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小学校の先生をやめて改めて読んだ【あまんきみこ「白いぼうし」】

「白いぼうし」は、小学4年生の担任をしたときに国語の物語文の教材として授業をした。

教材研究で初めて読んだとき、白いぼうしの世界観が正直私にはあまり分からなかった。

「どう教えたらいいんだろう……」

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1.教員として悩んだ「白いぼうし」


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当時私は小学校教員になって2年目だった。

1年目に担任したのは2年生。

そのときに物語文として扱ったのはレオ・レオニ作の「スイミー」。

「ぼくが目になろう!」のセリフでお馴染みの小さな魚たちの話だ。

スイミーのお話を好きになる子供はとても多かった。

また知名度も高い物語であることから、学芸会の演目などとしても使われやすいく、スイミーは小学2年生定番の物語だ。

しかし「みんなで力を合わせよう」的なスイミーの明確なメッセージ性に比べると、白いぼうしはなにを伝えたいのかがなかなかわからなかった。


それでも、白いぼうしで“なにかを教えなければ”と思い、先生たちが頼りにする朱書の本(通称「あかほん」)を読んでは「この文章に気づかせよう」とか「この言葉の意味は抑えなきゃ」とか考えたことを今でも覚えている。


ところで「あかほん」を先生が使っているのを見たことがある人は多いのではないだろうか。

例えば、算数の授業で計算の答え合わせをするとき。

「先生だけ答えわかっててずるい!」と生徒のときは思っていたが、「先生には必要なときもあるんだよ……」と教員になって知ることになった。笑


実はこの「あかほん」、算数の計算の答えなどはもちろん、国語の物語文などとなると、「この表現に気づかせたい」というような朱書きが結構細かく入っているのだ。

だんだん教員経験がついてくると、朱書き中でどれを取捨選択していくか自分で判断できてくる感覚があったが、当時まだ2年目の私にはそんなことは考えられなかった。

しかも物語の世界観に自分が入り込めないから、授業でどんな発言が出てくるかも予想ができない……。


困り果てた結果、なにかを指導しようとすることは一旦脇に置いておいて、流れに身を任せて授業をしてみることにした。

「この文章について考えよう」みたいなことはせず、ただ読んで、ただ感想をみんなで話していく、という感じだ。


そうすると「モンシロチョウが小さい女の子だったんじゃない!?」みたいなことを言う子供がいる。

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それに共感する子もいれば、違うんじゃないかって考える子、どういうこと?と疑問を抱く子もいた。


教員を辞めてから今回改めて「白いぼうし」を読んでみて、物語の読み方ってそんな子供たちみたいに自由でいいんだろうなと思った。

私みたいに何年か経ってからこのお話をまた読む子がどのくらいいるかはわからないが、読むたびに感じ方が違うことなどに気づいたらそれはそれでおもしろい。


2.全話を読んでつながってくること


この本には「白いぼうし」を含めて全八話が収録されている。

必ず登場するのはタクシー運転手の松井さんだ。

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白いぼうししか読んだことがなかった(授業をやる上で八話全部を読んでいたら、また違ったものになっていたかもしれない……でもその分より考えてほしいことが強まってしまうこともある)が、全話を読んでみると新たな発見があった。

例えば、松井さんってタバコも吸うしウィスキーも飲んじゃうのか!みたいな。

(まあタバコ・酒などのキーワードが小学生の教材として入っているのはどうなのかと、お偉い方々はお話されるのでしょう……もちろん「白いぼうし」にはどちらも登場しません。笑)


やっぱり白いぼうしだけ単体で読むよりも、全8話を読むことで見えてくるものがあった。

「すずかけ通り三丁目」のような戦争の記憶から人間について考えさせる話(あまんさんといえば、ちいちゃんのかげおくり!)や、「くましんし」のように人間と動物について考えさせられる話などがある。

それら全部の話を読み終えると、一見ファンタジックに見えた「白いぼうし」から、「モンシロチョウと人間」というあまんきみこさんが伝えたいことのようなものが見えてきた気がした。


私が一番気に入ったのは、「くましんし」だ。

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このお話には「人間が動物の生活環境を変化させてしまった」というややヘビーなメッセージが込められているのだが、そのことを歌で表現するくましんしの軽やかさがよかった。

「こたたん山の くまたちは 人におわれて 人になる」
「人の世界に くまがすむ くまの世界に 人がすむ
 どちらがどうか わからない どちらがどうでも かまわない」

くまなど動物と同じ生き物なのに、人間だけどうして我が物顔で全てを支配しようとしてしまうのだろう。

そしてどうして互いに殺し合ったり苦しめ合ったりしてしまうのだろう。

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くましんしの言うように、どちらがどうかわからないしどちらがどうでもかまわないなんて、動物たちが本当に思っていたとしたら、人間よりよっぽど理解がある。

みんな同じ生き物なんだ。

動物も植物も人間もみんなで共生できる、もっと優しい世界になれるといいなあと考えさせられた一冊でした。


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