あぜ

小説書いています。 Kindle note ステキブンゲイに投稿しています。

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記事一覧

今日ママンが死んだーー NASHの恐さ。

「今日ママンが死んだ。もしかすると昨日だったかもしれないが、わたしにはわからない」  昔読んだ小説、特に古いのを読み直すと以前より格段に面白くなることがある。私…

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1年前
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冬苺(ふゆいちご)  四、渦の底

一、 虫の味   二、 人形の部屋 三、 彩雲    四、 渦の底   / 全四話  ポケットで暴れる二百万超の札束を爆薬のように抱え、全力で渦を下った。だが、押し…

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2年前
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冬苺(ふゆいちご)  三、彩雲

一、虫の味   二、人形の部屋  三、彩雲    四、渦の底   / 全四話  心臓の拍動にのって痛みが遊んでいた。鼻の痛みにはじき出された感覚が耳の中でうずくまっ…

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2年前
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冬苺(ふゆいちご)  二、人形の部屋

一、虫の味    二、人形の部屋  三、彩雲    四、渦の底    / 全四話  ふくれ上がったポケットから盗んだものを投げ捨てると、いちごの腕をつかんだ若い警備…

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2年前
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冬苺(ふゆいちご)  一、虫の味

全四話 /  いちごは生まれて初めて虫を食べた。何の虫かはわからない、たぶん、カナブンみたいな硬い小さいやつだ。元が独房だったかのような薄暗い公園のトイレに、震…

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2年前
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今日ママンが死んだーー NASHの恐さ。

「今日ママンが死んだ。もしかすると昨日だったかもしれないが、わたしにはわからない」

 昔読んだ小説、特に古いのを読み直すと以前より格段に面白くなることがある。私にとってカミュはそうだ。誰もがひかれる有名な異邦人の出だしの文は今でもよく覚えている。当時、実際に母親が死ぬときを想像することはなかったが、今朝とうとう私も本当に母親の死に向き合わねばならなくなった。

 今日、母が死んだ。今〇時を回った

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冬苺(ふゆいちご)  四、渦の底

冬苺(ふゆいちご)  四、渦の底

一、 虫の味  
二、 人形の部屋
三、 彩雲   
四、 渦の底  
/ 全四話

 ポケットで暴れる二百万超の札束を爆薬のように抱え、全力で渦を下った。だが、押し流されているのではなかった。いちごは今、自分の筏で、朽ちてなお生きようとしているような流木で組んだ筏で、運命の濁流を下っていた。

 螺旋を登ってくる車のクラクションをはねのけ、勢いを増しながら地下駐車場へ向ういちごのすぐ後ろを、ケイ

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冬苺(ふゆいちご)  三、彩雲

冬苺(ふゆいちご)  三、彩雲

一、虫の味  
二、人形の部屋
 三、彩雲   
四、渦の底  
/ 全四話

 心臓の拍動にのって痛みが遊んでいた。鼻の痛みにはじき出された感覚が耳の中でうずくまって電話の鳴る音を聞いていた。ずっと鳴っている。家の固定電話の音を聞くのは久しぶりだった。誰だろう。正人の職場からだろうか。

 呼び出し音が切れ、テレビの音が残った。

<N市のマンション密室殺人事件で搬送された被害者に、また死亡者が

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冬苺(ふゆいちご)  二、人形の部屋

冬苺(ふゆいちご)  二、人形の部屋

一、虫の味  
 二、人形の部屋
 三、彩雲   
四、渦の底  
 / 全四話

 ふくれ上がったポケットから盗んだものを投げ捨てると、いちごの腕をつかんだ若い警備員がドラマの刑事のような声を放った。

「今さらムダだ!」

 名場面を自ら創り上げるような大声が、向いのバーガーショップの中まで届いた。くくり罠にはまった獣のようにあばれるいちごを、通行人が脅えるように避ける。夏場の日焼けが抜けきら

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冬苺(ふゆいちご)  一、虫の味

冬苺(ふゆいちご)  一、虫の味

全四話 /

 いちごは生まれて初めて虫を食べた。何の虫かはわからない、たぶん、カナブンみたいな硬い小さいやつだ。元が独房だったかのような薄暗い公園のトイレに、震えるいちごの顎をつかんだケイのわめき声が響いた。

「噛め! ちゃんと噛めよ!」

 イケメンではないがハーフらしい整った顔立ちのケイの薄い唇が、斜めにゆがんできれいな歯並びを見せた。メッシュのかけ過ぎで今日先生からダメ出しされてイラつい

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