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ゴッホの手紙(アウトプット)

 「にくきもの」の筆頭に、清少納言は、「急いでいる時にやってきて長話をする客」を挙げている。

 客の方では悪気はないのだろうけど、頭にくることは変わりない。

 ゴッホも、同じようなことをやらかしていなかっただろうか。

 ふと、そんなことを思ったのは、今日資料用にと借りたこの本がきっかけと言える。

 ゴッホはその生涯で手紙を多く残している。

 弟テオに宛てた分で600通は越えるほど。他にも妹や、画家仲間のゴーギャンやベルナール、シニャックやら。

 この本に収められているのはその一部だが、どこをめくっても「濃い」。

 自分が最近どんな絵をどんな風に描いたか。モチーフへのこだわり。新しい挑戦。

 読む側にとっては、熱湯の奔流が真正面からぶつかってくるよう。現代風に言うならば、まさに「マシンガントーク」。

 当時、手紙を受け取った側はどんな思いで目を通していたのだろう。書く手が追い付かない、と言わんばかりの勢いに苦笑していただろうか。

 時に、

「赤と緑とによって人間の恐ろしい情念を表現したい」

という思い。

 時に、自分の夢を託していた「向日葵」に代わる、新たなモチーフとして見出した「糸杉」のこと。

 

 読んでいくうちに思い浮かぶのは、あの<星月夜>の、渦を巻く空だ。

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ゴッホ、<星月夜>、ニューヨーク近代美術館


 まるで呼吸の気配、息の生暖かさすら伝わってきそうなあの渦。

 ゴッホの手紙は、とにかく思いつくまま、勢いで書いている印象が強い。

 粗削りだが、パワーがある。

 ためしに、ランダムに本をめくって読んでみたが、どこのページで、何について書いてあろうと、一度手をつけたら最後まで読み進めずにいられない。

 文章が上手、凝っている、というのとは違うが、がっつり捕まえられ、引っ張られるのを感じる。

 もしも、この人が現代でブログをやったら、どんな風になるのだろう。

 更新頻度は高そうだ。

 スケッチや作品は、ほとんど毎回ついているだろう。

 …あとは、「いいね」の数などで、癇癪を起したりしないか、が少し心配ではあるが。

 

 とにかく、上の『ゴッホの手紙』はおすすめしたい。

 嵩張るし、買おうと思えば高いが、手紙の中で言及されているスケッチや油彩作品がカラーで掲載されているし、巻末の索引は作品名や人名の他、「花」や「糸杉」などのキーワードでも引くことができる。

 何より、どのページから見ても面白い。

 ゴッホの肉声を通して作品世界に触れられる一冊を是非に。

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