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大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』~クリエイターを目指す人へのオススメ本

今更ながら、大島真寿美の直木賞受賞作『渦』を読んでいる。
人形浄瑠璃の作者(つまりシナリオライター)の話なのだが、主人公や彼を取り巻く人々の浄瑠璃や芝居の仕掛けに賭ける熱量に圧倒されるばかりである。
文字通り「三度の飯よりも浄瑠璃が好き」で、芝居の内容について話し出したら止まらない主人公・半二。
「近松門左衛門の後継は自分」と決め込み、しかし、肝心の作品は一行も書けずに、鳴かず飛ばずの日々を過ごす。
ようやく書き始めても、こっぴどくこき下ろされ、没の山を作るばかり。
それでも、家族からも「あほぼん」と呆れられながらも、半二の浄瑠璃に賭ける情熱、火の玉のような創作意欲は消えることがない。
浴びるほどにあらゆる資料(歴史書なども含む)を読み、演目を見、さらには人にも語る。その積み重ねが彼の中に、新たな作品の生まれる苗床を作り出す。
地の文には、しばしば主人公や登場人物たちの語りが盛り込まれるが、関西弁の小気味良い響きのためか、読みやすく、一度に大量の情報が彼ら自身の感情と共に読む側の頭に入ってくるのを感じる。
こんなにも情熱的に語れる対象があること、話を聞いてくれる相手がいることの何と幸せなことだろう。
同時に思う。私はどうだ、と。
作家になりたい、とは高校の時から漠然と思っていた。
だが、どんな話が書きたいのかがわからなかった。
本を読むのと同じくらい好きなものと言ったら、歴史とアートだった。
大学では、美術史を専攻し、留学や修士課程にも行かせてもらえた。
だが、そこでわからなくなった。
このままで良いのか、と。
同級生たちは就職して社会に出たのに、このまま研究を続けても将来お金を稼ぐあてがあるのか、と。
当時、「美術史」を研究することが本当に自分のやりたいことなのか、についても疑問が出ていた。
だから、まずは美術から離れたい、と思い、足掻いて、どうにか図書館のスタッフの仕事を得た。
しかし、就職したらしたで、これまでとの違いに苦戦した。
接客ができていない、と面接の度に言われ、もっと頑張って欲しい、という言葉に応えようともした。
自分が、その「接客」という物差しそのものと相性が悪いとは思いもしなかった。
カウンターで笑顔を作りながら、ここで何とか頑張るしかない、と言い聞かせた。
作家になる夢は、ぼそぼそと胸の奥で息をしている状態だったが、その実現のため、一行を書くということすらしなかった。
今から思っても、自分に腹が立つ。
だが、漠然とでも「作家」という言葉が私の中から消えなかったのは、不思議なことだ。
結局、諦めなかったし、諦めきれなかったことが、私というライターのルーツになった、と言えるだろうか。

先ほど読んだページの中に、こんな言葉があった。
「書いている途中で、自分の話を裁くな」
とにかく、書きたいものを最後まで書ききれ、と。
実のところ、課題シナリオのことで悩む私自身に向けられた言葉のようにも感じた。
私自身の過去を半二に重ね見たことといい、この本は、創作する時、机の傍らにおいて、行き詰まった際には、必要なメッセージを求めて捲るものなのかもしれない。
現役クリエイターや、クリエイター志望の人に是非おすすめしたい一冊である。

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