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#ロシア軍

シリーズ「戦争学入門」創元社、石津朋之シリーズ監修、2019~20

シリーズ「戦争学入門」序言好むと好まざるとにかかわらず、戦争は常に人類の歴史と共にあった。だが、日本では戦争について正面から研究されることは少なかったように思われる。とりわけ第二次世界大戦(太平洋戦争)での敗戦を契機として、戦争をめぐるあらゆる問題がいわばタブー視されてきた。

そうしたなか、監修者を含めてシリーズ「戦争学入門」に参画した研究者は、日本に真の意味での戦争学を構築したいと望んでいる。

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『ロシア:迷走する技術帝国』江畑謙介著、 NTT出版、1995

はじめに第二次世界大戦が終結して半世紀が過ぎた。その間に日本は「奇跡」とも譬えられる経済発展を遂げたが、また同時にソ連の軍事的脅威と向かい合って過ごしてもきた。それは世界の、西側と呼ばれる多くの国にとっても同様であった。日本は第二次世界大戦で敗北し、その国土を米国の占領下に置かれた瞬間から、西側の一員として、高度な経済発展と引換えに、ソ連を中心とする東側の勢力圏と対峙する状況に投げ込まれることを運

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『ロシアの軍需産業 : 軍事大国はどこへ行くか』塩原俊彦著、岩波新書 845. 2003

序章 冷戦期の「負の遺産」0‐1.イラク・北朝鮮・中国とソ連・ロシア製武器イラク戦争の教訓

2003年3月20日からはじまったイラク戦争で、イラク側が使用した武器のなかで脚光を浴びた武器がひとつある。それは、米国の主力戦車M1エイブラムス2両を機能停止に追い込んだとされるロシア製の対戦車ミサイル「コルネット」だ。この真偽はわからないが、
①ブッシュ大統領が2003年3月24日、ロシアのプーチン大

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『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠著、ちくま新書 1572、2021。

はじめに―不確実性の時代におけるロシアの軍事戦略「ポスト冷戦」時代の終わり――揺らぐ国際秩序



いずれにしても、米国が国際秩序の揺るぎない中心であるように見えた「ポスト冷戦」時代からほんのわずかに間に、世界のありようは大きく変わり、混沌とした「ポスト・ポスト冷戦時代」へと突入しつつあることだけは明らかであろう。

軍事力の「効用」



ここでは、その出発点として、ルパート・スミスの著書『

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『メドベージェフ : ロシア第三代大統領の実像』大野正美著、ユーラシア・ブックレット No.125、東洋書店、2008

プロローグ 新権力者誕生の夜2008年3月2日午後11時。モスクワ中心部にあるロシア権力の砦、クレムリンの公用門であるスパスキエ門から2人の男が出てきた。



プーチン氏は黒のダウン・ジャケット、メドベージェフ氏は焦げ茶の革ジャンパーをはおり、ともにジーパンをはいたラフな姿だ。

この夜、クレムリンの壁に接する赤の広場近くのワシリエフスキー坂では、プーチン政権を支持する若者の団体が主催する人気

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『メドベージェフvsプーチン : ロシアの近代化は可能か』木村汎著、藤原書店、2012

本書の構成メドベージェフは、2008年5月7日、ロシア大統領に就任した。新生ロシアにおいて、エリツィン、プーチンに次ぐ第3代目だった。メドベージェフは、それから1期4年の任期を務めた後、12年5月7日同ポストから辞職した。ソビエト期、新生ロシアの約95年間の歴史において、病死したアンドロポフとチェルネンコ共産党書記長を除くと、最も短命な最高指導者になった。

ドミートリー・メドベージェフとは、一体

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『プーチン主義とは何か』木村汎著、角川oneテーマ21、2000

1 プーチンの謎謎のなかの謎のなかの謎

「ソ連の行動は、謎(enigma)のなかの謎(meystery)に包まれた謎(riddle)である」ウィンストン・チャーチルが、ノーベル文学賞の受賞作『第二次世界大戦』のなかに記した、有名な文章である。約50年も前に、ソ連について述べた英国宰相のこの言葉など、今日のロシア大統領を描写するのにふさわしい表現はないように思われる。

プーチン大統領は、「けっし

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『プーチンの帝国:ロシアは何を狙っているのか』江頭寛著、草思社、2004

はじめに2004年3月に行われたロシアの大統領選でプーチン政権は二期目に向けてのやさしいハードルを越えた。…

…ロシアの改革派として知られた元第一副首相アナトーリー・チュバイスはこのロシアの政治状況を「自由主義の帝国」と肯定的に形容した。ロシアの主要経済閣僚にはチュバイスの影響を受けた人物たちが配置されていることが、西側にはある種の安心感を与えている。

政権の安定度は印象的である。1990年代

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『プーチン』池田元博著、新潮新書、2004

はじめにロシアに「ソ連」が復活した。といっても国のことではない。復活したのはソ連国家の旋律だ。

「ロシア、聖なるわれらの大国よ」―――。歌詞は終わったが、重厚な旋律は好き嫌いはともかく、国民が慣れ親しんだソ連の国歌である。…

ソ連の崩壊で過去のなにもかもが否定されたとき、ソ連国家のメロディも捨てられた。民主化されたロシアにソ連のイメージはふさわしくないと、新しい国家が制定されたが、歌詞はなし。

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『プーチンとG8の終焉』佐藤親賢著、岩波新書、2016

感想2016年と近い時期で、しかも2014年のクリミア侵攻以後の話なので、新しい知見はあまりない。ただ、ロシアによるクリミアの実効支配を「編入」と呼ぶ「中立的」な立場が、2022年のウクライナ戦争以前の微妙な雰囲気を反映している。「プーチンが目指しているのは「祖国ロシアの防衛」であって領土拡張や覇権主義ではない」と著者は主張するが、その一方で「「ソ連の復活構想」ともいわれるロシア主導の「ユーラシア

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『「軍事大国」ロシアの虚実』塩原俊彦著、2009年、岩波書店

全体の評価著者は一橋大学の修士課程を経て、朝日新聞で働いたのち、44歳から高知大学に勤務している。博士号も取得している。ロシア語・ウクライナ語のものを含む文献一覧をきちんと提示しているあたりは学者らしいが、内容や切り取り方はいかにもマスコミ出身者による非アカデミックなものという印象。とにかく事実の羅列が多く、何に注目しているのか分かりにくい。データなどの詳細を知るために辞書的に用いるのが良いと思わ

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