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夢の中の夏の日

夏の夕暮れ、古びた木造の家の縁側に座っている。目の前には、一面に広がる田んぼと、その向こうにそびえる青々とした山々。風に乗って、遠くの子供たちの笑い声と、カエルの合唱が聞こえてくる。

祖父母の家に遊びに来た夏休み。両親の仕事が忙しく、都会での生活に追われていた私は、この田舎の静寂がまるで別世界のように感じられた。夕陽が山の稜線に沈み始め、空が茜色に染まる。その色彩に包まれながら、私は深い息をつき、目を閉じる。

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彼女と過ごしたあの夏の日々が、まぶたの裏に甦る。縁側に並んで座り、冷たい麦茶を分け合いながら、終わりのない話をした。彼女の笑顔は、まるで太陽のように温かく、どこか懐かしさを感じさせた。

「また来年も、ここに来る?」

彼女の声が耳元でささやく。私たちは、毎年この場所で再会する約束をした。だが、あの夏を最後に彼女は姿を消し、私も再びここを訪れることはなかった。

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目を開けると、茜色の空が濃い青に変わりつつあった。蝉の声も次第に静まり、夜の訪れが近づいている。風が少し涼しくなり、心地よい。私はふと立ち上がり、縁側から一歩踏み出す。

彼女との思い出は、私の心の中で生き続けている。田んぼのあぜ道を歩きながら、あの夏の記憶に浸る。道端に咲く小さな花々が、過去の思い出と重なり合い、切なさと共に鮮やかに蘇る。

ふと気づくと、目の前にかつての彼女の姿が見えるような気がした。彼女は微笑んでこちらを見つめている。だが、次の瞬間、風に吹かれて彼女の姿は消えてしまった。

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夜が訪れ、星空が広がる。田舎の空は都会とは違い、満天の星々が煌めいている。その輝きを見上げながら、私は心の中で彼女に語りかける。

「また、ここに来るよ。いつか、必ず。」

この場所には、彼女との思い出が詰まっている。もう二度と会えないかもしれないけれど、その記憶は永遠に私の中で輝き続ける。まるで、あの満天の星々のように。

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