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世一の勉強部屋

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noteは本当に勉強になる。 こんな勉強部屋を少し前までわたしは知らなかった。 少しずつ増やしてゆきます。スキしてくれた人は覚悟して。 本当はキチンとお知らせとお礼をすべきところ…
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+18小説『ラビリンスとメス』

 まともな女より性欲が強いんだ。だからいつまでも止められない。  相手が来ない。こんなことなかった。風が出て、私の長い髪をくすぐる。開いたドアから、焼き鳥の煙が逃げる。髪に煙の匂いがつくのが嫌だなって思ったけど、そんなのもう遅いし。男達は決まって言う。写真より実物がいいって。こんな可愛い子、会ったことないって。……出会い系で。  なんで来ない? ずっと隅で、カウンターの隅で、一人で飲んでる男がいて、私より先にいて、でも写真とは大分違う。横顔しか見えない。レトロなアロハシャツを

子供のためのオルセー美術館(88)雲、雲、雲/スイスの青い山・ホドラー

どこかで見た雲 パリを出発、スイスへ向かう列車の窓から、ぽっぽっぽっと浮かんでいる雲がありました。こんな雲、どこかで見たことがあるかも。 パリのデパートの、こんな感じ?似てるけど。 ああ、これこれ!  こんな雲でした。 スイスの画家ホドラーは、アルプスの山ポワントダンディを描きました。ホドラーの描く山の線は本物そっくり、どこの山かわかるくらい正確です。 そして、雲は? 水色の空の雲は、金色になってうねうねと、青の山をもっとくっきり濃い青にしました。 ふわふわクリー

「闇の奥」" Heart of Darkness "J.コンラッド(改訂)~映画「地獄の黙示録」

今回は「モダニズム文学」の簡単な説明と、その先駆の一例として、コンラッド作「闇の奥」を取り上げます。 また、同小説から翻案された映画「地獄の黙示録 "Apocalypse Now"」にも、最後に少し触れておきます。 Apocalypse Now「地獄の黙示録」 監督・脚本 F.F.コッポラ(1979アメリカ) 「読みづらさ」で名を残す奇書「闇の奥」は、ポーランド出身のイギリス作家ジョセフ・コンラッドによる中編小説です。 この作品は、今日でも、「英語で書かれた名作ランキ

時を止めて幻を掴む -立原道造の詩の美しさ

    【水曜日は文学の日】       美というものは、現実からかけ離れているからといって、決して程度が低いものではありません。   夭逝した詩人、立原道造は、現実離れした作風で、どこか夢想的な詩人と言われがちですが、読んでいると、意外な強さやしなやかさも感じる、私の好きな詩人の一人です。     立原道造は、1914年日本橋生まれ。早くから詩作を始めつつ、第一高等学校(一高)から、東京帝国大学工学部建築学科に入学、とエリートコースを歩みます。 帝大では、都庁や代々木

臓器スリーアウト、人生交代説

 不穏な表題から不謹慎な話を展開します。  十数年の臨床経験の中で病を通して多くの人生と死に関わってきた医者の、ひとつの仮説です。    これに尽きます。  何故か。  苦しいからです。助からないからです。現代医療の限界です。望まない侵襲的医療によって終わらない苦痛の業火に焼かれていく様は地獄と同義です。こんなはずではなかったと嘆く無責任な家族は患者本人から目を背け、意思疎通の手段を失った当人を苦しみから解放する術は、日本の法律が罪と規定しています。因って誰にも蛮行を

済んだことをいつまでも引きずって、傾いたまま生きていて、どうするのだ。

「……俺、一度だけ、実家に帰ったことがあってん」  小学六年生の時だ。親父が交通刑務所から出所したので、家族三人で集まることになった。何を話したか覚えていないが、家の中がとてつもなく息苦しい雰囲気だったことは覚えている。  その場にいるのが辛くて、僕は早々に自分の部屋に戻り、布団に潜った。なかなか寝付けずにいると、酒に酔った親父が部屋に入ってきた。 「あいつはほんまに情けない。一升瓶を持って、俺の枕元に座ってな。酒を煽りながら、ぶつぶつと事故を起こした時の詳細とか、自分がどれ

『ミズハノメ』

『ミズハノメ』 MIZUHANOME-God of Water 水の神様の名前を冠しています 生命の源である水は 透明純粋で形なく 関わるもの全てを まろやかに潤していきます 身につける方の人生もまた 水の美しさのようであるように… との祈りを込めました 緑間 玲貴 SELECTION 緑間 玲貴 SELECTION 『ミズハノメ』(ブルートパーズ) ジュエリー・アーティスト田村有弘の宝飾作品を、緑間玲貴がセレクトしプロデュース。 新コンセプトにより、リングやペ

