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ショートショート集

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実話・実話怪談・ちょっと不思議な話、など、創作をまとめました。
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2014年5月の記事一覧

北棟の廊下で

校舎は古い木造で、北棟の廊下は昼間も薄暗かった。 

ある日、私が廊下に出ると、少し向こうに女生徒が佇んでいたことがあった。 

他のクラスにしても見覚えがない。

しばらく様子を見ていたら、視線に気づいたのかその女生徒がこちらを見、真っ直ぐ私の方へやってきた。 

このままだとぶつかる、と、思ったが、何故か足が動かない。 

女生徒は私の目の前に近づいて、そのまますぅっと私の体を通り抜けた。

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群青

その絵を見つけたのは、学校帰りの路上の古物商でだった。 

小さな肖像画で、一目見て気に入った。値段も高くもないし、その場で購入して持ち帰り、居間の柱に釘を打って、その絵を飾った。 

その翌日に、怪我をした。体育の授業のバレーボールで、レシーブをどう受け損なったのか、右の手首にひびが入ってしまったのだ。 

処置を終えて家に帰るなり連絡があった。母が勤め先で怪我をしたと言う。作業中に誤って、左の

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部屋の隅に

出張先で泊まったのが、いわくありげの古びた旅館で、今田さんは入った途端に(ヤバい)と思った。

かといって、今から別の宿泊先を探すわけにもいかない。入り組んだ廊下の突き当たりの部屋に通されると、そこはテレビもなくて、寝るより他にすることがなかった。 

どれくらい眠ったろうか、バタバタバタという軽い足音で目が覚めた。二階を子供が走り回っている様子。(やっぱり)と思ったが、二階の客の子供かも知れない

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着信

ある日、江川さんに仕事のパートナーからの電話がかかって来た。 

ところが、電波が悪いのか、声が聞こえない。 

一度切ってかけ直したが、相手が出ない。 

そこで、江川さんは(あとでかけなおそう)と思っていた。 

しばらくして、パートナーの同僚から電話があったので、江川さんは思いだして 

「○○さんからさっき電話があったんだぁ」 

 と、言うと 

「何時頃?」 

 と聞かれた。

そこ

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黒い影

島村さんが、駅のホームで電車を待っていたときのことである。 

目の前の白線まぎわに、夫婦らしい老人と婦人が、手をつないで立っていた。 

にこやかに二人とも話している。島村さんは、ほほえましいな、と、眺めていた。 

すると、老人の背後から、人の形をした黒いものが現れた。二人の目には見えていないようだ。影はゆっくり、老人の肩にかぶさった。 

そこへ列車がやってきた。 

老人はほほえんだまま、

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旧校舎

重森さんが高校三年生のとき。清掃時間に彼女は、二階の教室の窓べで、黒板消しを叩いていた。 

そしたら、となりの教室が急に騒がしくなって、いきなり、一人の女生徒が飛び降りた。 

 「びっくりしたわ。」 

となりでは、こっくりさんをやっていたそうだ。 

突然その中の一人が、奇声をあげて暴れると、あいていた窓から飛び降りたんだと。 

幸い、下に植え込みがあったから、大事には至らなかった。 

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花火

山下さんが小学生のときの話である。 

お盆も終わりの日の深夜、山下さんは目をさました。 

なんだか、外が明るい。 

そこでそっと庭を見てみると、地面がぽ、っと明るくなって、小さな光が現れ、そのまま宙に上って消えていったそうだ。 

見ていると、色とりどりの光がぽ、っと現れて、ひゅるる、ひゅるる、と上っては消えていく。 

まるで小さな打ち上げ花火のようだった。 

だが、深夜、人気のない庭で

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ヨガ

野口さんが中学生のころの話である。 

体育の時間が終わって、マットレスを用具室に片づけた時、野口さんはいつの間にか一人になっていたそうだ。 

そこで急に、

(ヨガのポーズをやってみよう)

という気になって、あぐらをかいて片方のあしを首にかけた。 

もう片方を首にかけようとしたら、首にかかっている方の足がつった。はずれなくなった。 

そのままマットレスの上にころがってじたばたしていたら、

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あの日

岸和田さんは、修学旅行で広島にいったそうだ。 

原爆ドームの近くで記念写真を撮った。

フラッシュが瞬いたその途端、岸和田さんはかるいめまいを覚えた。 

急にあたりがすすけたフィルムのようにぼやけると、つんと鼻をつく臭いがして、辺りの景色が二重写しになり、やがてたくさんの人々が現れた。 

皮膚がめくれて、ふくれあがった顔・顔・顔。焦げて固まっているもの、はいずるもの、なにかにつかまろうとする

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