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最終話 『クリスマス 』

普段の日常が特別な日常に変化していく心を彩る物語

目次
1章 「空」
2章 「観葉植物」
3章−1 「川合」
3章−2 「川合」
4章−1 「向日葵」
4章−2 「向日葵」
章−1 「夕暮れ」
5章−2 「夕暮れ」
6章−1 「勿忘草」
6章−2 「勿忘草」
7章−1 「クリスマス」

最終章−2

僕は青彩のお母さんにも相談をしながら土日の休日や長期休みを利用して地元に帰省しては青彩がいる病院に顔を出していた。苦しんでいる青彩に会うときは僕も苦しかった。でも、笑ってる青彩を見ると僕も笑っていた。病室に行って青彩が寝てるときは持ってきたものだけ置いて起こさないように帰ることもあった。

気付いたらその習慣が1年を迎えようとしていた。その間に会いに行くことを辞めようとは1度も思わなかった。どんな日でも何度でも通って青彩との時間を過ごしたかった。ただそれだけのことだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2020年のクリスマスイブの夜に青彩からLINEが来た。

「退院することができました。明日会えたりしないかな?」
「おめでとう!ほんと良かった。退院したばかりなのに大丈夫?」
「元気だから大丈夫!じゃあ、近くのファミレスに集合ね」
「わかった。気をつけて」

半ば強引の誘いだったが、日常に戻れることがこんなに嬉しいと初めて知った。

25日 クリスマスの日

僕は待ち合わせより少し早い時間に地元のファミレスに居た。集合時間5分前に青彩がファミレスに入ってきた。僕は手を振ってこっちだと合図を送った。それに気づくと青彩は満面の笑みを見せてくれた。

「ごめん、待った?」
「そうだね、ずいぶんと」

こうして普通に会えるまでという意味だった。

「お待たせ」

青彩は言わなくてもわかっていたようだ。

「じゃあ、まず腹ごしらえしようか!」
「おう、本当に大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」

何気ない会話が妙に新鮮で懐かしい感じがする。お腹いっぱい食べて青彩が話を切り出してきた。

「ねぇ、この後行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれない?」
「うん、どこに行きたいの?」
「綺麗な景色が見えるところに行きたい」
「綺麗なところねぇ、、よし!」
「えっ、どこ?」
「行ってからのお楽しみ」

綺麗なところと言ったら1つしか思い浮かばなかった。僕は取ったばかりの運転免許で車を走らせ、山の上の展望台に向かった。最近の冬は雪が少なくあまり積もっていなかったので山道でも大変ではなかった。

車内ではMr.Childrenの「GIFT」が流れている。

「一番キレイな色ってなんだろう。一番光ってるものってなんだろう。僕は探してた。最高のGIFTを。君が喜んだ姿をイメージしながら。」

青彩が楽しそうに口ずさんでいた。

「私この歌好きなんだよね」
「あれ?ミスチル好きなんだっけ?」
「うん、小さい時からお母さんが大好きでいつも車で流れてたんだ」
「へぇ、初めて知ったな」
「私さ、実は白血病って診断されたとき、私死ぬんだ。って覚悟してた。だから、最後に佐助くんに感謝の気持ちだけでもちゃんと伝えて、そのまま死ぬつもりだった。でもね、本当は今あるものが全て無くなることを考えただけで胸が引き裂かれるほど苦して、病院のベットでひとりで泣いてた。

そしたら、目の前に佐助くんが現れて、私の見る世界が変わった。

入院してご飯が食べられなかったときも

声が出なくなったときも

身体が思うように動かないときも

どんなに辛いことがあっても

佐助くんとの思い出や

大学で再会して楽しく過ごした時間も

告白してくれたことも

病室に来て、置いていってくれた「ありがとう」のメッセージも

何度も来てくれた時間も

佐助くんと何気なく過ごした時間も

私の中で太陽の光みたいに私の目の前に差し込んできて

生きたい、まだ生きたい

って強く願わずにはいられなくなったの。

病気だとか、見た目とか、心配かけるとか関係ない。

ただ生きて佐助くんともう一度、一緒に歩みたいって本当に思えた。

だから私にとって、今この瞬間が最高の贈り物なんだ」


僕は、運転の最中なのに、前が歪んで見えて、目から溢れ出る雫を雨の日のワイパーのように何度も掌で拭き取った。

「僕も今思ってる青彩の気持ちと同じかな」


Mr.Childrenの「GIFT」が心地よく車の中で響き続けた。

一番綺麗なものって何だろう

一番光ってるものって何だろう

僕は抱きしめる、君がくれたGIFTを

いつまでも胸の奥でほら光ってるんだよ

光り続けんだよ

END




【あとがき】

独りで生きている人はいないと思います。誰かを助けて、誰かに助けられて

そばで支えて、そばで支えられて、影響を与えて、影響を受けて

自分の価値観を通して、あなたの価値観を通して

1人1人が自分の人生を彩っています。

そして、この僕も他の人に彩りを与えることができるひとりの人であることに

書きながら気づきました。

青彩のイラストは弟(漫画家)が描いてくれました。

この作品は私ひとりでは書き上げられなかった作品です。

ずっと自分の感情を表現したい、書きたい、作品として出したい

そんな思いがずっとありました。

でも、途中で物語が詰まってしまい止まったときもありました。

そのとき相談に乗ってくれた友人がいました。

「最後まで書き通すことに意味がある」

その友人からもらった言葉でした。

やはり、独りでは書き上げられない作品でした。

そして、この物語を彩ったのは紛れもなく、私と出会った全ての人たちがいたからでした。

読んでいただいたあなたにも何か彩りを届けられたら幸いです。

この場を借りて感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。


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