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5. アボリジナルはどういう楽器を選ぶのか

アボリジナルのディジュリドゥ奏者はどんな楽器を選ぶのか?

前回はコンテンポラリー、トラディショナル、二つのスタイルに関わらずフィットする楽器についてのべました。この章からはトラディショナル目線でのセレクト方法について書いていきたいと思います。

Earth Tubeではアボリジナルが使っていたユーズドの楽器、彼らのプライベートの楽器を収集・保存しています。それは彼らが一体どういう楽器を好むのか?彼らの使っている楽器には共通したナニカが存在するのか?そういった伝統奏法を学ぶ人なら誰しもが思い描く疑問に対して、謎をひもとく糸口の一つになるんじゃないかと思うからです。

彼らが使う楽器には演奏者の個性や好みによって、かなり幅広いタイプが存在しているように感じます。実際、サイズ、形状、ピッチ、演奏感にいろんなバリエーションがあり、それらを分類してある程度のカテゴライズはできそうなものの、すべての楽器に共通するようなことってあるのでしょうか?

[Yali Mununggurrのプライベート・イダキ]何重にもテープが重ねられ、クラックで空気もれが起こるたびにテープを巻いてしつこく使い続けてきたことがうかがえる。マウスピースが大きく、空洞がオープンで西部アーネム・ランドのMagoに近い形状で、いわゆる典型的なイダキのシェイプではありません。モワっとしたやわらかい振動で、バックプレッシャーが低く、マウスピースが大きいショート・イダキ。【Yali Mununggurr】G- -/G#+・119.2cm/2.5kg・3.4-3.9cm/9-9.6cm
[Yali Mununggurrのマウスピース]マウスピースの断面を見るとこのイダキに巻き直されたテープの回数が分かります。ここまで執拗に使い続けるだけの理由がこのイダキにあったことを考慮すると、一般的に良いとされるイダキのルックスや演奏感は大きく覆されるような気がします。内径3.4-3.9cmというマウスピースのサイズに加えて、そこから続くオープンすぎる空洞の大きさ。このイダキはMagoと言ってもおかしくないサイズと形状をしています。

さほど出音が大きいわけじゃないぼやけた感じがする楽器、硬くつまった感じで出音の倍音レンジが狭い楽器、マウスピースも空洞も大きくて抜け抜けの楽器、振動がソフトで唇がどうふるえているのかがわからない楽器。これらはすべてヨォルングは時に好んで使うけれど、バランダ(ノンアボリジナル)からは敬遠されがちな楽器なんじゃないかなと感じます。

[Djakapurra Munyarryunのプライベート・イダキ]90年代にDjakapurra自身が所有していたプライベート・イダキ。硬いサウンドで非常にタイトでギチギチ。上記のYaliのイダキとは正反対に思える形状と、ハイプレッシャーで小さなマウスピースに狭い空洞、ギチギチでカチカチの演奏感です。【Djakapurra Munyarryun】F#-/G#-・133.5cm/2.2kg ・M:2.9-3.1cm/B:8.5-9.5cm
[マウスピース直下の空洞比較]左がDjakapurraで右がYali。空洞直下からすぐ空洞がせばまっているDjakapurraのイダキとは対照的にYaliのイダキは空洞直下から空洞がマウスピースの内径よりも大きく広がっています。


楽に長く演奏できる楽器、ハミングと親和性の高い楽器をチョイス

彼らがピックアップする楽器を鳴らしてみると、その多くがハミング的演奏への親和性が高い楽器なんじゃないかなと感じます。つまり、ブレスだけで鳴らすと成立しないけれど、声を使うハミングで鳴らした時に「浮き立つような感じがする楽器」という点で共通しているように見えます。ハミングで浮き立つ楽器は、伝統奏法においては「鳴らしやすさ」を感じる楽器であり、しゃべりやすいんじゃないかなと推測します。

[60年代のWadeyeコミュニティのKenbi]直管で短く空洞はオープンで4cmをこえる大きなマウスピース。なんの変哲もないシェイプだがハミングがのりやすく、音量もある。一般的にベルボトムになっていることで音量があると考えられがちですが、こういうシンプルなシェイプの楽器の鳴りの良さと演奏感のすばらしさにディジュリドゥのメタ認知が進む。【60's Port Keats Kenbi】F・99.3cm/1.3kg・4.1-4.3cm/5.7-6cm

アボリジナル目線で選ぶ時のポイント

  • 声との親和性が高いハミング、またコールに反応しやすい

  • 楽に長く鳴らせる

  • 出音はそれほど重要視しない(感覚重視)

  • 自分がコントロールできるハミングのギアに合わせて楽器を選ぶ

一体なぜ彼らがこういうチョイスをするのかということに思いめぐらすと、「よりしゃべりやすい」ということと、前述の「楽に長く鳴らせる」という目線はすごく彼らの感覚にとって重要な要素なんじゃないかなと思うんです。それは彼らが儀礼の場で演奏する際に、断続的ではあるものの長時間にわたる演奏になることが多いからです。2-30分の短時間演奏するのと、朝から夕方まで演奏するのでは楽器に求める必要条件が変わってきます。

またCorroboree(アボリジナルと歌と踊り)が行われるダンスグラウンドは大抵砂地です。砂地の上では反響を得ることが難しく、部屋の角でバンバンに響くような楽器や音域の広い楽器が、必ずしもそういう環境での演奏にフィットするとは限らない、というのもリアリティなんじゃないかなと感じます。

[ダンス・グラウンド]彼らはビーチや川沿いだけじゃなく、内陸でも足元がやわらかい砂地で舞踊ることが多いように見えます。オープンエアで演奏しても聞こえやすい音質、という目線でディジュリドゥをみてみるのもいい視点かもしれません。

どんな楽器でも楽器選びはサウンド重視の耳だよりと考えるのが一般的ですが、ディジュリドゥの伝統奏法においてはアボリジナルのディジュリドゥ奏者と同じ目線に立ってセレクトするなら、「楽に自由に鳴らせるかどうか」という感覚重視で選ぶと彼らの感覚に一歩近づけるんじゃないかなって思います。

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