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【旅エッセイ66】東京攻略(3) 皇居の静寂


 昨日、一昨日と東京について書いている。

 東京駅、皇居外苑、それから今日は皇居の中に入った話。

 梅雨晴れの日差しは焼け付くような熱さで、歩いているだけで汗が止まらない。駅周辺はビル影で日差しを避けられるけれど、アスファルトの放射熱でじりじりと焼かれているような気分になる。

 皇居外苑の橋で白鳥を撮影して、さてせっかくだから皇居にも入ろうと私は外国人観光客の列に並んだ。

 入り口で皇居警察(制服にImperial Guardと書いてあった。カッコイイ)の方に荷物検査を受ける。ライブ会場の手荷物検査のように「一応のチェック」ではなく、しっかりカバンの底まで何が入っているか調べられる。それはそうだ。だって天皇皇后両陛下のお住まいだもの。しっかり調べてもらわないと困る。

 さて、そうして初めて訪れた皇居は、東京の中心にありながら都会の喧騒とは隔絶された世界だった。

 周囲には空を衝くような高層ビルが建っているのに、皇居に足を踏み入れるとどこを見回しても緑豊かな木々に覆われている。東京駅を出てからも絶え間なく聞こえていた車のエンジン音や工事の音も聞こえない。観光客の話す英語、中国語、韓国語に日本語、それから頭上を飛び交う鳥たちのさえずりが聞こえる。日差しの熱は変わらないのに、木陰に入るだけでスッと暑さが和らいでいく。

 まるでオアシスだ。

 東京の中心地にありながら、都会の騒音と熱気から隔てられた場所。森の木々が境界線となってオアシスを形成している。木陰で涼み、鳥たちの声に耳を傾けていられる。

 皇居の中にはかつて江戸城が建っていた石垣の跡や、展望台や富士見櫓といった名前が残っている。
 もちろん富士山は見えないし、展望台に昇っても見えるのは皇居を取り囲む木々と、巨大なビルの群れ。

 ここは隔絶されている、と改めて感じた。

 展望台は人もいなかったので、しばらくビルの群れを眺める。たったの数百メートルしか離れていないのに、都会の喧騒がずっと遠くに感じられる。

 喧騒から離れるだけでこんなにも静けさを感じられるなんて、嬉しい発見だった。

 ビル群を眺め都会の静寂にひたりながら、色々なことを考える。ずっと大昔、江戸の町が築かれて城がつくられ、やがて時代は移り変わり都会のビルが周囲を埋め尽くしても、ここは自然の姿を残していた。こうして都会のオアシスに居るだけで気持ちが安らぐのだから、やっぱり人は自然や緑を完全に排除しては生きられないのだと思う。となると都会にいても自然を感じられる場所は少なからずあるはず。そういった場所を探すのも面白いかも知れない。

 せっかく東京にいるのだから、好きになれる場所をもっと探してみようと思った。


また新しい山に登ります。