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10冊目『うまくいっている人の考え方 完全版』/ジェリー・ミンチントン

 時々、如何しようもなく「自分はダメな奴だな」と思う時がある。
 例えば学校や仕事場で、大小問わず失敗を犯した時。選択や決断を間違えた時。みんなが知っている知識を知らなかった時。誰かに「お前はバカだ」と否定された時。
 精神的に余裕があるのなら問題ない。どんなに失敗しても「何がいけなかったんだ」と原因を探し、「次は気を付けよう!」と前向きに考えられる。バカだと罵られ見下されたら「なにくそ!」と反骨精神みたいな気持ちが芽生える。知らなかったら知ろうと思うし、その知識が全くもって自分に必要の無いものなら如何でも良いなと切り捨てることが出来る。
 けれど、精神が弱ると話は別だ。
 一度ネガティブな方向に踏み出したら、もう止まらない。どんどん先に進んで、ずぶずぶに沈んでいってしまうのだ。ネガティブ思考は底無し沼や蟻地獄に似ている。

 じゃあ「この本を読めば誰でもポジティブになれるよ!」と薦められるか訊かれたら、答えはNOである。

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 本書を手に取った理由が三つある。
 一つは、帯に書かれた『18年間読まれつづけて100万部 不朽の名著!』の一文に興味を持ったから。
 二つ目はタイトルからして胡散臭かったから。なんだか自己啓発本みたいだ。名高い著書に寄せられた感想は、どれもこれも惜しみ無い賛辞ばかり。自己啓発本じゃなくて宗教本かもしれない。いや、もしかしたらどちらの要素も孕んでいるのやもしれぬ……。
 三つ目は、文字数が少ない本が読みたかったから。偶にあるのだ。文字が少なめで、あまり頭を使わない本が読みたい欲に駆られることが。

 本書のテーマは『自尊心をどう高めるか』である。
 人は成長するにつれて自尊心の欠如に苦しむ。自分は人生を切り開けない弱虫で、不完全で、みんなより劣った劣等生だ。生まれつき欠点ばかりで、生きる価値もない。虫ケラ同然だ。……と思っている、らしい。私はここまでネガティブった経験はないが特別な理由なく死にたくなって自分を痛め付けた事はあるし、ネガティブレベルは十人十色なので「死んだほうがマシ」と考える人も居るのだろう。
 因みに、“虫ケラ同然”は私が勝手に盛り付けた。本書ではそこまで酷い表現はしていない。
 そんな失われた自尊心を、いかに取り戻すか。どう思考を修正し、自らでも考え、実行に移すか。それらが見開き一ページにつき一項目で、簡潔に完結している。読書慣れしていないネガティブ人でも、読了するのは容易いに違いない。
 が、テーマがテーマなので、うっかりするとちょっと(人によってはとても)疲れる。

 本書には静かな松岡修造が住んでいる。

 静かな松岡修造なんてもはや松岡修造じゃねえだろ! と非難されるかもしれない。が、本当に静かな松岡修造が住んでいるのです。嘘じゃないもん、静かな修造いるもん!

 本書はただの『ポジティブ推し』である。
 例えば、
①ミスをしても「自分はバカだ」と非難せず「大したことない」と自分を許してあげる。
②相手を不愉快にさせる為、わざと厭なことを言う人がいる。その人に腹を立てたり「上手く言い返そう」と考えちゃいけない。受け流して、出来るだけ避けて関わらない様にしよう。
③失敗は貴重なことを学ぶ良い機会。たくさん失敗してたくさん学び、たくさん解決法に近づこう。
④物怖じせず質問する。質問するのは寧ろ愚かである。
⑤相手を軽んじない。弱い立場の相手を傷付けない。相手を自分と同じ様に大切にする。そして、相手も自分と同じ「痛みを敏感に感じる人間」だと考える。
 上記五項目は、本書に記された『うまくいっている人の考え方』の一部に過ぎない。実際にはもっと多くの事柄が、松岡修造より穏やかな口調で、繰り返し語られている。
 要は、「ポジティブになれよ!」って話なのだ。

 日本には『言霊』がある。
「自分はダメだ」と自己否定すればする程に、否定の言葉は力を持つ。本当にダメになってしまう。少なくとも、己を無能扱いしている間は、向上心など微塵も湧いてこないし気分は落ち込むばかりだ。
 ならば、ポジティブに自分を励ました方が、ずっと良い。精神的に健全だ。

 本書を読んでいて、母の言葉を思い出した。
 何かとネガティブ思考に陥りがちで同級生からの理不尽な嫌がらせも「私が悪い」と自分を責める私に対し、母は根気よく「あなたは悪くない」と説得していた。極々小さな失敗を犯しては「この役立たず!」と頭を殴る私の手を掴んで「自分を責めないで!」と叫んだ。悪口を言う子に対しての恨み辛みを呟いた時には「家でこっそり言うのは良いけれど、外でその子と同じ様に陰口を叩いてはいけないよ」と厳しい口調で言った。
 自分がやられて嫌な事は、他人にするな。
 仕返しだったとしても、同じ嫌な事をしてはいけない。母は私にキツく言い聞かせた。お陰で、私は自分がやられたら嫌な事はしない。悪口も聞き専門。自ら率先して発信する事はまず無い。
 更に『失敗は成功のもと』も散々言われてきた。
『聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥』も繰り返された。
 頭では理解出来ても、案外実行には移せないものだ。陰口を叩かない辺りは出来ても、自分を悪く言わず責めないのは難しい。

 私は最近、ちょっと良い方法を思い付いた。失敗した事柄とは全く異なるジャンルに意識を逸らして、自責の念を薄める(というより誤魔化す)のだ。ジャンルは何でも良い。好きなものとか、気分を鎮めて癒されるものを選ぶ。その時に興味深く感じてる何かでも構わない。
 実行してみるとかなりの効果が望めるので、自身を痛め付けたくなる度に必死こいてその方法の世話になっている。

『うまくいっている人の考え方』なんてタイトルだから「この本を読んだら自分も成功者の仲間入り出来るかも!?」と勘違いされたら残念だなと思う。本書を読んでも成功者にはなれない。太宰府天満宮や北野天満宮を参拝してお守りを買っても、志望校や大学に合格出来ないのと同じだ。
 合格に必要なのは勉強である。
 そして、うまくいっている人になるには、如何に下を向かずに居られるか。この一点に尽きるのではないか。成功者になるとか大金持ちになるとかは、また別の話なのだろう。
 
 本書に記されている事は全部正しい。
 けれど、意識改善は簡単に簡潔に完結は出来ない。
 ついでにいえば、私達は常に人の目を気にしている。誰かと比較して、自分を良く見せようと躍起になっている。みんなが持ってるから(或いは行ってるから、やってるから)、さして興味が無くても他人に併せようとする。
 でも、本当はそんなことする必要ないのだ。
 急いでネガティブ思考を脱しなくても良い。自分のペースで確実に、一歩一歩進めば良い。
 無理して誰かに併せる必要もない。自分を磨いて『良く見せる』のは素晴らしいけれど、見栄や体裁の為に『良く見せる』なんてナンセンスで恰好悪い。

 本書は指針である。
 自尊心を取り戻し、高めるのは良い。が、高めすぎて嫌な奴になっては本末転倒。本書はお守りじゃない。聖書でもない。
 妙にギズギズして余裕がない現代社会で少しでも楽に息継ぎをし、生き易くするか。本書はその『ヒント集』だと思った。

(了)


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