シミュレーションの精度とシンプルな操作性を両立。~ライフプランシミュレーター『マネパス』開発秘話(下)~
ブロードマインドは、ライフプランの実現を支援する金融サービス開発カンパニーとして FP(ファイナンシャルプランナー)への相談サービス『マネプロ』を始め、デジタルプロダクトの開発・提供も行っています。
マネパスは現在利用者15,000人を突破。一般生活者がライフプランニングを行うためのWebサービス『マネパス handy』だけでなく、金融サービス提供事業者向けのコンサルティングツールとして開発した『マネパスwith FP』も導入企業数を順調に増やしています。利用者からはマネパスシリーズのコンセプトや開発ポリシーに共感いただくことも増えています。
改めてこの開発にかける想いを伝えたいと感じ、全3回にわたって開発ストーリーをご紹介しております。
前回は、マネパスの発案者である弊社取締役の鵜沢が、技術開発担当で量子アニーリング研究の権威である東北大学大学院教授・大関真之氏と株式会社Jij CEOの山城悠氏をゲストに迎え、マネパスのコンセプトや技術実装の過程について語り合いました。
今回は、ソフトウェア開発を担当した株式会社ソニックガーデン 執行役員の野上誠司氏と共に、マネパスの思想と技術をソフトウェアに落とし込むまでの苦労を振り返りながら、試行錯誤を経て実装したマネパスシリーズの機能を紹介します。
インタビュイープロフィール
FPのあらゆるニーズを形にした『マネパスwithFP』
金融知識のない一般ユーザーでも、具体的なライフプランを簡単にシミュレーションできる『マネパス』(現『マネパスhandy』)。ユーザーの入力情報に基づき、最適な金融商品モデルをリコメンドする「保険・金融商品同時設計機能」や、FP視点のアドバイスを表示する「暮らしの改善提案」など、先端技術を活用したさまざまな機能を搭載しています。
そのマネパスを、金融サービス提供事業者がコンサルティング業務で使用できるようにアレンジしたのが『マネパスwithFP』です。シンプルな操作性はそのままに、プロのニーズに応える高いシミュレーション精度を実現。就業不能時のシミュレーションや、保険・金融商品の同時シミュレーションといった多彩な機能を活用し、緻密なライフプランを作成できます。
また、顧客とデータをリアルタイムに共有しながらコミュニケーションを取ることも可能。顧客の納得感やモチベーションを醸成しながらコンサルティングを進められるというメリットもあります。
今までになかったコンサルティングツールとして、既にさまざまな企業から引き合いをいただいています。
「自社のFPコンサルで使うには機能不十分!」社内の厳しい評価から始まった開発
そもそも一般ユーザー向けに開発したマネパスを、専門家である金融サービス提供事業者向けにも展開したのはなぜか。
「『マネパス』は、使いやすいUIで、一般生活者が人生を考えるきっかけを提供できたことに意義があると思っています。ただ、より精緻なシュミレーションを行い課題解決まで目指すなら、専門知識があるプロが伴走してくれる仕組みづくりをしたほうがいいわけです。そうなるとやはり、専門家であるFPがコンサルティングで使用するツールとしての『マネパス』も提供したほうがいいなと」(鵜沢)
当時もFPがライフプランニングで使用するツールは数多く存在したものの、そのニーズに正確に応えられるものは少なかったと鵜沢は言います。
「既存のシミュレーションツールは、ほぼ二極化状態でした。簡易的なものは、顧客に満足してもらえるほどの精度を担保できません。逆に精緻なツールは項目が細かすぎて手間がかかり、中には入力だけで30分、1時間とかかるものも。それでは、顧客と満足に向き合う時間が削られてしまう。どちらもFPにとっては使いづらかったんです」(鵜沢)
マネパスなら、シンプルな入力からは想像できない精度のシュミレーションが可能。そこに、FPが現状のツールに抱く課題を解決するチカラがあると思ったと鵜沢は言います。
一方、FPとして現場でのコンサルティング経験を持つ開発チームの水野は、違った切り口で、「プロがマネパスを使う意義」を感じていました。
「ほとんどのツールは保険会社や証券会社のシステムにより提供されているもので、FP個人にひもづいてアカウントが発行されます。つまり、FPが所属する事業者自体にはデータが蓄積されないため、FPの退職時には顧客データにアクセスできなくなってしまうんです。これは、FPを抱える事業者にとっても大きな機会損失でした」(水野)
