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避け続けてきたパクチー、カレーに乗って。

去年のベトナム出張でパクチー攻めに遭って無事撃沈して以来、彼とは顔を合わせないようにしていた。
時に、宇多田ヒカルがニューアルバムで『パクチーの唄』を聴かせてくれた。良い曲だ。良い曲だけど、おれは最後までパクチーサイドの気持ちになることはなかった。I'm not a coriander.

そして今日はベトナムを思わせるムンとした灼熱の東京を練り歩いた。
神保町。カレー屋の密集地帯。
胸ポケットにカレー屋、スニーカーのインソールにカレー屋、帽子と頭の隙間にカレー屋といった具合である。もちろん、蛇口をひねると水が出てくる。

今回は相当悩んだ挙句、言わずもがなの名店「エチオピア」を選択。こちらも有名店の「オオドリー」と隣り合っており、店の前で立ち尽くして5分くらい悩んだ。
両方とも一度行ったことあるのだけど、まだ僕はカレーじゃなかったときなので再訪はどちらでも良かった。今の僕はカレーなのだから。

しかし、エチオピアは行ったのがもう13年前だ。13年前。おお、こわ。

当時は「食べた後も一日中ひたすら辛かった」という記憶しかない。今行ったら絶対にうまかろうと、記憶を更新したかったのもある。やっぱり、日々ってさあ?よりよいものに?していきたいし?

左のオレンジのアーケードに、いかした窓枠のグリーンがスープカレーの「オオドリー」。でも、今の気分は武骨な赤の「エチオピア」。

何のカレーを食べるか決めずに入店すると、入口すぐの食券機が「もう子供じゃない」と選択と決断を僕らに迫ってきた頃、「期間限定 海老豆カレー」の文字が飛び込んできたので反射的にそのボタンを押す。

思わず歌詞を引用した名曲を挟みつつ、2階から小荷物昇降機に乗って到着したカレーがこちら。

「やあ!ケーイチくん、ひさしぶりだね!おいらパクチー!」

ああ知ってるよ。すげえ知ってる。乗ってるね~!ファサッとさー!ああー失敗したなーーー。チキンカレーに置きにいけばよかった。

おれはすっかり悲しみに暮れ、仕方ないからもう、カレーと一緒に、パクチーぱくぱくパクチーぱくぱくルーーーー(カレーだけに)とかやっていると、これが存外にうまい。
しかもパクチーが味のアクセントになっていてねえ。熱いカレーに涼しい風を吹き込んでいる。扇風機で首振りモードにしていて、自分のところに風が回ってくる幸福感。そんな感じ。

辛さは「10辛」。最大「70辛」まであるらしい・・
13年前はもっと辛くないレベルで死にそうになっていたけど、10辛でいくらか余裕がある。日々はよりよいものになっているのだ。

何よりも、パクチーを含む料理が美味しいと感じられたことも大きかった。部長から、すべての客先で「ケーイチくんは、パクチーがダメで」から始まる古典落語レベルの完成度を誇る話でいじられたおれはもういないんだ。
達成感とともにカウンターからスッと出てきたシャーベットがまた嬉しい。ごちそうさまでした。and, hello coriander.

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