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6. コール - 抜けが良くクリアサウンドのコール


ディジュリドゥの3種類の音ドローン・トゥーツ・コールの中で、コールは自分がしゃべった声がそのまま出音になっているように感じられる点で、テクニック的に一番シンプルでわかりやすいです。

マイケル・ジャクソンの「ポゥ!」

ぼくがディジュリドゥを独学でやり始めた頃のコールのイメージは、マイケル・ジャクソンがシャウトする「ポゥ!」みたいな感じでした。思い返せば、その頃連続してコールをやるとやけに疲れるなぁと感じることが多かったように思います。

[我が家に鎮座するマイケル・ジャクソン人形]「今夜はビートイット」の頃の赤いレザージャケットを着たマイケル。今見るとなかなかに怖いお顔をしています。この人形を買った経緯は全く覚えていませんが、このコラムを書く時のためにあったのか!と過去の自分に感謝。

もしあなたのコールを鳴らす感覚が昔のぼくと同じようなマイケルのシャウト的なイメージなら、楽で軽いタッチで連続してパワフルにコールを鳴らすヒントがこのコラムから得られるかもしれません。


コールが疲れるのはなぜ?

むかしのぼくのコールの鳴らし方を例にとって、疲れるコールの鳴らし方を分析してみたいと思います。まず一点目は前述のマイケルの「ポゥ!」みたいに、コールを「P」で発音している問題です。なぜコールを「P」で発音してしまうのか?その原因はトランペットを演奏するように唇にウエィトを置いた状態でドローンを鳴らしているからだと考えられます。

[Pの発音状態]唇間と歯間が並列していることで、M、P、Bの唇間破裂音を発声することができます。コールが「P」から始まるマウスサウンドのイメージならこの状態になっています。

ディジュリドゥを鳴らしている時に唇を閉じているという感覚が強ければ、コールのマウスサウンドは唇を閉じた状態で声を出すことができる唇間子音(両唇音)の「M」、「P」、「B」のどれかに限られてしまいます。

次に、コールを鳴らして疲れる最大の原因になっている「シャウトしている」という点です。ドローンの中に印象的にコールを使いたい場合、派手に力強く大きな音で鳴らしたいと思うのは自然です。

その時、前述のように唇を閉じているように感じる鳴らし方をしていたら、軽いタッチで小声でコールを鳴らしてもドローンに混じってコールが抜けるように鳴りません。唇の強い振動を押しのけてディジュリドゥの中に声が響くようにするためには、ドローンを上回る力でシャウトすることになってしまいます。

つまり、コールを「P」で発音していることと、コールをシャウトで鳴らしていることは、どちらも唇を閉じるように強く振るわせていることが原因になっていると考えられます。

現時点でコールを鳴らす感覚が「P」の発音とシャウトになっているなら、「2. ディジュリドゥの唇の作り方 - 唇をどうふるわせるのか?」にもどって、まずは開放的な唇で鳴らす感覚を身につけるのがおすすめです。

コールが鳴らしやすい楽器

ディジュリドゥのタイプによってコールの鳴らしやすさが違うのをご存知ですか?一所懸命シャウトしても吸い取られるような感じがする楽器もあれば、軽い小声で鳴らしてるのに、パワフルで突き抜けるようなコールが連続的に鳴らせる楽器もあります。

ディジュリドゥを選ぶ時、ドローンの音色や鳴らし心地を中心にトゥーツの距離感をしっかりチェックするけれど、コールの演奏感をシビアに試すという人は多くなさそう。あえてドローンやトゥーツを全く鳴らさずにコールだけを鳴らして楽器を比較してみたら、どうなるでしょう?

まずコールだけを鳴らして、自分が一番軽いタッチでコールが鳴らしやすい、コールの演奏にパワーがいらない、と感じた楽器をピックアップします。次に、その楽器のドローンやトゥーツを鳴らしたら、とても意外なことに気づきます。

おそらくドローンの音はレンジが狭く硬くドライな響きで、バックプレッシャー高め、全体的に窮屈な感じがする楽器であることが多いです。コールの軽さを一番の念頭に置いたなら、いわゆるキッズ・イダキやナロー系のイダキがなぜか自然とファースト・チョイスになってきます。

[Yidaki made by Djakapurr Munyarryun]
典型的なナロー系のイダキという印象の楽器です。特にマウスピース直下から上1/3ほどは空洞がせまく、バックプレッシャーが高く、ドローンの出音は硬くつまった印象ですが、こういう楽器をヨォルングのイダキ奏者が鳴らすとなぜかやわらかく響くから不思議です。

