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歳の差夫婦のための口実

彼と私はいわゆる、歳の差夫婦だ。
だから2人の誕生日の間の1ヶ月は、1年で唯一歳の差が1桁になる期間という点で重要である。

3日前が彼の誕生日当日だけれど、お互いに仕事だったので代わりに今日お祝いすることにした。
日曜日は二人でゆっくり過ごせる唯一の日だ。教師をしている私は土曜日も部活のために出かけることが多いし、システムエンジニアをしている彼は夜勤が定期的にあるのでなかなか一緒に過ごすことが難しい。
梅雨入り前とはいえ、なかなかお天気に恵まれない中、今日はお祝いにふさわしく快晴。これ幸いにと、溜まっていた衣類を洗濯した。
「手伝うよ」
そういってベランダに出てきてくれた彼は、色んな家事をしてくれる。ゴミ出しから料理まで一通り。結婚したばかりの頃は慣れない様子だったのに、今ではネットで見つけてきた珍しい料理を振舞ってくれるのだから、2年の歳月は伊達じゃない。
「ありがとう、おかげで早く終わったよ、それからお誕生日おめでとう」
ついでみたいに言うじゃん、と笑う彼の後を追って部屋に入る。
「25歳かあ、早いね、この前までブレザー着てたのに」
「この前ってもう10年前だよ、今の俺、初めて会った頃のあなたと同い年」
時の流れは残酷なもので、やんちゃだった彼はすっかり大人の男の人になり、対して私はおばさんへの坂を順調に下っていた。

 
今日は彼が楽しみにしていた映画を見に行く約束で、彼の運転する車で近くの映画館に向かった。
メイクは薄すぎず濃すぎず顔色が明るくなるリップは必須、洋服は清潔感とトレンドのバランスが取れるものを選ぶ、それが若い彼と付き合うようになってからの秘密のマイルールだ。
映画館は週末だからか、カップルで混みあっていた。
一応、誕生日祝いなのでチケットは事前に購入していた。あとは、ポップコーンと飲み物を買ってフライヤーを見ている彼の元に戻る。
近くには彼と同年代のカップルもいて、無意識に気後れして意味もないのに腕を掴んだ。
すると、腕を掴まれた力が思ったより強かったのか、はたまた気持ちが顔に出ていたのか、
「歳の差なんて、今更気にしなくてもいいのに」
涼しい顔で彼は、ポップコーンを頬張りながら言ってのけた。
彼なりに気を使ってくれたことがわかって、恥ずかしいような面はゆい気持ちになる。
「お黙り、歳の差は狭いに越したことはないのです」
若い君にはきっとわからないんだろうけど、でも別にそれでいいの、自分の考えが曲がらない実直さに惹かれて結婚したんだから。だけど、自分だけが気にしているのはやっぱり悔しいから、すこしだけ意地悪を言ってみよう。


「3年間担任をしていた生徒と、キスをする免罪符が少しでもほしいのですよ」
彼の耳元で呟いたら、涼しい顔から一転、耳まで真っ赤になった。
そういう初心なところも好きですよ、旦那様。

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