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マラソン大好き幽霊2024【ショートショート】

毎年恒例・一年に一話進む連載型ショートショートを更新する季節が今年もやって来ました
第一話と第二話は最下部のリンクからどうぞ


俺は俊也(浩平)だ。
俺は今、ベッドの中で横になっている。
今日は毎年恒例の「マラソン大会の日」だ。
今頃は出場選手たちが受付会場でエントリーをしているところだろう。
なのに今、俺は寝間着のままでベッドの中にいる。
毎年あれだけ本気で取り組んでいたマラソン大会をすっぽかして、ベッドの中でスマホ片手に動画を観ている。

俺の中のマラソン熱が冷めたわけではない。

俺は、インフルに罹ってしまったのだ。


今年もあの憎たらしい幽霊は大会にエントリーしているだろう。
そして大会終了後に出場者に振舞われる雑煮を、去年と同じようにホクホクの笑顔で見つめるに違いない。
一昨年はアイツの「変顔走行」に負け昨年はアイツの「バレエ走行」に負けた
アイツはきっと今年も、「打倒・浩平おれのなまえはとしやです」のために強力な作戦を練っていたに違いない。

残念だったな、幽霊。
俺は今年、お前と戦えそうにない……。
お前の一年間の特訓を無駄にしたかもしれないが、それは俺とて同じこと。
俺だってこの一年間、「抱腹必至!面白アニマル動画」を観まくって鍛えていたんだ。

もうそろそろ大会出場者のエントリーも終わり、スタートの合図が出される時間だ。
俺は部屋の中からライバルのお前の健闘を祈りつつ、面白アニマル動画の続きを観よう。

俺はスマホを再び手に取り、一時停止していた動画を再生した。
あ、可愛い猫ちゃん。少林寺拳法みたいなポーズ可愛い、ふふっ。
奇抜なポーズの猫に思わず笑みが漏れたその時だった。


ブツッ……。ッザーーー


突然動画が途切れ、砂嵐の画面に切り替わった。
あれ? 俺なんか変なとこタップしたかな。


「浩平いいいい!!!(# ゚Д゚)」



スマホの全画面に、血まみれの幽霊アイツが映し出された。


「うわあああ!!!(((;゚Д゚)))」


俺はビビって絶叫した。心の底からビビって絶叫した。

「なんでマラソン大会来てないの! 浩平いい!!(# ゚Д゚)」
「俺の名前は俊也……っていや、それはいい! 何だよお前! ビビらすんじゃねーよ!!」
「今年の供物はおしるこだよ浩平!(# ゚Д゚) 滅多にお供えしてもらえない汁物なんだよ浩平!(# ゚Д゚)」
「俺は死んでねえよ!! 死んでるのはお前だけだろ!」
「臆したか、浩平!(# ゚Д゚)」
急にカッコつけた台詞吐くんじゃねーよ! 俺は今インフルなの! だから今年は出られな……ゴホッゴホッ!」
「…………」
「ほらお前が脅かすからまた咳が出て来たじゃねえか! ゴホッ」
「…………」


あれ? なんか幽霊コイツ急に静かになったぞ。
俺の事情を察したのか。


ぬうっ。



直後、スマホから血みどろの両腕が出てきた。
貞子みたいに。


「ぎゃあああ!!!!」

「浩平、君は永遠のライバル……! 連れて行く! どんなことをしてでも!」


連れて行くって、あの世へではないですよね?
マラソン大会のことですよねあくまでも。
冷静に思考する俺と、貞子プレイをリアルで体験してパニクる俺がそこにいた。


がしっ。



幽霊は血みどろの両腕で俺の寝間着の襟首を掴むと、画面の中へ引きずり込もうとした。
やめてやめてやめてホラーじゃんこれ嫌あああ!!!
そして俺は。
意識を失った。



目覚めた俺が見た光景、それは。
毎年目にする、マラソン大会のコースだった。
あれ? 俺はインフルに罹って家で寝ていたはず……。
そうだ、そこに幽霊アイツがスマホ画面から現れて……。
えっ これどういう状況!?

