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【名画をプロップスタイリングしてみる Vol.7】アレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」

今日の1枚はアレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」

パリ、オルセー美術館にあります。


カバネルは19世紀後半に活躍した新古典主義でバリバリのフランスアカデミーの巨匠です。


アカデミーとは、17世紀にフランス政府が興した国立の美術学校のことです。それまで画家とは今のような「アーティスト」ではなく「職人」のことで、工房に弟子入りし、親方に色々教えてもらう徒弟制度でした。しかし芸術を愛するルイ14世が、きちんとした芸術を教育する学校をつくろう!ということでできたのがアカデミーの始まりです。


アカデミーは会員制で、アカデミー会員になるにはそれはもう大変名誉なことで、超エリートの集まりでした。そしてカバネルの時代に一大ブームを巻き起こしたのがアカデミー主催の「サロン」と呼ばれる展覧会。一般の画家も参加できるこの展覧会で認められるとアカデミー会員になれ、一人前の画家として将来を約束されたも同然でした。

そんなサロンでナポレオン3世が気に入ってお買い上げされた作品がこのカバネルの描いた「ヴィーナスの誕生」です。

このアカデミーは一貫して歴史画(神話画、宗教画)や肖像画などルネサンス以降の古典的な技法で崇高なモチーフを題材とした絵画を正解とする、偏った思想でずーっとやってきたので、後に印象派と呼ばれる画家の多くはこのサロンでことごとく落選しています。


というわけで、カバネルの描く絵はどれもアカデミーのお偉いさんたちから大絶賛の嵐で、画家として華々しい成功をおさめたわけです。


では、絵を見ていきましょう。


ギリシャ神話の愛と美の女神ヴィーナスが今まさに誕生したシーンですね。ヴィーナスは海水の泡から生まれたので、泡立つ海面の上に描かれているのでしょう。

5人のクピドがほら貝吹きながらおめでと~♡ってぴよぴよお祝いしています。かわいい。


さて、そんなよくある神話の1場面なのにこの絵、心がざわざわしません…?

そう、ヴィーナスめちゃくちゃ官能的やないかい…!表情…絶妙な微笑み…エロスッ…



これ、めちゃくちゃ厳しいアカデミー的にセーフなの?!どうなの?!って疑問がわくわけですが、

これ、セーフどころかこれこそ芸術の王道だ!理想美!なんて大絶賛なんです。なんでかっていうと「女神」だから。「人間」じゃないからいいんです…!



この同じ回のサロンに出展されたマネの「草上の昼食」にも裸の女性が描かれていますが、なんといかがわしい!!!と落選しています。こちらは「女神」として描かれているのではなく「人間(娼婦)」だからアウト。こっちは官能さの欠片もないのに…。


アカデミー、古典に対して頭でっかちで、古い価値観に縛られすぎやろ。ってことがおわかりいただけたと思います。


わたし、この絵を目の前にした時に「あぁヴィーナス美しいうっとり」という感想ではなく、「週刊プレイボーイやん」って思っちゃったんです。もちろん卓越した技術に間違いないのですが、これは明らかにアカデミーの偉い人たちに気に入ってもらうために描いた絵。明らかに迎合している。官能的なヴィーナスとかアカデミーの偉いおじさんたち絶対好きだっだろうし。


カバネル、きっとすごく真面目な優等生タイプだったんじゃないでしょうか。アーティストじゃなくてクリエイター。貧しい家庭に生まれたけど絵がとってもうまくて、奨学金で名門の美術学校に通い、しっかり技術を磨いて、自分が画家として売れていくにはを冷静に考えて、認められるために誉められるために絵を描いて…って。

途中でそんな自分にしんどくなったりしなかったのかな…。

カバネルとお茶してみたかったな。

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