そこで開発チームは、一般ユーザー向けのマネパスをそのままFPに使ってもらおうという考えにいたります。シンプルな操作で、一定精度のシミュレーションができる上に、データは自社で管理でき、継続的なアクセスが可能。まさに、FPや金融事業者の課題を解決できるツールだと確信したからです。
ところが、試しにマネパスを社内の現役FPたちに使ってもらったところ、想定外の厳しい評価を受けることに。開発チームの水野は、「当社のFPが求めるクオリティを甘く見ていた」と当時を振り返ります。
「社内のFPたちから、『シンプル過ぎる』『FPとして課題分析をするには到底使えない』とこてんぱんに言われ続けて。皆、プロとして “理想のライフプランニング像” をそれぞれに持っていることに気づきました。工夫に工夫を重ねて、数十以上のシミュレーションパターンやシミュレーション項目を駆使しているFPもいたほど。『専門家が求めるレベルに到達するには一筋縄ではいかない』ということに改めて気づきました」(水野)
プロの要求と現状の乖離を実感した開発チームは、「ライフプランニングにこだわる社内FPも満足するようなツールを作らなければ」と一念発起。そこから、『マネパスwithFP』の開発が始まりました。
プロダクト構想に遠慮のないダメ出し。終わりなき改善を共に走る、最強の開発パートナー
『マネパスwithFP』の開発にあたって、協力を依頼したのが株式会社ソニックガーデンの野上氏でした。同社は、「納品のない受託開発」というコンセプトを掲げるソフトウェア開発会社です。プロダクトの要件定義に沿って開発する従来のウォーターフォール型ではなく、ユーザーの反応などを見ながら細かくアップデートを加えるアジャイル型の開発が大きな特徴。プロ意識の高いFPの要望に合わせた柔軟なチューニングが求められる『マネパスwithFP』の開発にうってつけのパートナーでした。
実は、『マネパスwithFP』の基礎となった一般ユーザー向けのマネパスでも、技術開発担当の大関氏と山城氏が作った基礎モデルを参考に、実際のプロダクトに落とし込む工程は野上氏をはじめとするソニックガーデンチームが担当。UI/UXに工夫を凝らし、新たな機能を付け加えるなどして、一般ユーザーがさらに使いやすいプロダクトに仕立て上げました。
「開発スピードやクオリティはもちろんですが、何より事業全体のパートナーとして伴走してくれる姿勢に頼もしさを感じましたね。野上さんが常々手厳しく『何のためのプロダクトなのか』と問い詰めてくれたので(笑)。私たち自身がプロダクトビジョンを明確にできました」(鵜沢)
試行錯誤の日々を苦笑いで振り返るのは水野も同様です。
「野上さんのダメ出しで、ターゲティングを練り直したこともありました。それまでに作ったプロダクトを全て破棄し、イチから作り直してもらうという(笑)。大変なお手数をおかけしましたが、そのおかげでさらにユーザーフレンドリーなプロダクトができたと自負しています」
ソニックガーデンの野上氏もマネパスの開発を「難産だった」と漏らしつつも、「ソニックガーデンの開発スタイルに合致したプロダクトだった」と語ります。
「当社が得意なのは、工数ベースで売り切りの受託開発ではなく、サブスク型のアジャイル開発です。だからこそ、設計通りに”作って終わり”ではなく、長期にわたって育てていく覚悟があるプロダクトしか引き受けません。それに、『プロが考える理想のライフプランニングとは』という問いに確たる正解がなかった。常に手探りで改善せざるを得なかったのが、むしろ当社の開発スタイルにピッタリだったんです」(野上氏)
こうした終わりなき改善をもとに、プロの使用に耐えうる新たなマネパス『マネパスwithFP』が誕生しました。
「絶対欲しい」を叶える。かゆいところに手が届く。プロユースの独自機能とシンプルな操作性
『マネパスwithFP』はプロユースのツールとして、高度な専門領域に踏み込んで開発しなければなりません。いつもは「ソフトウェアでできないことはない」という強気なスタンスの野上氏も、「FPの専門知識が基盤となるシミュレーションの実装には苦労した」と明かします。
就業不能時を含む、5つのシミュレーションパターンを実装
