シークレットリー・グループとめぐるUSインディのセカイ(2010年〜)
とある一つの音楽的ジャンルや、音楽的なムーヴメントを語る上では、もちろんアーティストの存在は最重要ではありますが、例えばアラン・マッギーがオアシスを発掘したように、シーンの円熟や勃興において、その根幹的な部分を支えるレーベルの存在は、どうしても無視できないと思うのです。
クリエイション・レコーズとアラン・マッギーについてはかなり極端な例ではありますが、個人的な興味もあり、レーベルに関する記事を作成することにしました。
それと、今回初めての試みとして、Spotifyで今回触れているアーティスト含む、3レーベルのささやかなプレイリストを作成しました。(ちゃんと見れるか不安・・)
文中にもYouTubeのリンクを貼ってありますが、サブテキスト的な意味合いを込めて作成してありますので、どちらか読みやすい方を参照いただければと思います。
◎はじめに
今回書かれているのは、USにて設立された、シークレットリー・カナディアン、ジャグジャグウォー、デッド・オーシャンの3つのレーベルです。
詳細については後述しますが、「USインディ」という大きな括りでいうと、「ブルックリン」のシーンなどから発生したネオ・サイケやノイズの音楽を中心として、2010年周辺は、
Mexican Summer、Tri Angle、あるいはStolen Recordings(イギリスですが)など個性的なインディ・レーベルが出てきて、かなり面白いムーヴメントが起きていたと記憶しています。
中でもやはり、特に存在感のあったレーベルといえば、シークレットリー・カナディアンと、ジャグジャグウォー・・を挙げる方も少なくないのではないでしょうか?
補:ブルーミントンのコミュニティとしてのインディペンデント・レーベル
なお、本項でシークレットリー・カナディアン、ジャグジャグウォー、デッド・オーシャンを一つの括りとして扱うには理由があります。
・・彼らは「シークレットリー・グループ(Secretly Group)」というブルーミントンのレーベル同士のパートナーシップを結んでおり、
姉妹レーベルとしてシークレットリー・カナディアン、ジャグジャグウォー、デッド・オーシャンの3つのレーベルは、スタッフや事務所をシェアしながら活動していたからです。なので、「Secretly Group」として一つの括りを作っている、という次第です。
なお、シークレットリー・グループについては、2013年にシカゴのヌメロ・グループ(The Numero Group)も加わりましたが、本項では一度こちらは除外し、シークレットリー・カナディアン、ジャグジャグウォー、デッド・オーシャンのレーベルとしての活動、およびUSインディ界における当時の存在について記載しています。
シークレットリー・カナディアン(Secretly Canadian)
【レーベルについて】
インディアナ大学で出会ったChris・Ben Swanson兄弟、Eric Weddle、Jonathan Cargillの4人は、1996年、アメリカ・インディアナ州、ブルーミントンにてシークレットリー・カナディアンというインディペンデント・レーベルを設立しました。
ちなみに、創設者のChris Swanson氏はFort William Artist Managementというアーティストのマネジメントを行う会社も共同創設しているとのこと。
【所属アーティスト】
最近のリリースですと、UKはブライトンの4人組バンド、Porridge Radioの新曲がとても良かった記憶があります。Stella Donnellyも、軽やかで耳触りのよい曲を出していますよね。
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主要アーティストはディプロのメジャー・レイザー、デカダンス系のノイズを鳴らすSuuns(過去の筆者のレビューはこちら)、The War on Drugs、あるいはオノ・ヨーコなどヴァラエティに富んでいます。
また、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの登場は当時とっても衝撃だったと思います。筆者も驚きました。
このようにシーンに大きく影響を残したアーティスト、あるいは強く印象に残るアーティストを排出しているレーベルであることがわかりますね。筆者個人としては、Exitmusicとjjが好きでした。
【テン年代とシークレットリー・カナディアン】
当時のUSインディ界においてはNo Ageやアニマル・コレクティヴといったノイジーかつサイケデリックなインディ・バンドがたくさん出てきたということは記憶に新しいと思いますが、
特に「ブルックリン」をタームに、アニマル・コレクティヴの文脈はヴァンパイア・ウィークエンド、ドラムス、そしてMGMTなどが、ある種のシーンにおける音楽性、あるいは強い存在感を示していた時代でもありました。
上記の点を考慮したうえで特筆すべきは、個人的にテン年代(2010年〜)のUSインディ・シーンと共振していたのという意味で、Here We Go Magicと、Yeasayerといったブルックリン出身のアーティストでしょうか。
Animal CollectiveやMGMTを始め、Yeaseyerはブルックリン・シーンを代表するアーティストと評されることも多いですが、このようにフリーフォークを取り込んだシンセサイザーのキラキラしたサイケデリックって、この時代とにかくよく出て来たと思いますし、
彼らの音楽がUKインディのダブステップや、ウィチタ・レコーディングス、あるいはアンビエントやオフビート・トランスが飲み込まれてチルウェーヴへと変化していったのではないか?と個人的には思います。
ジャグジャグウォー(Jagjaguwar)
【レーベルについて】
ヴァージニア大学で数学を学んでいたDarius Van Armanにより、1996年のヴァージニアで設立されたレーベル。その後、彼は1999年に大学をドロップアウトし、インディアナはブルーミントン引っ越し、シークレットリー・カナディアンと姉妹レーベルになった、とのこと。