シャッフル あらすじ

あらすじ野依治良(28歳)は肉体を盗まれる。年に二度と推奨された健康診断の折に。PMSが普及してからの検診では『己が人格を機械の代体へ転写し、己が肉体のみを検査に預ける』というのが一般的だった。しかし治良の肉体は検査中の病院から持ち去られてしまう。己が肉体を取り返すべく奮闘する治良。協力者のリジ。盗んだ身体を我が物顔で操るクザン。しかしクザンは未来からやってきた自分だった。さらにはリジすらも。敵も味方もどれもが自分、自分同士の奪い合い。はたしてリジやクザンの目的は? それぞ

歴史改変小説を読む ifの世界線

 数日前にフィリップ・ロスの『プロット・アゲンスト・アメリカ』を読み終わりました。  出版社の解説にあるように、1940年のアメリカ大統領選挙でルーズベルトではなく、リンドバーグが大統領に選ばれていたら、というifの世界を書く小説なんですね。  ifの世界=架空の世界線を書く小説を「歴史改変SF」と呼ぶようです。SFとはいうものの、他ジャンルの作家の小説も多いのが特徴です。フィリップ・ロスも、現代米文学界を代表する作家の一人でした。  私は、ディストピア小説=自由がなく

読点はどこに打つ? 創作大賞感想 <小説の書き方>

小説を書き始めた頃に、自分の文体を探した時期があります。好きな作家の本を何冊も前にして、どれが自分の好きな文体に近いだろうと考えたものです。 ※その時のことは以前、記事にしましたので、ここではリンクだけしますが、池井戸潤さんの『下町ロケット』を選びました。 私が心掛けたのは【読者に読みやすいと思ってもらえる文体】。と言うか、文体がどうとか感じる間もなく、するすると読める文章にしよう、ということです。 いくつか工夫をしたのですが、象徴的なのはタイトルにもした「読点はどこに

♡今日のひと言♡太宰治

太宰治(1909―1948~青森・小説家) 津軽屈指の大地主の六男として生まれた。中学時代から文学に親しみ、井伏鱒二に師事。左翼活動での挫折のあと雑誌「海豹」「日本浪曼派」に作品を発表、「逆行」(1938)が芥川賞候補となる。戦後は無頼派と呼ばれ「ヴィヨンの妻」(1947)「斜陽」(1947)などで人気を博した。玉川上水で入水自殺した。享年40歳。自己破滅型の私小説作家であった。他に「走れメロス」(1940)「人間失格」(1948)など。

No.1266 てんで、なっとらん!

私が高校生の時に、某先生から聞いた笑い話です。 「ある人の息子が東京から汽車で帰省しよったち。三重県の津市まで来たんじゃが、所持金がのうなった。そこで、お金の無心をするため親元に電報を打った。 『ツマデキタカネオクレ!』 すると、親からお金じゃなくて電報が届いたんじゃ。 『マダハヤイ!』 どうも、親御さんは『津まで来た』を『妻出来た』と誤解したらしいのう。日本語は、厄介じゃ!」 次に紹介するのは、薄田泣菫『茶話』(青空文庫)にあったお話です。『茶話』は随筆集。明治期の詩人で

子供のためのプチパレ・パリ市立美術館(3)色がなくてもおもしろい?/ヘーダ・オランダ絵画の見せどころ

きれいな絵じゃないのってつまらない? 今から400年前、オランダ絵画黄金時代。たくさんの有名な絵が生まれました。 その中で今日はこんな絵。この前のモネみたいな、きれいな色は使わないヘーダの絵です。 お昼ご飯のあとでしょうか。 散らかったままの食器やグラス、片付け途中のくしゃくしゃテーブルクロスにレモンが1個。 ふたの開いたままのポットは金属でできた水差しです。これでグラスに水を注ぎます。 このポットに、まあるく窓の光がうつっているのが見えますか。 それに、誰かいる?

『ライ麦畑でつかまえて』(The Catcher in the Rye)J.D.サリンジャー ~ここは、「勝ち負け」を決めるための場所なんかじゃない!                                      

今回は、昨今では村上春樹氏の翻訳でも知られる、「ライ麦畑でつかまえて(キャッチャー・イン・ザ・ライ)」(1951)を取り上げます。 すでに多くの評論や解釈が行なわれてきた作品なので、ここでは特に個人的に印象に残った人物や場面などを挙げ、感想は末尾で少し述べるにとどめておきます。 尚、記事内の日本語訳の一部は、野崎孝氏版(白水Uブックス)をベースに少し調整を加えさせていただいております。 クリスマス前夜、ある少年の孤独な三日間 まず、作品の概要をまとめておきます。 主