「ある程度覚悟はしていましたが、要求されるシミュレーションパターンが想定以上に細かかったんですよね。金融に関しては門外漢なので、FPユーザーが各パターンをどんな場面でどのように使うのか、そもそもイメージできなくて。FPユーザーの視点をインストールするために、ある程度開発しては、ブロードマインドの社内FPたちと直接打合せし、どのように使うのかを見せてもらうといったことを繰り返していました」(野上氏)
野上氏が特に言及したのは、就業不能時をはじめとするシミュレーションパターン群です。保険会社などが提供する既存のライフプランツールでは、保険商品の効果を示すため、生存時に加えて死亡時のシミュレーションができるようになっています。ところが、死亡時と並んでライフプランに大きな影響を与える、就業不能時のシミュレーションができるツールはありませんでした。
「最近は、ライフプラン設計で就業不能時のシミュレーションを行うのがFPの常識になりつつありますし、就業不能時を想定した保険商品も登場しています。それほど就業不能時への注目が高まっているにもかかわらず、シミュレーションできるツールがなかった。社内のFPからも『絶対に実装して欲しい』という声が上がり、開発することになったんです」(水野)
ブロードマインドとソニックガーデン、両社の開発チームは会議を重ね、徐々にパターンを実装。最終的には、「夫と妻の生存時」「夫の就業不能時」「夫の死亡時」「妻の就業不能時」「妻の死亡時」という、5つのシミュレーションパターンの実装に漕ぎ着けました。
業界でも類を見ないシミュレーションパターンの豊富さに、『マネパスwithFP』を導入した各社からも「顧客の潜在ニーズを喚起できる」との声が相次いでいます。
独自ロジックで実現する生命保険・資産運用の同時シミュレーション
より正確なシミュレーションを実現するため、背後の計算ロジックにもこだわりました。
「ライフプランのシミュレーション精度は、”将来的な変化をいかに適切に反映できるか”にかかっています。だからこそ、収入をはじめとする家庭内の変化はもちろん、住宅ローン金利や物価上昇率、年金といった社会環境の変化にも目を向ける必要がありますが、特に外部要素は法律や制度の変更から影響を受けます。それらも含めて正しい数値を算出できるようにしたいと考えていました」(水野)
また、正確なライフプランニングを行うには、生命保険や金融商品による資産変動も重要です。それらを合わせてシミュレーションできるツールにしたいというのも、ブロードマインドの願いでした。
「金融業界自体が保険会社と証券会社の縦割り構造になっているため、生命保険と資産運用を同時にシミュレーションできるツールはほとんどありませんでした。しかし、一般生活者にとっては、どちらも同じ財布の話。保険には資産運用の側面がありますし、資産運用商品を提供する会社でも、保険のことを聞かれることは少なくありません。両者の垣根を取り払ってシミュレーションすれば、顧客への提案余地は広がります。たとえ自社で取り扱えない商品でも、顧客にとってコンサルティングを受ける価値は高まり信頼も獲得できます」(鵜沢)
とはいえ、開発を担った野上氏は熱い思いを受け止めつつも、それらの計算ロジックの実装は難航したと言います。
「年金や住宅ローンの制度など、専門的な文書から細かい条件設定を読み解いて計算ロジックを組み立てるのは、本当に骨の折れる作業でした。その上に生命保険や資産運用の商品設計が加わるんです。ブロードマインド社員からのレクチャーを受けて一旦実装し、シミュレーション結果にズレがあれば調整するという、地道な作業をひたすら繰り返しましたね」
こうして、年齢に応じた自然な年収カーブ、金利変動、物価上昇率、年金制度、税制をすべて反映したシミュレーションが可能に。さらに、生命保険や資産運用商品の情報を入力すると、保険金や運用益などがライフプランに反映される業界でも類を見ない「生命保険・資産運用の同時シミュレーション機能」を実装。「顧客への提案の幅が広がる」と、社内外から好評価を得ることができました。
法律や制度は変更される度にすぐロジックに反映させなければならないため、「ほぼ常に何らかの計算ロジックを改修している状態」と野上氏は苦笑しますが、そもそも変更をすぐに反映できるのは、アジャイルの開発スタイルとクラウドというプロダクト形態という土台があってこそだといえるでしょう。