【所属アーティスト】
個人的には、最近リリースされた中ではOkay Kaya「Asexual Wellbeing」がとても印象に残っています。
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・・が、レーベルからリリースされたアーティストとして一番有名なのはやはりボン・イヴェールでしょうか。2012年2月12日に第54回グラミー賞の最優秀新人賞、ベスト・オルタナティブ・アルバムの章を受賞していますね。
無理矢理にボン・イヴェール「繋がり」と表現するのも憚られますが、ヴォルケーノ・クワイア(Volcano Choir)、ギャングス(GAYNGS)もジャグジャグウォーからリリースされています。
また、Okkervil Riverに見られるような良質なSSWも所属しています。(オッカーヴィル・リバーについては、小熊俊哉氏のこちらをご参照いただければと思います。)
Swan Lakeのようにフリーフォークをエクスペリメンタル寄りのノイズ・インダストリアルが歪ませた?ようなアーティストや、Foxygenのようにサイケデリックをポップにしたような面白いアーティストも所属していますね。
【余談:チルウェーヴとジャグジャグウォー】
2010年代を語る上であらゆる音楽的ムーヴメントやタームが発生しましたが、現在また流行しつつある「ヴェイパーウェーヴ(Vaporwave)」を語る上でも、「チルウェーヴ(Chillwave)」の存在は欠かせない、と筆者は思います。
チルウェーヴというムーヴメントは、USインディが鳴らしていたブルックリンのネオ・サイケを文脈に含みます。
コンテクストの問題はさておき、チルウェーヴの代表格であったアーティストといえば、Washed Out、Active Child、Toro y Moi、そしてこのスモール・ブラック(Small Black)を指すことが多いということからも、シーンにおけるジャグジャグウォーというレーベルの影響力が窺い知れるのではないでしょうか。
ちなみに、Washed Outはメキシカン・サマーから音源をリリースしていますが、メキシカン・サマーもとっても重要なレーベルですよね。筆者もレーベルコンピを買ってました。
デッド・オーシャン(Dead Oceans)
【レーベルについて】
前述の2レーベルと比べると設立が比較的新しいレーベルで、2007年にPhil Waldorfによって設立され、共同創設者にシークレットリー・カナディアンのChris・Ben Swanson兄弟、Jonathan Cargill、ジャグジャグウォーのDarius Van Armanを迎えられています。
ちなみに、デッド・オーシャンズのレーベルの由来はボブ・ディランの「A Hard Rain’s a-Gonna Fall」の歌詞の一節から来ているそう。
【所属アーティスト】
最近ですと、2019年のコーチェラにも出演していたクルアンビン(Khruangbin)のパフォーマンスは素晴らしかった記憶があります。
タイ・ファンクとサイケデリックの融合、サイコビリーほど歪んではいないけれど、何だかブルーズっぽくも感じる・・不思議な音楽性については、こちらの記事がとてもわかりやすく解説されていたので参照ください。
ギターストリングスがアジアの弦楽器のもつ音階みたいなのを奏でていたりしますよね、すごい・・。
ちなみに、スロウダイヴ(Slowdive)の22年ぶりのアルバムも、デッド・オーシャンズから発売されていましたね。
【2010年辺りのシーンに対して】
ガントレット・ヘアー(Gauntlet Hair)のようにネオゲイザー寄りのノイズ混じりのバンド・サウンドに打ち込みのキックを入れる感じや、A Place to Bury Strangersのようにリヴァーヴを効かせたヴォーカルの入ったガレージロックは、とってもテン年代初頭的ですね。
また、レーベル設立以降に発売されたAkron/Familyの音源もデッド・オーシャンからリリースされていますが、サイケデリックの文脈は感じるもののエクスペリメンタルに寄っているAkron/Familyは、バトルス、This town need gunsなど別のベクトルに共振しているような気がします。
◎まとめ
というわけで、各レーベルの発足〜アーティスト、2010年頃のシーンとの関わりについての記事を書きましたが、ムーヴメントそのものを語る上では単一のレーベルのみではやはり難しいものがあり、説明仕切れなかった部分については、また別の機会かしら・・と考えています。
各レーベルについて、大きく分けてどのようなアーティストが所属しているのか・・というのは、あえて言及を避けております。
というのも、勿論今も活躍するレーベルであるため、当時のカラーは残しつつも、レーベルとしての発展もあるため一概に言えないことは理解しているからです。・・が、かなり大雑把に表現すると、個人的な印象としては下記のようになるかなあ、と思います。
シークレットリー・カナディアン:バンド・サウンド的なものは少なめ、印象的なイコン的なアーティストが多い
ジャグジャグウォー:ギター・ストリングスを使った良質なメロディ系のSSW、シンセポップ
デッド・オーシャン:エクスペリメンタル的要素を含んだバンド・サウンド
ただ、各レーベル共に、こういうフィーメール・アーティスト好きなんだろうな〜とは思います。
Faye Webster / シークレットリー・カナディアン
Gordi / ジャグジャグウォー
Mitski / デッド・オーシャンズ
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各レーベルのウェブサイトについては、下記をご参照ください。
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