このようにコールだけを鳴らしてみたら、普段自分が選ばない楽器が目の前にあらわれることがあります。上記のようなタイプの楽器じゃなかったとしても、コールだけを鳴らして軽やかさを感じる楽器で練習することは、じつは「声(ハミング)を使ってディジュリドゥを鳴らす」ということをより明確化してくれます。

コールの反応がいい=ハミングの乗りがいい、ということなのでコールだけで楽器を選んでみると最短ルートでイダキ演奏の感覚をおおまかに把握できますよ。

[Yidaki made for Babamiku Gurruwiwi by Larry Gurruwiwi]
ショートサイズで「G#」とキーが高く、バックプレッシャーが高い。カチっとした音の響き。なによりウルトラ・ライトな演奏感が先立ち、ラリーが息子のババミコのために作ったという経緯にうなずけるイダキです。

詳しくはマガジン「how to choose didjeridu - ディジュリドゥの選び方」の「5. アボリジナルはどういう楽器を選ぶのか」と「7. キッズ・イダキ」をご覧下さい。

オープンな空洞でバックプレッシャーが低い楽器じゃないとコールが鳴らしづらい、という人はパワー過多の状態に慣れてしまっている可能性が高いです。そのパワーの1/4くらいで十分ラウドなコールが鳴らせることをキッズ・イダキが教えてくれます。


コールの基本的な鳴らし方

コールを鳴らしやすい楽器が準備できたら、実際にコールを鳴らしてみましょう。なんとなくでやってもそれっぽい音が鳴るんですが、基本的な鳴らし方やコツがわかると簡単にきれいなコールが鳴らせます。

きれいなコールを鳴らす時に最も重要なことって何でしょう?これに答えられる人はすでにハミングを習得している人かもしれません。答えは「ハミングのオクターヴ(8度)上の声」で唄う、です。

ハミングのオクターブ上のハイボイス。音程をそれほど厳密に守らなくてもいいかもしれませんが、スコーンと抜けるようなクリアーな音でコールを鳴らすには音程にシビアになることは重要なポイントだと思います。ハミングがドローンのベース音(基音)に対して3度上の和音の声を出すように、コールもハミングのオクターヴ上(8度上)という形で和音を守ると、タッチが軽くきれいに響きます。

和音からずれると音にニゴリが出ますが、ヨォルングのイダキ演奏を聞いていると、このオクターヴ上の位置から少し上げ下げしてコールのニュアンスを色々変化させて曲調に合わせているようにも見えます。

すべてのアボリジナルのディジュリドゥ奏者がこのトーンをきっちり出しているかというと疑問があります。時代・地域・演奏者によってコールの時に出しているトーンが違う、というのも現実なんじゃないかなーと思います。

シャウトせずにコールを鳴らす

ヨォルングのコールの音を聞くとドローンより大きな音で鳴っているので、コールは激しく叫ぶようにやるものだ、と想像してしまいがちです。けれど、実際に彼らのマウスサウンドを聞けばシャウトしていないのがわかります。

また、Yothu Yindiの「Homeland Movement」のトラック10「Gudurrku」を聞けば、5分以上コールを多用したリズムが続きます。その状態で変わらぬクオリティで演奏されていることを考えれば、コールをシャウトで鳴らすのは現実的ではないことがわかります。

[Yothu Yindi - Gudurrku]
ソングマンはWitiyana Marikaで2024年のオーストラリアの「ローカル・ヒーロー」に選出さたRirratjingu氏族の長老です。イダキ奏者はCD「Hard Tongue Didgeridoo」で知られるM. Mununggurrで、この曲の中で多用されるコールは本当に鶴の鳴き声のようでディジュリドゥ奏者じゃなくても刮目の美しさです。

ここで、シャウトしたコールと軽くしゃべっているような声で鳴らすコールを比較してみましょう。

コールの練習をセルフラーニングする場合、コールの善し悪しの判断基準を音のクリアーさにするとわかりやすいです。コールの音ににごりがあれば、音程がずれているか、シャウトしてるか、唇に声が当たってしまっているかのどれかでしょう。

コールに必要なパワーはドローンのオクターヴ上の声を出すだけですので、ドローンの「ミ」のハミングからオクターヴ上にピッチチェンジしてるだけ、くらいのパワー感でやるのがおすすめです。


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