「ボタンだらけ」の苦悩から生み出したシンプルな操作性
シミュレーション精度の向上にこだわる一方で、より多くのFPに使ってもらうためには、簡単な操作性を維持する必要も。一見トレードオフの2つをいかに両立させるかに、開発チームは頭を悩ませました。
「社内FPの意見を吸い上げつつ、本当に必要だと思われる機能を厳選して開発していったのですが、機能が増え過ぎてボタンだらけになってしまったことがあったんです。開発チームでさえ、『あれ、このボタンを押すと何が出てくるんだっけ?』という状態。さすがにこれはまずいと(笑)。一旦全機能の棚卸しをし、社内FPとソニックガーデンチームを交えて、改めて取捨選択を行いました」(水野)
メニューバーの項目を整理した他、FPが実際に説明する順番に基づいて画面の導線も整理。また、二つのグラフを重ねて差分をビジュアル的に示すシミュレーション比較機能も実装しました。
「『マネパスwithFP』は、顧客にもシミュレーションを共有し、理解を深めてもらうことを想定していました。であれば、いかにプロ向けでシミュレーションパターンが複雑であっても、顧客目線で感覚的に理解できるようにしなければなりません。そこで、グラフを使ってビジュアルで比較する形は維持しました」(野上)
実際の面談では『マネパスwithFP』の画面を顧客に見せながら、提案内容を視覚的に説明することができます。顧客側では、面談後もいつでもご自身のスマートフォンやPCなどから入力内容の編集が可能。顧客側で何らかの編集が行われると担当FPに通知が飛ぶため、タイムリーなフォローが可能となり、アップセルや追加の相談につなげることもできます。シンプルな操作性を維持したからこそ、顧客の納得感とモチベーションを醸成しつつ、関係性を深められるツールに仕上がりました。
業界全体に、そして一般生活者へ、ライフプランニングを浸透させるツールへ
野上氏が「もう一度ゼロから作れと言われたらゾっとするかもな・・・」と苦笑するほど、開発と実装のサイクルを細かく重ねて育てた『マネパスwithFP』。社内FPとの対話を開発の土台に据えたからこそ、FPのニーズに応えられるプロダクトになりました。
そして2022年には、満を持して社外販売を開始。就業不能シミュレーション機能や、生命保険・金入商品の同時シミュレーション機能など、業界でも非常に珍しい独自の特徴が評判を呼んでいる他、シミュレーション精度と使いやすさが「いい塩梅で両立できている」(野上氏)のも高評価につながっています。
しかし水野は、「金融という閉じられた世界のツールを、一般ユーザーにも開放できた」という充実感を持ちつつも、「プロダクトとしてのゴールは迎えていない」と気を引き締めます。
野上氏も、「ユーザー体験を良くする余地はまだまだある」と、今後の開発と改修に意欲を見せています。
また、より多くのFPや金融事業者に使ってもらえるよう、さらなる拡販にも動き出しました。『マネパスwithFP』を使用することで、新卒FPのライフプランニング習得が早まったことを受け、FP育成事業とかけ合わせた事業展開も見据えています。
知名度が高まるに連れ、数ある競合ツールから「選んでもらう」段階に入りつつありますが、鵜沢は「ライフプランニングの民主化」というコンセプトがブレることはないと言います。
「私たちが実現したいのは、一般生活者がライフプランニングによって幸せな人生を送れる世界。一般生活者の視点に徹底的に寄り添い、信頼感を醸成することが、最終的にはFPや金融事業者、金融業界全体にとってのメリットとなるはずです」
ソニックガーデンの開発チームと共に、地道な試行錯誤を繰り返しつつ生み出した『マネパスwithFP』。シンプルな操作性と、金融の専門家であるFPが満足するシミュレーション精度を両立した、業界でも唯一無二のツールに仕上がりました。
では、実際このツールを、現場のFPはどのように使っているのでしょうか。次回の記事は、ブロードマインドの社内FPの座談会を通じて、マネパスの使い方をご紹介。FP視点でイチオシの機能をお教えします。
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マネパスwithFPについて
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