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贋作小説

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2018年7月の記事一覧

贋作・人間失格

 私の右手には契約書が、そして左手には何もなかった。そして、汚れた尻があった。選択肢をふたつに絞るまでに、時間はそうかからなかった。しかし、である。腕時計を覗く。アポイントまでの時間は、あと五分。すぐにでもこの閉鎖空間から脱出し、身だしなみを整えて得意先を訪ねなければならない。額に滲み出た汗は粒となり、やがて頬を伝っていった。



 思えば、ここに来るまでの道のりは、決して平坦なものではなかっ

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贋作・こゝろ

 初夏。記録的な豪雨が大阪を襲った。営業所に帰る道、傘を差しているというのに背広はずぶ濡れになった。腕時計を覗くと、もう時間は十九時を回っていた。今日は何もできなかった。この間のボーナスで買い換えた革靴は、見るも無惨な姿だ。せめて合成皮のものを選んで良かった、と不幸中の幸いを喜んだ。この雨は、もう一週間も続いている。

 街路樹のそばには蝉の抜け殻がたくさん落ちていて、豪雨に晒されている姿は醜いも

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贋作・夜は短し歩けよ乙女

「良くないことだと思ってるけれど」と、彼はいつもの前置きをしてから、煙草に火をつける。ゆっくりと、まるで悪びれたそぶりも見せずに煙を吐き出して、満足そうに言葉を続ける。

「歩き煙草はやめられませんな」

にやにやしちゃって、いい大人が恥ずかしくないのかな。まあいいか、別に今日にはじまったことではないし、彼はそういう男だ。コンビニで買った発泡酒のフタを開ける。プシッ、てね。相も変わらず、景気のいい

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