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【読切短編:文字の風景②】ベランダ

洗濯物が強い風にあおられて、はためいている。

時刻は午後3時半を回り、日差しの落とす影が伸び始める。お気に入りのワンピースがスカートを翻しながら、水気を飛ばしている。

ワンルームくらいの広さがあるこのベランダの地面は、白いアスファルトで出来ている。壁も白いので今日みたいに天気のいい日は日差しが反射して、空間全体にクリーム色がかったようになる。

ターコイズのワンピースがよく映える。踊っているような、騒いでいるような、もしくは気でも狂ったかのようにはためいている。私は窓越しに、両手で頬杖をつきながらそれを眺めている。

この家に住み始めて1年。色々な事があった。良いことも悪い事も沢山あった。あのワンピースを着ている時も、笑ったり、泣いたり、怒ったりした。

あの胸元に落ちた濃い染みは、その時に吸い取った涙かもしれない。

***

洗濯物とベランダが、薄墨色に沈んでいる。

夜の気配が近づいてきて、足元からやんわりと、涼しい空気が立ち上ってくる。さっきまでの勢いを失って、風もずいぶん凪いだ様子だ。ワンピースも、静かにハンガーに吊るされている。クリーム色の世界は影を潜め、すっかり風景の一部としてなじんでいる。

カラカラ、と窓を開け、日光と風ですっかり乾いたワンピースを取り込む。ふと空を見上げると、雲ひとつ無い。今夜は穏やかで、綺麗な星空が見れそうだ。



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