俺は自分が置かれている状況を把握しようとした。
そして、愕然とした。

ゆ、幽霊が……。
幽霊が、俺をおんぶしてマラソン大会のコースを走っている!!
幽霊でも人を背負って走るという行為はキツイのか、顔が辛そう!



「ゆ、幽霊お前何してるんだよ!」
「あ、浩平気が付いた? ハアハア。年に一度のマラソン大会に、君というライバルが不在なんてあり得ないだろ! ハアハア」
「(めっちゃ辛そうやん。何なら俺より辛そうやん。)でもお前……だからっておぶって走る奴があるかよ。そもそもルール違反だろ降ろせ!」
「嫌だ……諦めないっ、ハアハア。君と一緒にゴールするんだ! ハアハア」
「いやあの、あなた毎年俺に変な作戦ぶちかまして俺のゴールを阻止してますよね?」

都合の悪いことに答えたくないのか体力的にギリなのか、幽霊は口を閉ざした。
もう、なるようにしかならねー。
なんなんだこの少年漫画のようなアツい展開は。
いい大人になってこんな経験するとは思ってなかったよ。
それも死人相手に。

沿道で声援を送る人たちも、すごく微妙な面持ちで俺らを見ている。
そらそうだわな。
「が……がんばれ~」
とまばらに聞こえる棒読みの声援が痛い。精神的に痛い。
中には、
「あのまま連れて行かれるんちがうか……(ボソッ)」
と怪訝な顔で呟くギャラリーもいる。
思ってても言うな! そういう事は!
俺が不安になるだろ!

そして幽霊は、血まみれなうえに汗だくという鬼気迫る顔で、俺をおぶったままゴールのテープを切った。



「ふう~おしるこっていいよねえ~(*'ω'*) あったかい気持ちになるよねえ~(*'ω'*)」

今年も幽霊は、ホクホクの笑顔で目の前に置かれた椀の中を見つめていた。
本来ならば俺はエントリーすらしておらず、尚且つおんぶされて出場したためノーカウントされてもおかしくなかったはずだが、俺にもおしるこが振舞われた。
今回の幽霊&俺の出場をさてどうするかと悩んでいた実行委員の前で幽霊が

「うらめしや~」

と歴代幽霊も用いたであろう脅し文句を使ったためだった。
来年から出場しにくいな、どうしよう。
まあいいか。
今年は幽霊コイツの気概に素直に乗っかることにしよう。

「なあ幽霊、お前さ、なんで俺んちというか俺の場所わかったの?」

ふと俺は、スマホから貞子方式で拉致されたことを思い出し聞いてみた。

「ああ、あれね~(*'ω'*) 浩平がいつまで経っても会場に来ないから、心の中で強く念じてみたらベッドの中でゴロゴロしている浩平が見えたんだよお(*'ω'*) それでもっと強く念じてみたら、スマホに映ることが出来たんだよお(*'ω'*) で、浩平と話せたってわけ」

話したというか、俺を拉致しましたけどねあなた。

「強く思う事って大事だね!(*'ω'*) これがホントの怨念、なんてね!(*'ω'*) あ、幽霊ジョーク言っちゃった(*'ω'*)」


俺はおしるこを啜った。
温かく、甘かった。
そして俺は新たな決意をした。


もうこんな恐怖体験は二度とごめんだ。
スマホに映った幽霊に画面の中へ引きずり込まれてマラソン大会に強制出場させられるとかホントやだ。
来年は万全な体調で、コイツに拉致されないように自力で出場する、と。


【FIN】

一年に一話更新される連載型ショートショート
『マラソン大好き幽霊』(第一話はコチラ ↓)

一年に一話更新される連載型ショートショート
『マラソン大好き幽霊』(前作の第二話はコチラ ↓)


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