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『観葉植物』

普段の日常が特別な日常に変化していく心を彩る物語

目次
1章 「空」

登場人物 ・田中 佐助 ・水越 柊

2章

初秋の涼しい風が吹き始めた9月に僕はふと東京に来て半年が経っていることに気が付いた。僕は家に帰宅し玄関の戸を開けると靴箱の上に置いてあるサンスベリアが少し萎れていることに気がついた。僕は初めて東京に来た日を思い出した。

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今日から1人暮らしが始まる。ベランダの外を観ると桜が満開に咲いている。田舎から東京への引っ越してきたが、早くも初日の夜から無性に寂しさを感じていた。これがホームシックというやつか。と思いながら何かないかと日用品が置いてあるスマホで探し出した。徒歩5分のところに運よくあった。

お店の中に入ると、まずペットコーナーに目が止まった。でも僕にはアレルギーがあって発作を起こしてしまうので飼えなかった。隣のコーナーに行くと観葉植物が置いてあった。足が自然と歩み寄り、迷わず手にとってレジに並んでいた。スマホで調べるみると「サンスベリア」という名前らしい。

植物だからもちろん、何かをしてくれたり、声をかけてくれたりもしないけど、玄関に置くことにした。僕はサンスベリアの存在で安心して眠ることができた。無意識に植物を人間化していた。

今日は初めて大学の授業に行く日だった。初日から遅刻はしたくなかったので早めにアパートを出た。通勤ラッシュの時間と重なり、電車は朝から会社に行く人たちで満員だった。田舎ではこんな経験はあまりない。ぎゅーぎゅーに詰められながらも初めての体験になぜか嫌ではなかった。でも、5分もすると僕は嫌になっていた。

大学の授業が始まる15分前に教室に到着し、端っこの席を見つけて座りながらツイッターを片手に見て時間を潰した。すると、

「隣空いてる?」

落ち着いている雰囲気の男が話しかけてきた。

「空いてるよ」
「ありがとう」

互いに顔も見合わせず不器用な会話をした。座ると男は鞄から本を取り出し、授業開始まであと5分しかないのに自分だけの空間を作り出し、あたかも1時間前から読書していたような雰囲気を醸し出した。あれ、ここは図書館なのか?と錯覚するほど集中している。いつもだったら僕から声をかけることなど決してないが、声をかけていた。

「あの、出身はどこですか?」

慣れない質問をしてしまい、少し畏まってしまった。

「大分県です」
「へぇー遠くから来たんだね」

本から目を離さないし、会話が終了しそう。でも、なぜかまた質問が浮かんでくる。

「なんで東京の大学に来たの?」
「なんとなく。かな」

またもや終了。いや、まだまだめげない。

「そうか、僕の名前は佐助。名前は何ていうの?」
「柊(ひいらぎ)です」
「カッコいい名前だね、よろしく」
「よろしく」

合計タイムは1分も経たず会話は終了。口数は少ないけど、不思議と柊君が隣にいることに違和感がなかった。授業が終わると、LINEの連絡先だけ交換した。次の週も教室に入ると

「よっ」
「ども」
「そういえば、どこに住んでるの?」
「北千住だよ」
「そうなんだ。今度遊びに行っていい?」
「大丈夫だよ」

相変わらず、一言で終わってしまうが会う度に言葉を交わす回数が増えた。その授業がある度に端っこの席で隣に座わるのが当たり前になり、いつしか見えない何かで繋がっているような感覚だった。

僕は昔、爺ちゃんにされた話を思い出した。近くの山に遊びに行ったとき

「山はなんで崩れないかわかるか?」

と聞かれた。僕は何を言っているのかよくわからなかった。すると爺ちゃんは

「山はな、木々たちが根を張ることでお互いを保ち合って土台ができるんだ。だから山は崩れない」

と言われた。今ならその言葉が少し理解できるかもしれない。僕たちも目には見えない根を張って、互いを支え合う信頼ができたのかな。


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そんな懐かしさを感じながら、サンスベリアに想いを馳せてコップ一杯の水を注いだ。

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